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MBTI:感覚と直観が分からない ~Keirseyの4気質 直観的なSPとそうでないNT~

【問題提起】

MBTIは16タイプから成る類型論だが、いきなり16ものタイプの傾向を覚えるのは面倒だ。だからKeirsey[1,2]は一様な人間集団から16タイプに至る中間回廊としての「4つの気質(temperament)」を提唱している。Keirseyの主張によると人間を分類する最も本質的な基準は知覚機能として感覚を選ぶか、直観を選ぶかであるから、4つの気質にも感覚型2つと直観型2つとがある。しかし、定義では直観型であるはずの直観+思考のタイプは直観的には見えないし、逆に直観を余り使わぬ筈の感覚+知覚タイプはかなり直観的に見える。今回はそれを指摘しよう。なお、筆者がそう感じざるを得ぬ究極の理由は結局の処、言葉の印象の相違でしかない。従ってもうお気付きであろうが混乱防止の為、Keirseyの定義ではなく筆者の感じ方としての直観にのみ、以下《直観》のように記す。

【詳細】

それではMBTIの復習から。MBTIでの性格を見る基準は先ず外向型か内向型か、次に感覚型か直観型か、それから思考型か感情型か、最後に判断型か知覚型か、の4つである。だからタイプ数は2の4乗の16になる。そして4つの内2つの基準のみを採用すれば4タイプから成る簡略化された類型論が出来上がる。Keirseyは冒頭でも述べたように人々を先ず、感覚型と直観型に分ける。そして感覚型を更に判断型と知覚型、直観型を更に思考型と感情型に分ける。こうした分類は感覚型と直観型に対し異なる分類基準を適用している点でやや一貫性に欠けるし、それに感覚型を更に思考型と感情型に分けたり、直観型を更に判断型と知覚型に分けたりする事も可能ではないのかと言う疑問も湧くが、Keirseyによれば感覚+知覚、感覚+判断、直観+感情、直観+思考の4タイプが歴史的に何度も指摘されていた4タイプに近いとの事である。過去のタイプ的解釈との関係を表1に示す。

本題に戻るが、先ず直観+思考のタイプから。Keirseyの心理テストには、

Do you like writers who
(a)say what they mean
(b)use metaphors and symbolism

それから

Are you inclined to take what is said
(a)more literally
(b)more figuratively

と言う質問項目がある。勿論、比喩的な(b)が直観型向けの選択肢である。しかし直観+感情のタイプはともかく、直観+思考のタイプが(b)を選ぶかどうか、筆者は疑問に感ずる。Keirseyは直観+感情のタイプと直観+思考のタイプを共に抽象的と見做しながらも後者に関して以下のように書いている。

◆While we cannot observe DEDUCTIVE thought, we can observe the language that make it possible. DEFINING words to LIMIT their usage is a deductive process, so too arranging words in LOGICAL ORDER to CONTROL COHERENCE, and so too is choosing words to control shades of meaning.

この文章から読み取れるのは比喩的、直截的の何れの精神か。筆者は後者と断定する。大文字で強調した箇所は実は筆者が勝手にそうしたのだが、DEDUCTIVE、DEFINING、LIMIT、LOGICAL、ORDER、CONTROL、COHERENCEの7つには、言葉の意味を明瞭化することで比喩に付き物の曖昧さや多義性を避け、言ったり書いたりした内容をあるがままに伝えようとする厳密さへの欲求が現れている。更にKeirseyは続ける。

◆Rationals are unusually EXACTING about definitions. Our words can have distinct reference only if we are CAREFUL in defining them, and so NTs make distinctions, lots of them, most of time.

RationalもNTも直観+思考のタイプの意味だ。EXACTING、CAREFULも筆者が勝手に大文字化したのだが、やはり言ったり書いたりした内容が受け手に伝わった段階で多様化するのではなく、額面通りの意味に収束するよう奮闘している様子が窺える。よって、こうした傾向を有する者が、metaphorsymbolismfigurativelyで示唆される側に立つか、筆者には甚だ疑問に思えてならない。Keirseyが直観と思考を選んだとするタイプは、筆者をして言わしめれば"反イマジネーション力"に優れた"《反直観型》"だ。

次は直観+感情のタイプ。Keirseyの直観+思考のタイプはDEDUCTIVEを初めとする厳密で正確で論理的な傾向故、《直観的》とは言い難いが、直観+感情タイプは《直観的》であり、その強烈さは感情的な面が霞んで消えてしまう程である。例えば、以下の様な記述がある。なお一部の語の大文字化は筆者が強調の為勝手に行っている。

◆Idealists are naturally INDUCTIVE in their thought and speech, which is to say that they move QUICKLY from part to WHOLE, from a few particulars to sweeping GENERALIZATION, from the smallest sign of something to its entirety.

INDUCTIVEは「帰納的」の意味だが、帰納的推論に於いては何処かで個別例から法則へと飛躍するステップが存在する。この意味で帰納は直観的である。この他、QUICKLY・WHOLE・GENERALIZATIONも帰納的な飛躍を示唆する語である。なお、idealistは直観+感情タイプの呼称の1つだ。更にKeirseyは続ける。

◆With their focus on UNSEEN potentials, on the not visible and the not yet, Idealists show an extraordinary SENSITIVITY to HINTS of things, mere SUGGESTIONS, INKLINGS, INTIMATIONS, SYMBOLS. To be sure, such inductive inferences, requiring what is called the "INTUITIVE LEAP," can be astonishing on others, especially in case of MIND READING and EXTRA-SENSORY PERCEPTION.

UNSEEN・SENSITIVITY・HINTS・SUGGESTIONS・INKLINGS・INTIMATIONS・SYMBOLS・INTUITIVE LEAP・MIND READING・EXTRA-SENSORY PERCEPTIONと言った具合に直観を示唆する、或いは直接示す語が続出している。ここでは意図的に直観+感情タイプの感情的側面よりも直観的側面が出ている描写を引用している。従って同様の傾向は上述の直観+思考タイプにも見られると思えるが実はKeirseyの主張を信ずる限り、そうではない。冒頭でも触れたように、直観+思考タイプは極めて論理的で、その定義に反し《直観》を持たぬかの如くである。従って、直観+思考のタイプは《非乃至反直観的》、直観+感情のタイプは《直観的》に見える。何故だろうか。思考、感情、直観と言った語は全て心理学上の専門用語であり、日常語と完全に一致しない為かもしれない。従ってそうしたズレをもっと大胆に許容するならば、例えば感覚型の感覚的な部分が思考や感情や直観に見えるかもしれない。

それから感覚+知覚タイプ。Keirseyの感覚+知覚タイプの性格描写を見ると、かなり《直観的》、少なくとも直観+思考タイプよりは《直観的》である事に気付かざるを得ない。Keirseyから引用する。

◆In school Artisans tend to be interested in ARTCRAFTS, where they can practice the required techniques.

Artisansは感覚+知覚タイプの別称。ARTCRAFTSを大文字化したのは筆者だが、ARTCRAFTSは直観を持った内向型の世界であるとするのがMBTIの創始者Myers[3]の考え方だったから早速矛盾が生じている。

↑実に、画家として独立し創作活動を行う積もりの若者の91%が直観型・76%が内向型である。それから別の箇所。

◆Artisans see themselves, and wish to be seen by others, as BOLD, DARING, VENTURESOME---AUDACIOUS.

◆To be IMPULSIVE, SPONTANEOUS, is to be really alive.

BOLD、DARING、VENTURESOME、AUDACIOUS、IMPULSIVE、SPONTANEOUSは例によって筆者が勝手に大文字化したが、何れもスピードや勇気、決断力を感じさせる語である。而るにMyersはこうした傾向を寧ろ直観型に見ているようだ。

◆植民地時代の初期のアメリカでは、新世界の可能性は感覚型人間よりも直観型人間を多く惹き付け、潜在的な選択要因が増大した。アメリカの植民地は大勢の直観型人間を引き寄せ、大部分の感覚型人間はイギリスに残ったのだと考えれば、両国の国民性の違いが有る程度説明出来るのである。イギリス人に見られる、堅実性と保守性、忍耐強さ、ゆっくりと午後の紅茶を飲みながら週末を楽しむ習慣等は、自分達の世界をあるがままに受け入れ、尊重する感覚型に属している。これに対して「アメリカ的個人主義」や「ヤンキー気質」、「より大きく、より優れたもの」を有難がる習慣等は、絶えず新しい可能性を求める直観型人間に特有のものである。

Myersの感覚型は堅実で保守的だが、Keirseyにとってこれは感覚+判断タイプに限った傾向である。一方、Myersの直観型はその大胆さに於いてKeirseyの感覚+知覚タイプに比肩する。ここで述べた事はKeirseyとMyersの性格描写のつまみ食いでしかないが、前者の感覚+知覚タイプが後者の直観タイプの相当する可能性は十分、あると思う。そして最後の極めつけはKeirseyによるISFPタイプの解説。

◆Although ISFPs excel in what are called the "fine arts," composing must not be thought of as only writing music, but as bringing into SYNTHESIS any aspect of the world of senses.

SYNTHESISを為しうる機能として「無意識の中にある内在的な観念や連想を外界の知覚対象に付加する間接的な知覚」は有力候補となるだろうが、「」の中、実はMyersの直観の説明だ。従ってKeirseyの感覚+知覚タイプはその描写が日常語的な意味で《直観的》に見えるに留まらず、実際にMyersの定義に於ける直観型である可能性がある。

最後に感覚+判断タイプ。直観+感情タイプは間違いなく直観的、感覚+知覚タイプも理論上直観を抑圧している筈だがそこそこ《直観的》である。逆に直観+思考タイプはその定義にも関わらず、直観を徹底して排している《反直観型》のように見える。Keirseyは感覚+判断タイプの話し方を以下のように述べている。

◆Guardian speech is coherent in the associative sense, which means they move from one topic to another associatively rather than deductively or inductively, as do Rationals and Idealists. When Guardians are reminded of something, however distant from or unrelated to the topic at hand, they mention it.

inductivelyで示唆される大きな飛躍はGuardianつまり感覚+判断タイプには見られないが、直観の真空地帯へ思考が進出して生ずるような話し方、即ちdeductivelyが示唆するような論理の展開も感覚+判断タイプの得意技ではない。coherentとdeductive、近い関係にある様に綾紫は思うが、措く。Keirseyは更に続ける。

◆On topics that interest them Guardians are able to store an enormous fund of facts, which that will call up and, again, freely associate in conversation.

freely associateという句は感覚+判断タイプにもある程度の直観が存在する事を示しているが、そこには直観+感情タイプや感覚+知覚タイプで感じた程の奔るエネルギーはない。そして注目に値する部分。

◆Such conversations are interesting to all who participate, since each is speaking of what is pertinent to his or her own life, but no single topic is pursued at length, and issues, if surfaced, tend not to get settled. SJs are very good at this sort of small talk, something their opposites, the NTs, are very poor at --- which puts the SJs firmly in the social driver's seat and the NTs in the trailer.

SJ/NTはそれぞれ感覚+判断タイプ/直観+思考タイプの別称。感覚+判断タイプは雑々たる会話に優れている。雑々たる会話は多様な概念の海を漂流する行為、と考えればそこで自由に働く機能は《直観》を措いて有り得ない。従ってそういう話し方の苦手な直観+思考タイプは実は《直観》を最も欠いたタイプになる。結局、感覚+判断タイプは直観+感情タイプや感覚+知覚タイプに比べ、余り《直観的》ではないが、だからと言って直観+思考タイプ程《直観》から遠ざかってもいない、普通の人である。

【結論】

以上をまとめると表2のようになる。

いかがだっただろうか。これが直観と直感の混同でなければ幸いである。

[1]D.Keirsey、Please Understand Me 2、Prometheus Nemesis、1998。Keirseyの最新作。
[2]D.Keirsey・M.Bates著、沢田京子・叶谷文秀訳、人間x人間 セルフヘルプ術、小学館プロダクション、2001。Please Understand Me初版の訳。
[3]I.B.Myers著、大沢武志・木原武一訳、人間のタイプと適性、リクルート、1982。MBTIの原典。

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