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エニアグラム:統合の方向とウィング・そしてハーモニックトライアド

本稿はかなり以前にその原形を作成したものである。従ってハーモニックトライアドの名称が現代の翻訳とは若干、異なるが了承されたい。エニアグラム(enneagram)の定説[1]では、9つのタイプ毎に混合の可能性のある4つのタイプがある、とされている。先ず、不健全な状態又はストレスを受けた状態に於いて発現する"分裂の方向"にあるタイプ、健全な状態又は安心した状態に於いて発現する"統合の方向"上のタイプ、そして発達のレベルとは特に関係なく発現する"ウィング"と呼ばれるタイプである。分裂の方向と統合の方向はエニアグラムの矢印とその逆の向きであり、ウィングは両隣の何れかである為、何れのタイプも他のどのタイプの様相を帯びるか、決まっていることになる。尤も、筆者は必ずしも納得していないが。それはさて措き、分裂・統合とウィングをまとめると表1のようになる。

ところで話は飛ぶが、エニアグラムの世界には9つのタイプを理解する道筋として、3X3に分割して考えることが行われる。その中でも最近注目されているのがハーモニックトライアドである。これを表2に示す。

表2に於いて英語名はRiso[2]に拠った。日本語名は適当に意訳した。「熱血派」は8・4・6である。挑戦者的で指導者的なタイプ8、芸術家肌で敏感なタイプ4が理性的・楽天的であるよりも熱血的であることに異論はなかろう。外に出すか、内に秘める余り儚げに見えるかどうかは措くとして。タイプ6が熱血派とは意外かもしれない。しかし、タイプ6を特徴付けている鋭敏な警戒心は先ず第一に楽天的精神とは大きく異なるものであり、第二に理性的分析の及ばぬ所でこそその威力を発揮するものである。またタイプ6は忠実な人、とも呼ばれるが、忠実さは、楽天性が混じれば日和見主義に、理性が混じれば打算に堕してしまうであろうから、何の根拠もなく先験的に忠実さを保つのが真の忠実さである。この意味に於いてタイプ6が熱血派であることに何ら不思議はない。このような激しい「熱血派」に、これまた激しい大自然の象徴である緑色を与えよう。

「楽天派」は9・2・7である。タイプ2は主として対人面で親切心のある所敵なし、タイプ7は主として自分で見つけた可能性の面で実現を阻む障壁なし、という楽天的意識を抱いている。タイプ2・7とは対照的に、タイプ9は余り活動的ではないが、実は不活動の理由の1つとして、周りの環境が望む方向に勝手に動くであろう、という予定調和説的な世界観が挙げられる。従ってタイプ9も楽天的世界観をタイプ2・7と共有していることになる。そして楽天的側面が表に出るタイプ9は外向的な印象を周囲に与える。Naranjoはタイプ9をSheldonの"内肺葉型"と同一視している程だ。無論、タイプ9・2・7も人である限り悩みを持っているであろうが、他のタイプ程ねちっこくは表現しない。このような「楽天派」には、感情の豊かさを象徴する赤色を与えよう。

「理性派」は1・3・5である。理想と非理想を峻別し、物事を抜かりなく前者へ向かわしめるタイプ1の観念的理性。予断や偏見に惑わされず、混沌たる現実界に普遍の法則を見るタイプ5の理論的理性。タイプ3は必ずしも周囲の人間に、理性の権化の如き印象は与えない。しかしタイプ3的な、その場その場に適応して巧みに生きる力の根底には、状況に惑わされない冷静な精神を見ることが出来る。実際、エニアグラムのタイプ判定テストでタイプ3に相当する選択肢には、理性的計算を意味するものが多い。E.Frommの市場的性格はかかるタイプ3的理性が結晶化したものだ。このような「理性派」には冷静さを象徴する青色を与えよう。

ハーモニックトライアドの説明が長くなってしまった。それにしてもハーモニックトライアドを本能・感情・思考センターと結び付けたくなる、即ち8・4・6の熱血派を本能センターのタイプ、9・2・7の楽天派を感情センターのタイプ、1・3・5の理性派を思考センターのタイプとして位置付ける誘惑に駆られるのは、綾紫のみではあるまい。さて、表1・2を良く見ると、何か気付くことはないだろうか。 分かり易くするため、表1を着色し改めて表3とする。

そうするとタイプ8にとっての統合の方向にあるタイプは2だが、タイプ2はタイプ8に於けるウィングたりうるタイプ7・9と共に「楽天派」に属している。同様に、タイプ1・4・5に於ける統合の方向のタイプとウィングたりうるタイプは同じハーモニックトライアドに属する。従って、全てのタイプに該当することではないが、両方のウィングを発達させる事が、ハーモニックトライアド内の類似性を通じ、統合への起爆剤になる、という仮説が成立する。

余談だが、攻撃的タイプ(8・3・7)を緑色、依存的タイプ(1・2・6)を赤色、後退的タイプ(9・4・5)を青色で示せば、

のようになるし、本能中枢のタイプ(8・1・9)を緑色、感情中枢のタイプ(2・3・4)を赤色、思考中枢のタイプ(5・6・7)を青色で示せば、

となるから、分裂・統合の方向とウィングの関係は明確ではなくなる。

以上簡単でしかも一部のタイプにのみ関係することであるが、統合の方向とウィング・そしてハーモニックトライアドの関係に基づき、両方のウィングの発達が統合に結び付くという仮説を提示した。これがエニアグラムに於けるタイプ間の関係の理解に少しでも役立てば幸いである。

[1]D.R.Riso・R.Hudson著、橋村令助訳、性格のタイプ 増補改訂版、春秋社、2000。完全に訳しただけでも大変な労作。
[2]D.R.Riso・R.Hudson著、Wisdom of Enneagram。邦訳はあるが、まだ一部が「基礎編」として出ているのみ。

補遺:色遣いだが、

  • ガッツセンター/自己主張型/反応型:緑

  • ハートセンター/追従型/楽観型:赤

  • ヘッドセンター/遊離型/合理型:青

で表現した。これは取りも直さず

で示したように、綾紫が勝手に考えている、センター/Horney/ハーモニックの類似性を反映したものである。今日はここまで。


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