MBTI:感覚と直観が分からない ~直観型は理学部でも工学部でも美術専攻でも精神医学でも~
今回の話題は感覚と直観である。MBTIに於いては外向と内向などの対立概念からなる4つの次元
●E(外向) vs I(内向)
●S(感覚) vs N(直観)
●T(思考) vs F(感情)
●J(判断) vs P(知覚)
を組み合わせることにより、16のタイプが導出される。術語としての対立する概念である内向と外向や思考と感情は日常語の世界に於いても対立語のようでわかりやすい。実際、綾紫は自身のタイプをITのどれか、と思っている。
実際にはINFPと思っていたらENTJだった、即ち外向/内向と思考/感情が再考すると同時に誤解だった例もあるので絶対とはいえないが。
外向/内向や思考/感情に比べ、感覚/直観はどうであろうか。我々は通常、曖昧さのある思考もどきの精神的活動を感覚とも直観とも呼ぶことが多く、結局感覚と直観は同義語のような気がする。もっというと、
●思考(厳密) vs 感情=感覚=直観(曖昧)
のようである気がしてならない。そしてこの「気がしてならない」という表現こそ、感覚的とも直観的とも称される表現である。
そこで術語としての意味を探ると、Myersによれば[1]感覚は五感を通じての知覚、直観は無意識の中にある内在的な観念や連想を外界の知覚対象に付加する間接的な知覚である。この定義に字句通り基づくならば感覚・直観何れがタイプ的に優位かによらず、時間軸上で優先的に働くのは感覚になる。なぜなら直観は感覚に対して「付加」という動きを伴って働く機能だからだ。動きを表す言葉には動く前、後といった時間的な概念が含まれている。更に直観は二次的に働く機能であれば、感覚に対して知覚機能の地位を争うのではなく、寧ろ思考や感情と共に判断機能の地位を三つ巴で争うことになる。そうであれば、2者択一式で16タイプに至る考え方自体が間違っていることになる。
それでは抽象的な定義に深入りすることは避け、感覚と直観の具体的な現れ方(人物像)を見てみよう。感覚型は
●文字や言葉を通じて来るものを真実味に欠けると思う
●結論を出す際にその正しさを確かめようとする
●推定上の事柄を信用できないと思う
●象徴に対する本能的感受性に欠ける
●思慮深く用意周到
等と、直観型は
●思想や行動の先駆者・改革者に多い
●大学 特に入学の厳しい大学に多い
●問題を無意識に猛スピードで処理してポンと答えを出す
等とMyersによって描写されている。また統計もあり、平均して42%の直観型が
●人文学部・法学部:59%
●工学部:65%
●理学部:83%
●美術専攻:90%
と増えていることが示されている。更に医学に於ける専攻で見ると、外科や産科には感覚型の医師が多く、精神科には直観型が多い、とされている。
それからちょっと横道に逸れるが、性格テストの選択項目もタイプ・機能の定義の手っ取り早い代用品と見做すことができる。例えば最近日本語訳が出たKeirseyの人間x人間 セルフヘルプ術[2]を取り上げよう。初めのほうに、
●現実主義的 vs 哲学的
●実際的 vs 独創的
●事実に興味 vs 比喩に興味
●基本的なことが大切 vs ニュアンスが大切
などの2者択一式のテストが掲載されている。無論、左が感覚型、右が直観型だ。こういった感覚型と直観型の相違は少数の項目、例えば直観型は理学部でも工学部でも増えているといった傾向にのみ着目するならば、それなりに理解できることである。理学部でも工学部でも増えているのが直観型ならば、直観型は理科系人間になる。しかしもし直観型が理学部でも工学部でも美術専攻でも精神医学でも増えているとなれば、直観型一般について一貫した人物像が描けるか否か、疑問が湧いてくる。理工学に関心のある人間がそうでない人間に比べ、美術へ強い興味関心を有しているであろうか。理工学へ進んだ人間の人生の歯車が少しずれ、医学へ進んだならば、外科・産科よりも精神科へ進む確率が高いだろうか。それに感覚型の特徴が"思慮深い"、"事実に興味"、"基本的な事柄が大事と思う"であるならば、理工学は寧ろ感覚型のパラダイスとなり、直観型が輝くのはせいぜい、量子力学の解釈論か或いは科学史・科学哲学の世界だけ、と思うのだが如何であろうか。それに直観型は入学の厳しい大学に多いとあるが、直観型の他の面である"独創性"や"哲学志向"は、日本に限った話ではあるが、明らかに受験戦争の勝者に欠けている点であるから、到底信用できない。
こういった混乱が生ずる1つの原因として、感覚・直観が具体的な人間の形で現れる場合、必ず外向・内向や判断機能である思考・感情と混じった形になるため、生の感覚・直観を具体例から記述するのが非常に難しいことが挙げられるかもしれない。即ちESTPタイプの感覚とISFJタイプの感覚を本質的に同じ機能であるとして、またENFPタイプの直観とINTJタイプの直観を同じ機能として見抜くのは筆者のような素人の力量を超えている[3]。そこで16タイプの個別的性格を正しい出発点と見做し、帰納的に感覚・直観を明らかにしたいと思うのだが、結果はおそらくかなり先になるだろう。
[1]I.B.Myers著、大沢武志・木原武一訳、人間のタイプと適性、リクルート、1982。MBTIの原典。
[2]D.Keirsey・M.Bates著、沢田京子・叶谷文秀訳、人間x人間 セルフヘルプ術、小学館プロダクション、2001。MBTIの外典。但し原書は内容が大きく改定された第2版に既になっている。
[3]L.Thomson著、Personality Type、Shambhala、1998。タイプの解釈がユニークで、特に内向的感覚と内向的直観、内向思考型の何たるかに関する説明は秀逸。外向感覚型・外向直観型とは全く異なる。これだけでも機能に関する一貫した理解の困難さが覗われる。但しユニークである分だけ、外典のそのまた外典かもしれないから要注意。
補遺:本文中で理学部83%等としてきしたが、証拠として文献[1]の原書の図を引用する。なおSSRとは各分野におけるタイプの母集団に対する増減率であり、1より大きければ好まれている事を示す。
次いで医学の各診療科に於ける分布を挙げる。