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無言電話

こんな夜中に鳴る独特な着メロに俺は憂鬱になった。 

そう、それは、




俺は一分間躊躇った。 

囁く様な「ごめんね」の後は何も聴こえて来ない無言電話。 

ひたすら耳に当てているだけのスマホは彼女の「ただ、繋がっているだけで安心できるの」と言われた存在確認の為の沈黙なんだ。 

二人の距離を計っているのは、呼吸音の微かな気配だけの残酷な時間が流れて行く。 

これくらいしかして上げられない俺は、なんて情けないんだろうと、毎回毎回落ち込む自分が嫌なんだ。



その内に、突然、
ラインの画面が立ち上がり、
「ありがとう。」のメッセージが浮かび上がる。


暗転の画面に、俺はやっと、やるせない溜め息をぶつけるんだ。







そう、繋がるまでの一分間。
貴方が躊躇ってるのが痛いくらいに伝わってくるんだけど、コール音が貴方を呼んでいるって思うだけで気持ちが昂ってしまう。 

そんな私は、つくづく女なんだなって諦められずに、その一分間にドキドキしてるんだよ。


ありがとう。


そんな気持ちすら言葉にできないほど私は貴方に依存してるんだよ。




俺は知っているんだ。 

着メロが鳴る前の彼女の躊躇を。 

消える画面を何度も立ち上げ直して、俺の番号とにらめっこをして、
やっとの思いで触れられた画面。 

そんな意を決したコールが、着信と共に一瞬で目に浮かぶから、出来れば居留守を使いたくなってしまうんだ。 

言葉もなく音もない沈黙の通話状態での二人の繋がりには、明らかな温度差が見えているんだ。 

だけどそれは、敢えて言葉で伝えなければならない違和感ではなくて、
そんな時間を共有していると言う、解り合えている温かさの違いなんだ。





耳に当てたスマホの向こう側には、確かな貴方の存在が感じられているから、それまでに溜め込んだ、我慢や躊躇や勇気や本心をどんな言葉を選んで、どう話したとしても、きっとどれもこれも、正しくなんかない。 

ただ、繋がってさえいれば、今、貴方は私を感じていてくれている。
その時間が何よりも尊い。




厄介だな、
真夜中過ぎの朝とも言えない時間帯の静けさを、より一層に曖昧な味付けにしてしまう無言電話。 

今日の終わりなのか、一日の始まりなのか、会いたいのか、会わなくてもいいのか。 

「ありがとう。」の意味を深読みしなければならないなんて。

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