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七夕の夜に

仰ぎ視る満天の星空。

この地上から確認できる一つ一つの星の全てが名前を授かっているのだろうか?
ベガはこの数千億とも思われる星屑の優雅な大河の流れの中にいるはずの、たった一つのアルタイルを探し出す事ができるのだろうか。

今、見えている星々の輝きの中には、何億光年の距離を隔てやっと頭上を彩っている光さえあると言うのに、
俗世間に侵されてしまった彼女が、この感動的なパノラマの元に始めて立った時に放った言葉は、
「わっ、気持ち悪」だった。

舗装された市街地の道路から外れて砂利道に入り、やがて砂利が岩に変わる頃から急な登りの林道になっていた。
くねくねガタガタと2時間もの間を四駆を頼りに走り続けて、やっと到着した絶景スポットだった。

どうしても七夕の今夜、このあり得ないロマンチックな満天の星空を彼女に見せたくて、遥々と走り続けて来たのに。

確かに、ここにたどり着くまでのたった数時間の時間など、この星々が放った光の旅路の距離に比べてしまったら、そんなモノは苦労などとは言えやしないけれど、
俺が彼女のために用意したこの星屑のステージで、降り注ぐ星輝に対しての第一声が「気持ち悪。」だったとは、予想外の反応だった。


ここにたどり着くまでの途中の市街地で、彼女が寝ていた隙に一人で立ち寄ったコンビニで買った、安いパック詰めの苺のショートケーキを差し出すと、
そのケーキを両手で抱え、満面の笑顔を浮かべて喜んでくれたんだ。

「ええぇ~っ、そっちかい!」

的外れなロマンチストの空回りがより一層、ブンブンと虚しい音を立てて天空に舞い上がって行った。



折しも、季節は梅雨。
こんな雲一つない満天の星空の下を、湿度の低い爽やかな夜風が、夏草を揺らしながら峰々を駆け上って、喜びに微笑んでいる彼女の頬を撫でて行った。

空を見上げる事もなく、夢心になってケーキを頬張っている彼女に、俺は一葉の短冊を手渡したんだ。
「願い事を書いてごらん。」と言い掛けようとした途端に彼女は、
さっと、それを受け取り、
あっと言う間に、その短冊で口を拭ってしまったんだ。
「やだ、これって、紙じゃん。
タイミング良く差し出すからティッシュだと思って拭いちゃったじゃんよ。」



その後、満天の星空の下で肩でも抱きながらキスなんかしよかな、なんて思いを巡らしていたら、
「オシッコがしたい。」と言いだして、

小高い岩陰に隠れて盛大に野ションをジョボジョボとなさいました。

織姫と彦星よ、すまん😣💦⤵️

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