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見栄を張ってみました

人けのない真夜中の公園で、
家に持ち帰る事が出来ないチョコを
人目を忍んで頬張るしかなかった。


有名メーカーのロゴが入った
手提げ付きの小さな紙袋の中には
ご丁寧に手書きのカードまで
添えてある。


街灯の灯りが届かない
隅っこの薄暗いベンチに座り、
クソ冷たい風にかじかむ手では
綺麗にそれでいて厳重な帯の
リボンがやけにほどき辛くて
やきもきしながら
箱を開いたんだ。



どんな気持ちで
書いてくれたのだろうか。 

確かな愛情が籠ったカードさえ
うまく開けずに
震える手では
その文字の筆圧さえ
読み取れはしなかった。


人目を避けながら
口にしなければならない
俺に取っては意味深いプレゼント。 

蕩ろける甘味に心を打たれ
ほろ苦い口解けに胸が痛んだ 

持ち帰り、
味わう事は許されない
秘密の甘さ


それなのに、
それだからこそ、
俺は
街角の汚れたごみ箱に
込められた気持ち全部を含めて
捨てるしかなかったんだ。


終電間近の夜中の風は
瞳には余りにも冷た過ぎて、
溢れでる雫を
握り潰したハンカチで拭うのには
余りにもみっともない姿だった。

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