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書いただけ

蜩の輪唱が深い緑の湿度に染み込んで
空気を淡い哀しみ色に染め上げていた。

遊歩道に覆い被さる様に張り出した
逞しい幹の枝葉が微かな風に揺らいで
路面を撫でる影が足元で遊んでいる。

「もう、無理なのかな?」

長い月日を共に過ごして来た、
聞き慣れているはずの
心地よい柔らかなソプラノに
耳障りな諦めの不協和音を含んで
他人事の様に吐き出された。


間近で鳴く蜩に邪魔され、
同意する言葉のタイミングが掴めずに
喉元につっかえてしまって
ただ、手を放した指先が
俺の意思だけを現したんだ。


住み慣れた部屋の中ではなく、
雑踏が迷い込むカフェでもなければ、
通い慣れたデートスポットでもない。


二人で訪れた記憶のない
思い出に残されてはいけない
景色を選んだ。

そんな積もりの森林公園は
避暑地の夕暮れの憐れを
惜しみ無く降り注ぎ
貴女の眼差しから
別れの決心を
雫として零れ落とさせてしまった。



今ではない、
「いつか」を覚悟しながら
その時から逃げるかの様に
より一層
固く結ぼうと確かめ合う絆

解く力を振り絞る勇気のない二人は
蜩の鳴き声に笑われながら
陰を寄り添わせ
いつもの日常へと歩いて行った。







ん?

べつに


書いただけ。

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