おやおや。
国道の橋の上、
水銀灯に照らされて、
霧雨が、揺らめきながら
真っ白なレースのカーテンの様に
靡きながら降り注いでる。
歩く速度で角度が変わり
膝下を確実に濡らすから
この季節の霧雨には
この景色程の優しさが
感じられないんだ。
音もなくビニール傘にたかる
細かい輝きの粒は、
結露の様に露を結び
それはまるで涙の様に
傘先から零れ落ちて
俺の視界に焼き付いてしまう。
「帰っちゃうんなら、
もう、来てくれなくていい。」
唐突に浴びせ掛けられた言葉が
背中に貼り着いていて
足取りが重い
来る時には
あんなに暖かった陽射しを
背中に浴びながら
この坂道を登っていた筈なのに
ドアを開けた瞬間に
見せてくれる笑顔が
本当に嬉しさが弾けていて
まるで飼い犬の様に
はしゃいで喜んで、
抱き付いてくれて。
暫くは
じゃれ着いて
まとわり着いて
離れなくて
キスの嵐。
纏まりのない話しを
矢継ぎ早に
話しっ放しで
時系列がバラバラで
意味が解らないまま
頷いて、返事して
落ち着くまでは
頭を撫で背中をさすり
肩を抱き寄せ
数時間経ってから
やっとイチャイチャ
嬉しさも
あからさまに表現するし、
恥ずかしさも無ければ、
躊躇いもない。
その瞬間、瞬間の感情を
あるがままに現し、
何もかもを
ストレートにぶつけて来る。
天真爛漫で自由奔放。
隠し事もなければ
嘘も吐かない。
感情の赴くままに行動をして
そのままの自分を晒け出して
全身でぶつかって来る。
我が儘も言えば、
拗ねたりもする。
そう感じているのは、
間違いだったんだ。
背中に浴びていた陽射しは
実は、
裏側の太陽。
明るく無邪気で
隠し事がないのではなく
彼女は
そう振る舞うしか
自分を隠す手段を
持てなかったんだ。
男が好むであろう女性像を
想像して演じ、
愛され様と偽っていたんだ。
ついさっきまで直ぐ隣にあった
あの笑顔の温もりは、
本当は、
この夜の霧雨の冷たさに酷似して
真っ暗な夜の冷たい背景を
覆い隠す様に、
「来てくれなくていい」を
リフレインしていた。
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