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カマイタチ

「俺の心は今ここにはないから、
悔しくも悲しくも、
なんともないんだ。」

スマホを右手に持ち変えて
強がりを吐き捨てた。

「それじゃ、
これ切ったら連絡先とか
写真も全部消してよね。」

彼女の望んでる事は、
この俺の右手のスマホの中に
あるのかな?

右手の手のひら一つに
収まり切っている思い出になんかには
俺の未練などはない。

厄介なのは、
今俺の心と共に居留守を使ってる
彼女と過ごして来た年月。

振り下ろした決断と言う名の刃は、
確かに何かを傷付けたはずなのに、
今はまだ
誰の心を何れだけ切り裂いたのかが
見えずにいる。

傷口の深さを推し量れはしない
空虚な時間が過ぎた後に、
いったい何れだけの血飛沫を
上げていたのかを知るのが怖い。

俺達はこんな物だけで
繋がっていただけではない事を
彼女は解っているのだろうか。

そうか、そうだったよな。

女とは、
握り潰した恋愛沙汰を
わざわざ手のひらを開いて
眺めたりはしないんだよな。

新しい誰かのポケットの中に
ちゃっかりと手を忍ばせて、
温もりの中に捨て去れる
生き物なんだよな。



あぁ~あ、
頸動脈が切れてなければいいな。


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