むらの工作室通信vol.6『デジタル×アナログでオリジナルカセットテープを作る』
今回のレポートは、むらの工作室にある3つのデジタル工作機械を使って、新譜「誰そ彼 あるいは 曙」を発表された、小林辰馬さんのオリジナルカセットテープ制作レポートです。
知ってる?カセットテープ
皆さんは音楽を聴くとき何で聴いていますか?サブスク?動画?CD?
ミュージシャンの音源発信というと、現在はデジタル配信が主流。配信音楽はインターネット経由で、いつでもどこでも聴きたい音楽にアクセスすることができて便利ですよね。
しかし、今回クローズアップされるのは「カセットテープ」。
西粟倉村で音楽活動をされている小林さんは、新譜を配信ではなく、あえてアナログのカセットテープで発表しました。
カセットテープ、ご存知ですか?
カセットテープは1980年代~1990年代にかけて流行した媒体で、音楽が磁気テープに記録されるものです。
テープなので、切れたり、劣化したりするし、専用のプレーヤーがないと聴くことができないのが難点として挙げられます。逆にいま主流のデジタル音源は高音質であり、スマートフォンなどのデバイスからアクセスすることが容易です。
だったら、デジタルのほうがいろんな人に聴いてもらえるんじゃない?
高音質の音を提供できるなら、デジタルのほうがいいんじゃない?
と思うかもしれません。が、小林さんはあえてこのカセットテープで新譜を発表することにしました。
カセットテープで新譜発表
----なぜ、カセットテープで音源を発表しようと思ったのですか?
👨「カセットテープって、僕からすると、おじいちゃんやおばあちゃんがカラオケをするときのもの、っていう印象だったんです。
でも、今になってみると、カセットテープってプロダクトとして存在感あるな、って。
カセットって、音を聴くためには、プレーヤーがないとだめだし、A面・B面あるから聴いている途中でひっくり返す必要もある。手間がかかって面倒なものなんです。
でも僕らデジタル世代にはこの「手間」がかわいいと思えるんです。
手間のかかるアナログな形で音楽を提供することで、デジタル世代の恵まれた音楽環境もわかってもらえる機会になったらいいなとも思いました。」
----アナログ、というとレコードもありますよね。最近はCDよりもレコードのほうが売り上げが高い、ということも話題になりましたが、レコードはどう思いますか?
👨「レコードって、プレーヤーのほかに、スピーカーなどすべてが揃っていないと音楽を楽しめないかな、って。」
----確かに。レコードはスピーカーなどもしっかり揃ってはじめてレコードの良さを楽しめる気がします。(筆者のレコードプレーヤーはポータブルタイプで音質がイマイチ)
👨「カセットはこの手軽な感じがよかったんです。とはいえカセットってね、媒体としてはCDより全然高いんですよ。CDは1枚100円もしないのに、カセットは1本500円!でもカセットで音楽を聴いてもらうことの楽しさには価値があると思ったんです。」
このような思いから、小林さんはカセットテープでオリジナルアルバムを制作することとなりました。
UVプリンターでテープやケースに直接プリント
----このカセットテープ、よく見ると、テープやケースに直に印刷されていますね!
👨「カセットテープに音楽を吹き込んで発表するだけではなく、“デジタルと“アナログ”の融合のような、化学反応のような体験を提供する機会にしたいと思いました。そこで媒体はアナログなので、制作にはデジタル機械を使ってみようと。西粟倉にはデジタル工作機械を備えたむらの工作室があるので利用してみようと思いました。」
真空形成機でパッケージング
👨「真空形成機を使ってのパッケージングは奥さんが頑張ってくれました。台紙には懐かしいシモジマの包装紙を使っています。子どもの頃を思い出しませんか?」
----わあ、この包装紙、懐かしい!知っています!!パッケージもデジタル×レトロの化学反応を表現していてすごい!
👨「カセットテープを作っても、プレーヤーを持っていないひとのほうが多いよな、、と思い、今回はカセットテープ単品のほかに、プレーヤー同梱バージョンも作りました。プレーヤーに不具合があっても対応できるように、仕組みも勉強しましたよ!」
----す、すごい!アフターフォローまで万全ですね!!
レーザーカッターでQRコードキューブ
👨「今回制作したのはカセットテープだけではありません。サイコロ状のヒノキ材にレーザーカッターで彫刻を施したり、UVプリンターで印刷もした木製キューブも作りました。レーザーカッターで彫刻したQRを読み取ると、アルバムのデータにアクセスすることができるんです。
データ形式の音楽にアクセスできるようにしたのは、アナログとの対比によって、アナログの温もりを感じると同時に、現在の音楽を聴く環境がいかに優れているかを感じていただきたいと考えたからです。」
デジタルとアナログの違い、化学反応を楽しむ
----音源の発表の仕方→カセットテープとデータアクセス、
媒体となるカセットテープ→アナログ媒体本体にデジタル技術で印字、
パッケージ→レトロ包装紙とデジタル真空形成機、
と、化学反応を楽しむ小林さん。あらためて、今回の企画についてその着想などを教えてください。
👨「この企画のコンセプトは4つあります。
①人の生活に寄り添う、あるいは溶け込む音楽を
すごく表現が難しいことなんですが、「主張せずにそこにある」とか、「ふと我に戻ったときに鳴っていた」とか、そのようなアルバムにしようと思いました。
②わざわざ聴こうと思わなければアクセスできない媒体を作ろう
③プロダクトとして存在感のあるものを作ろう
手触りとか、機械の動きとか、そう言った、実際に知覚できる部分を多く設けるということを大事にしました。
④自分に無い力は、なるべく人の力を借りよう
今回でいうと「むlabo」さんに印刷の技術面でお力をお借りしました。
そうして仕上がった今作は紛れもなくサイコーの仕上がりとなりました。」
👨「僕は異なるものを掛け合わせたときの化学反応が好きで。なので今回もデジタルとアナログを掛け合わせた化学反応を楽しみながら、音楽を表現してみたかったんです。」
小林さん、今回はむらの工作室をご利用くださりありがとうございました。
またむらの工作室をご利用いただき、おもしろいものを作ってください!
デジタル工作機械というと、使いたいと思うきっかけが生まれにくいかもしれません。
でも、自分が知っているものを軸にして、それをどうしてみたいかを考えた時に、デジタル機械と組み合わせたら新たなものや体験を創造することができるかもしれません。その気づきを与えてくれた小林さんの制作。
これからもむらの工作室がこういう体験を提供できる場になったらいいなと思います。
「なにかやってみたい」と思ったらぜひむらの工作室へ!
最後までお読みいただきありがとうございました。
むらの工作室の使い方
むらの工作室は開室時間中、ご自分の都合に合う時間に機械を利用してモノづくりをすることができます。
初めての方は最初に無料の講習を受けていただく必要がありますが、その後は時間料金でご利用いただくことができます。村外の方にもご利用いただいています。
まずは「ちょっと興味あるんだけど・・」の気持ちからで大丈夫です。
むらの工作室でお待ちしています!