Permanent Collection『花も嵐も』
花も嵐も
お別れがいつもひどく曖昧で
手を振りながら考えてしまう
「これで終わりにしましょう。
じゃあこれで。」の方がマシだよ
致命傷がなく 常にただ重体
死に切れない僕の体は
さまよい歩いて また今日も隣
手を繋いで寝た
花も嵐も踏み越えてゆけよ
立ち飲みに通り雨
思い出す 変な癖
知らないことをよく知ってるとこに
異常に心が惹かれてしまう
それってつまりは性格不一致
今更なんだよ
遅すぎる春を踏み越えてゆけよ
靴紐に春の風
苦しみは若さゆえ?
どうしたらいいか 分かってるけどさ
どこかであなたを信じてるよ
バカみたい
答え合わせはしないんでしょ?
「性格悪いし、君だけじゃないね」
みんなが僕の頬を叩くよ
バカみたい
なんで分かんない?
花も嵐も
踏み越えてゆけよ
どうしたらいいか 分かっててできない
あなたにさよならはしたくない
バカみたい
答え合わせが怖いんでしょ?
「改札を越えて
ホームに座って
今誰のこと 考えてるの?」
バカみたい
なんで?
「分かんない」
【解説】
『東京サーモグラフィー』の続編。
恋愛は理屈では分からないし、
どうしたらいいか分かってても
できないことの連続、
他人から見たら
バカみたいなことの繰り返しだという曲。
『東京サーモグラフィー』ショック後でも
その彼女とは
あの後何度か会う事になり、
会いはするものの、
別に進展がある訳でもなく、
ただ一緒に過ごすだけの時間。
「この時間は何なの?」
とは思ってはいるものの、
彼女も何も言わないので
口には出さないでいた。
今振り返ると
僕は都合が良かったというか、
別に暇な時間に相手してくれる人
くらいの認識だったような気もする。
そしてまたいつものように
「じゃあまた」で終わる関係というか、
それならいっそ、
「もう今日で最後にしましょう」
と言ってくれた方がマシだよなと思っていた。
多分どこかでまだ何かを期待してたんだろう。
そうやってダラダラ続く関係の中でも
不思議と
「ああ、もうこの人ないわ。」
と思うような致命傷がないので、
この関係を断つことができない。
そして核心に擦れることなく、
最後はまた隣で寝ている。
あの時は
ただこの関係の答え合わせをしなかった、
というかできなかった。
答え合わせをすることで
この関係が終わることが怖かったんだと思う。
情けない。
振り返ると彼女は世間一般でいう
性根が悪い部類の女性だったと思う。
僕も彼女の都合だけで振り回されていた部分もあったし、
周りから
「おかしくない?
てか友哉以外にも他にも男がいそうだね。」
と言ってても、
「まあそういう人だから。」で
あまり深く話が続かないように
終わらせていた。
そんなのことは人から言われなくても
自分でよく分かっていた。
彼女について
なぜそんなに好意を持ったのか、
改めて自分なりに考えてみたが、
自分よりも知らないことをよく知っていて、
人としての興味が知らない間に好意に変わっていたんだと思う。
ただこれって結局、
自分が興味がなかったことを知ってる人というのは、
自分とはまた違う人種ということでもあり、
そもそも合うはずがないということまで
気が付いていなかったし、
きっと仮に付き合ったとしても
うまくは行かなかったと思う。
「花も嵐も踏み越えていけよ
立ち飲みに通り雨
思い出す変な癖」は
一緒に名古屋駅の立ち飲み屋『魚椿』で飲んでいた時、
体感で10分に一回くらい
リップクリームを塗り直していて、
リップクリームを飲んでるのか、
お酒を飲んでるのか横から見ていて
よく分からないなと思った事を
1人で立ち飲み屋にいる時に思い出した。
「遅すぎる春を踏み越えていけよ
靴紐に春の風
苦しみは若さ故?」
は30歳手前くらいで訪れた春(恋)を
簡単に越えていけないのは、
「若さゆえの苦しみ」なのか、
分からなかった。
靴紐に春の風の部分は雰囲気で入れた。
何となくあったイメージは
春風が強く吹く日に靴紐が解けてて、
結び直す為に立ち止まった時、
ふと考えたみたいな描写。
ちなみにここの歌詞は最初、
「花も嵐も踏み越えていけよ
靴紐に春の風
苦しみは若さ故?」
「遅すぎる春を踏み越えていけよ
立ち飲みに通り雨
思い出す変な癖」
と1番Bと2番Bが逆になってて、
なぜかレコーディングの歌入れの直前に
「問いかけからサビに行った方が自然かもな。」と思い、
1番Bと2番Bの下の句というか
後半を入れ替えたが、
今では前の入れ替える前の方が良かった気もしてる。
歌詞の流れとしては自然かもしれないけど、
逆に違和感がある方が引っ掛かりができたりして、
自然なだけがいい訳でないなと
後から聞いて改めて思った。
サビ終わりが、
なんで分かんない?
と
なんで? 「分かんない」
とフレーズは同じだけど、
切るところが違うと言葉の持つ意味が変わる。
最初は「なんで分からないの?」
という自身への苛立ちではあるが、
最後は「なんで?」「分かんない」
と自分で自分に問いかけて終わっている。
タイトルになった『花も嵐も』は
映画『男はつらいよ 花も嵐も寅次郎』
から来ていて、
これの元ネタも
「花も嵐も踏み越えて
行くが男の生きる道」
という古い歌の一節から来てる。
ちなみだが
もう一ヶ所古い歌の歌詞を借りた部分があり、
「苦しみは若さ故=若さゆえ苦しみ」も
好きなグループサウンズの古い歌の一節から
引用させてもらった。
彼女は生まれる前くらいの古い歌も好きだった。
そんな風に個人的に僕の携帯の中には
いつか使いたい言葉のメモ帳があって、
映画のタイトルだったり、
セリフや歌詞の一節だったり、
言葉の響きが好きだった物も多くて、
特に意味があるものばかりではない。
言葉というものが純粋に好きなんだと思う。
『花も嵐も』もその中の一つだった。