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それから『ワゴンタイガー』


ワゴンタイガー

「問題ない。」とかよく言えるよな
楽しくもないくせに
おいしくもないんでしょ?
そういう時こそさ
なんて憎いんでしょう
フィルムにもなってない
笑ってる過去の自分

大切な物はなんだっけ?
駅裏の路地 すり抜ける絵手紙

行くも帰るも何もないよ
さらばあなたの前で泣くな男でしょ?
「夜風を肩で切り裂け。」
とブラウン管越しに言われたよ

もったいないけど どうかしてるのさ
求められたのならば犬にでもなるんでしょ? 夢を見るってのはなんて愚かなんだろう
君が好きな彼もまたみなしごなんだよ

大切な物はなんだっけ?
不可思議な夜 塗りかえる絵手紙

行くも帰るも何もないよ
さらばあなたの前で泣くな男でしょ?
「夜風を肩で切り裂け。」
とブラウン管越しに言われたよ
良くも悪くも笑えないよ
なんて始まる前の産みの痛みでしょ?
「口笛でツキを呼ぶんだ。」
と地下鉄の窓が揺れているよ

雨宿り 商店街の軒下で
あなたの声が不意に届いた

行くも帰るも何もないよ
ならばあなたの前で泣くか男だもん
「夜風を肩で切り裂く。」
とブラウン管越しに言うんだよ
行くも帰るもあなた次第でしょう
分かってるのも知ってるよ
「口笛でツキ呼んでやる。」
と地下鉄の窓を揺らすんだよ

揺らすんだよ


【解説】
20代前半くらいで映画『男はつらいよ』に
どハマりして、
『男はつらいよ』についての曲。
タイトルは
第4作で『新・男はつらいよ』で
名古屋の競馬場にて
主人公である車寅次郎が
『ワゴンタイガー』という馬がいて、
ワゴン=車、
タイガー=虎
という事で、
「これは俺の名前だ!」
という事で有り金を全部賭けて大儲けする話があって、
『男はつらいよ』を曲にするなら
ワゴンタイガーにしようとずっと思っていた。
歌詞に出てくる
「泣くな、男でしょう」は
『男はつらいよ』は
実は映画になる前はドラマで放送されていて、
そのドラマの前身的なポジションであった
渥美清主演の『泣いてたまるか』というドラマがあり、
そこから取った。
『男はつらいよ』のドラマは最終話だけ見たが、
寅さんが旅の途中でハブに噛まれて死ぬ
というとんでもない終わり方で、
非難が殺到し、
映画を作ることになったという逸話がある。
確かに大らかな時代だと思うが、
とんでもない終わり方だった。
しかしこの『泣いてたまるか』は
淡々としてるけど、
なかなか心情に迫ってくる
胸が苦しくなるような話が多くて、
渥美清フリークの僕でも
途中で見るのをやめてしまった。
絵手紙が出てくるのは、
映画『男はつらいよ』の最後が
いつも絵手紙で締めていたので、
その流れから。
車寅次郎みたいな
夜風を肩で切り、
口笛を吹きながらフラフラと
感情的で、
行動的で自分本位で、
愛する人に優しく生きられたらどんなにいいか、
そう思うけどなかなか真似できる事ではない。
ある意味では人間らしいけど、
現代では世捨て人としか言いようがないが、
叶わないからこそ
ああいう生き方に憧れている。
僕の記憶では
『男はつらいよ』には
後期とかサラリーマンが出てくる時には
あったかもしれないけど、
電車のシーンは多い中、
寅さんが地下鉄の乗ってるシーンはなくて、
あの時代にはなかった乗り物
=地下鉄
=僕らが暮らしている今の社会
みたいなイメージだった。
ブラウン管越しに言われるのは、
テレビで『男はつらいよ』を観ている状況の事。

毎日が全然楽しくないし、
自分がおいしいと思えるような出来事もなく、
ただ人には心配掛けないように
みんなから外れてしまわないように
「問題ない」としか言えない。
今を全部を捨てるなんて
もったいなくてどうかしてるけど、
求められたら犬にでもなれる程、
寅さんのように
自分が思うがまま
自分らしく生きられたらどんなにいいだろう。
僕なんて、私なんて、
どこに行ってもどこかに帰っても何もない。
そう思ってもそんな気持ちには
気がついてないふりをしている。
でも本当は自分でも
それは自分次第だって分かってる。
寅さんのような
ある意味では自堕落的な生き方をすることが
ただ分かりやすいだけで、
それが本当の自分らしさではないはず。
今あなたが怖くて笑えないのは
何か新しいことが始まる前に起きる
産みの痛みであって、
良い事なんだよ、
だから何にも心配いらない、
あなたはあなたのやり方で
この社会を自分らしく生きていってね。
そんなイメージの歌詞。

エピソードとしては
「夢を見るってのはなんて愚かなんだろう
君が好きな彼もまたみなしごなんだよ」
のところで、
ここは姉に昔、
「あんたも早くバンドなんて
しょうもない夢を見てないで、
普通に働きなさい。」
と言われたことがあって、
「じゃあ姉ちゃんは
オレンジレンジもモンゴル800も聴くなよ。
あいつらと俺とは
売れたか、売れてないかだけであって、
しょうもないことをやってるのは
一緒なんだよ。」
と言い返したことがあった。
出てくるバンドに時代を感じるが、
あの時は純粋にそう思っていた。
姉はただ僕を心配していただけなのに
酷い弟だと今では分かる。

歌詞を『男はつらいよ』にしばり過ぎなかったからか、
割とこの曲は男女問わず、
好きだと言ってもらえることが多い印象があって、
恋愛ばかりの明日、照らすの曲の中でも
ちょっとタイプが違う曲として今でも歌ってる。


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