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通貨の歴史に学ぶ「創造的テーマ」が駆逐される訳

こんにちは #金曜日はカネ曜日
ファイナンス担当のけんたろです。

今回のテーマは新規事業やオペレーション改善など創造的テーマがなぜ駆逐されるのか、貨幣の歴史を振り返りながら背景を押さえていきたいと思います。

まずは貨幣の歴史から

「悪貨は良貨を駆逐する」という名言をご存知でしょうか。

グレシャムの原理の生みの親。彼が発見した原理というより、彼が実経済の中で改善に向けた提言をしたことで原理に名前が冠するように

イギリス王室の金融代理人のグレシャムが、金/銀の含有量が多い良貨が外国へ流れ、逆に少し部分的に欠けていたりする悪貨ばかりが国内に流通する様子を見て、当時の女王であるエリザベス1世へ”貨幣誤差の許容範囲を公差に留めるよう”進言したことが由来とされるようです。

悪貨・良貨どちらが市場流通するか、そのヒントはあなたならどちらが欲しくてポケットに留めるか?

では、なぜ悪貨ばかりが市場で流通する=良貨を駆逐するのか。例えば上図のように2種の同額のコインがあったとします。1枚は良貨、1枚は悪貨。
どれだけ金銀含有量が異なったとしても、コインとして使える価値はそこに記載されている金額以下でも以上でもありません。全く同じです。

そうすると、僕なら、良貨を手元に置いておき、日々の支払は悪貨を使うように徹底します。同じ価値なら、実質的な価値が高い良貨を手元においておきたいですよね。もし有事の際に物々交換を行う必要性が発生した際に有利なのは良貨でしょうし。

このように通貨としての価値と、貴金属の希少性(モノ)として価値の二重性の価値があり、更にそれら価値に乖離が生じた場合、悪貨が先に使われ市場に流通するようになる=悪貨が良貨を駆逐するようになるんです。

二重価値のために悪貨が市場で流通するようになる

ここまでが貨幣の歴史です。
そしてここからが本題。タイトルの「創造的テーマが駆逐される訳」について触れていきます。

計画のグレシャムの法則:ルーチンワークによって駆逐される創造的テーマ

さきほどまでの硬貨の話を業務に置き換え、「計画のグレシャムの法則」として提唱されたものがあります。
提唱者は1978年ノーベル経済学賞を受賞しているハーバードサイモン。
ちなみに、数々の経済学賞受賞者を調べてきましたが、サイモン氏は大好きな学者の一人です。情報科学や心理学、政治学、経済学などバックグラウンドは幅広く、各領域の専門性を組み合わせ新たな論理を紡ぎ出す天才です。

多種の分野の組み合わせから新たな論理を建てる天才。憧れます…

彼の提唱した論理についてこちらで端的にまとめられていたので引用いたします。

「そもそも人間は、目の前に大量のルーチンワークを積まれると、その処理に追われ、創造的な仕事を後回しにしてしまう傾向がある。創造的な仕事とは、仕事のやり方自体を根本から変えるとか、長期的な展望を描いてみるといった作業のことである『ルーチンワークは創造性を駆逐する』。ハーバート・サイモンの言う意思決定のグレシャムの法則(計画のグレシャムの法則)である。つまり、日々ルーチンな仕事に追われている人は、ルーチンな仕事の処理に埋没して長期的な展望とか革新的な解決策とかを考えなくなってしまう、ということである。
(中略)
不確実性が高まり、例外処理のためにヒエラルキーがパンクしはじめると、組織全体が意思決定のグレシャムの法則にはまりこんでしまう。管理者・経営者たちが目先の例外処理に追われ、長期的なことや抜本的な改革を後回しにし始めるのである。」

出典 『組織戦略の考え方――企業経営の健全性のために』 沼上幹著 ちくま書房2003年


ルーチンワークは創造・改善の変革を駆逐する

確かに日常でも、「ここ課題だし、企画作るか!」って思うことがあっても、なかなか筆が進まず、気が付いたらルーチンワークに汗かき1日が終わったこと、何度かあったなと思いだします。
皆さんも思い当たる節ありません?

では「ルーチンワーク」に「創造的テーマ」が駆逐されのはなぜか。
グレシャムの法則と同じく二重の価値に注目してみたいと思います。

ルーチンワークと創造的テーマの二重の価値

ルーチンワークvs創造的テーマ。こりゃルーチンワークの方がええやん

▼複雑性
少し脱線しますが、ある幼稚園で子供の帰りのお迎えが遅れる親御さんが居り、幼稚園側は対策として遅刻した場合500円請求するというルールを取り入れたんですよね。
結果、遅刻してくる親御さんが圧倒的に増加したみたいなんです。お金を払うことで逆に遅刻へのハードルが下がっちゃったというらしいです。
このようにヒトの行動って容易に予見できない着地をすることも多々あるんですよね。業務もそうで、ある観点では良かれと思って変えた制度が予期せぬ波及をするケースも多々あります。
創造的テーマはまさにそんな複雑さにまみれた業務だと思います。新規事業の提案をしたと思えばカニバリのヘッジも考えないといけないなど…
一方ルーチンワークは単純で無我夢中になれちゃう業務ですよね。

▼成果の確度
ルーチンワークはやればやるだけ確実に成果がでます
一方創造的テーマはどうでしょう。やってもやっても成果はでない。イノベーションは1000分の3の成功率だとも言われます。即ち残りの997回は成果なしなんですよね。成果が約束されたテーマでないという点も特徴だと思います。

▼周囲の関心
経営者がいくら全社集会で「わが社に必要なのは変革だ!」と声高々に叫んでも、現場は全く変わらないと確信しています。
上司も先輩も関心があるのはルーチンワークであることがほとんどです。それはなぜか過去にnoteにまとめてますので、もし関心もっていただけたら覗いていただけると嬉しいです。
経営の方針とは不釣り合いなほど、多くの会議ではルーチンワークについて時間を費やすようです。

▼締め切り
ルーチンワークは明確な締め切りが敷かれることがほとんどです。一方、創造的テーマは締め切りがないこともしばしばあります。
数年前の上司から「企画は締め切りを自分で設定しないと永遠机の上で鉛筆舐めるだけで何も仕事しないことと同じやで」とよくご指導いただいてました。
言い方を変えるといつでもできる仕事は創造的テーマ。重要度は低くても、今やらないといけないのがルーチンワークだったりもするんですよね。

一方、こんなに状況の中、皆さんの給料はルーチンワークと創造的テーマどちらを取組んでも同じ。下手をすると評価ですら同じ尺度で測られることもしばしばあるんじゃないかと思います。
まさに硬貨の事例と同じく二重の価値が存在していますね。
そして、ここで個人に視点を戻すと、同じ価値ならば、より単純で確実で周囲からも関心を持ってもらえるルーチンワークに取り組む方が大多数になるのではないでしょうか。
これが計画のグレシャムの法則が生み出される背景になります。

計画のグレシャムの法則を打破するために

では、どうやってルーチンワークを駆逐したらよいのでしょうか。
複雑さ・成果の確度は不変のものになります。誰かが変革のテーマを単純にし、確実に成果が出るものに変えれるものではないですよね。
そして、給料・処遇面はどうか。人事制度を容易にテコ入れもできないですよね。

そこで目を付けるべきは、「周囲の関心」と思っています。

みなでルーチンワークに無関心になろう。なんなら軽蔑しよう。

SNSのいいねが脳みそに作るドーパミン同様、周囲が関心を持ってもらえる仕事の満足度は大きく跳ね上がります。
これを逆手に取っちゃうのがいいんじゃないかと思います。ルーチンワークの満足度を大きく引き下げにかかるんです。
何も難しいことをする必要はありません。周囲がルーチンワークへ無関心になることがカギだと思っています。可能ならルーチンワークへ軽蔑の眼差しを向けてみましょう。

会社は、変革せよ!と額に入れて大事に飾る言葉を作るのではなく
ルーチンワークをどのように無関心化される仕事という位置づけにするのか、制度・環境面を整えるべきなんです。

令和版グレシャムの法則は、ルーチンを駆逐する社会構造が発明されるといいなと思っています。


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