『異端の鳥(原題 : 『Painted Bird』)』を見た感想とネタバレ

ひかる「どうもみなさんこんにちは。ひかるです」

ひかる「もうすっかり秋めいてきて、だいぶ過ごしやすい季節になってきましたね」

ひかる「もう土曜日なんですが、今週はまだnoteを書いていなかったので慌てて書いている次第です」

ひかる「ところで、僕はこないだ、Amazon Prime Videoで『異端の鳥』っていう作品を見てきたので、この感想と考察を述べていきたいと思います』

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ひかる「それではウバさん、よろしくお願いします」

ウバ「はい」

ひかる「ウバさんも映画好きだそうなので、今回は割と乗り気なんじゃないですか?」

ウバ「比較的ね。ちなみにわたしはまだこの作品見てないよ」

ひかる「そうなんですね。じゃあそういう事情をさっぱり無視していきなりあらすじと感想を述べていきたいと思います」

ウバ「倫理観がないのかな?」

ひかる「ここから先は作品の解説とネタバレになります。これから見るつもりの人はお気をつけください」

ひかる「で、さっそくあらすじなんですけど、舞台は第2次世界大戦中の東欧でして、具体的な国や土地の名前は明らかになっていません。主人公はホロコーストを逃れるために、一人で田舎の叔母の家にやってきたユダヤ人の少年です。十歳くらいかな。ちなみにウバさん、ホロコーストって知ってます?」

ウバ「知ってるよ。ナチスがユダヤ人に対して行った迫害のことでしょ」

ひかる「そうです。有名ですよね。主人公はユダヤ人なので、その迫害の対象になっているわけです。で、映画の冒頭、主人公は小鳥らしき動物を抱えながら逃げているシーンから始まって、追ってきているのは同世代の子どもたちのようです」

ウバ「うん」

ひかる「結局、主人公は彼らに追いつかれて、暴行されたり、抱えていた小鳥を取り上げられて、なんと目の前で生きながら焼き殺されたりする羽目になります」

ウバ「え……生きながら?」

ひかる「そう。燃えている小鳥が悲鳴を上げながら転げ回っているシーンが映るんだけど、かなり心に刺さる光景だったね……で、ここからわかることがいくつかある。主人公は迫害から逃れるためにこの見知らぬ土地にやってきたわけなんだけど、決してその土地の人間に歓迎されているわけじゃないってこと。これもおそらく人種が関係している。もう一個は、主人公は動物好きであるってこと。後のシーンでも、犬や馬をかわいがったりしているし、この映画はなにかといろんな動物が出てくる。猫もね。この動物好きっていう設定はけっこう重要な設定なんだよね」

ウバ「ふうん」

ひかる「で、その後、主人公は涙を流しながら家に帰り、燃えた小鳥を叔母の家のそばで埋めるわけ。彼はまだ子供だから、別れた家族と早く会いたいと願う。一方で、叔母はあんまり主人公のことを愛していない様子。この冒頭だけで主人公の男の子の息苦しさが伝わってくる」

ウバ「かわいそうに……その後はどうなるの?」

ひかる「なんと叔母が急死する。なんか持病があったんだろうね、夜中、主人公が眠っているとき、別室でタライに水を溜めて足を洗ってたんだけど、そのときに亡くなってしまう。翌日、男の子は叔母が亡くなっていることに気づいて驚愕し、しかも持っていたランタンを落としてしまって家が燃えてしまう」

ウバ「うわー……なんていうか泣きっ面にハチだね……」

ひかる「そこから主人公の悲惨な日々が始まる。身寄りがないものだから、いろいろな町を転々として、そこでいろんな人々に衣食住を提供してもらうんだけど、ユダヤ人ということもあるし、戦時中ということもあって、あまりいい扱いを受けない。というか奴隷みたいな感じでこき使われる」

ウバ「うーん。なんか人種差別をテーマにした作品っぽいね」

ひかる「そう、人種差別が一つのテーマになっているとは思うんだけど、僕は個人的に、この映画は人間の本質を描きたかったんじゃないか、って思うんだ。というのも、さっき僕は、主人公は行く先々で散々な扱いを受けるって答えたけど、必ずしも一方的にいじめられるわけじゃないんだ。例えば、叔母が死んだ後に、主人公は別の村に行くんだけど、そこでは土着の宗教が強く根付いていて、その村にいる呪術師的な老婆に、吸血鬼の子と言われて、村人たちが大層ビビるんだよね。で、結局、男の子は老婆に使用人として引き取られることになる」

ウバ「吸血鬼の子ってやばいね……」

ひかる「うん。ちなみにどうでもいいんだけど、呪術師の老婆が主人公を縄で縛って家に連れて行く途中で、道の真ん中で立ち小便するシーンがあるんだよね……自分のスカートをめくって。なんていうかさぁ……こんなところを映像にしなくても、って思ったよ笑。男の子も僕も渋い顔してたよ笑。で、老婆に引き取られた主人公は、召使いとして、老婆の呪術師の仕事を手伝うようになるんだ。その村では医療が発展していないようで、呪術師の怪しげな儀式が唯一頼りにできる医療行為みたい。で、主人公は召使いだから、粗末なボロの服しか着させてもらえない。村の人からも邪険にされている感じなんだよね」

ウバ「いやーひどい扱いだね」

ひかる「ところが、次第にその扱いが少しずつ良くなっていく。例えば、村で伝染病らしきものが流行り、老婆とともに病人の老人の元へ行くシーンがある。死にかけの老人に近づこうとすると、老婆は少年を制止する。近づくな、ってことだよね。つまりその老婆は、おそらく感覚的に、物理的な接触によって伝染病にかかるってことを知ってたわけ。使用人である男の子を守ろうとしたわけだよね。まあ、愛情によるものというよりかは、彼が感染して、結果的に自分までもが感染するのを避けたいから、という気もするけど、老婆は普通に病人と接してたから、あながちそれほど淡白な理由でもないと思うんだよね」

ウバ「へー。じゃあ一緒に生活していくうちに情が湧いたってことかな?」

ひかる「しかも、結局主人公は病気になっちゃうんだけど、老婆はけっこう献身的に介抱するんだよね。まあ、例の怪しい呪術を使ってだけど。変な薬を飲ませ、土の中に体を埋めて顔だけ出させて、一晩放置するとかね」

ウバ「なにそれ……本当に介抱してるの?」

ひかる「らしい……で、翌朝、主人公は土に埋められ、首だけ出したまま目が覚めるんだけど、周りには彼をついばもうと待ち受ける、大量のカラスが……」

ウバ「やばいやばい!」

ひかる「男の子は声を上げたり、頭を振って追い払おうとするんだけど、カラスは諦めず辺りを飛び回る……そのとき、例の老婆がやってきてカラスを追い払うわけ」

ウバ「呪術師戻ってきた!」

ひかる「そうそう。おまけに主人公はすっかり病気が治ったみたい。例の呪術が果たして効果があったのか、それとも男の子の生命力が勝ったのかはわからないけど……けど、この一連の流れからわかることは、当初吸血鬼と断定し、使用人のように扱っていた主人公を、このときは老婆が献身的に介抱したことなんだよね。しかもその後、主人公の着ていた服が、ボロ布から比較的まともな衣服に変わっているんだ。つまりちゃんとした服を与えられたということ」

ウバ「扱いが変わったんだね」

ひかる「うん。もしこの映画が、ユダヤ人の迫害のみにスポットを当てた作品であるなら、こういった細かい描写は入れないはず。ていうか、老婆が主人公を見殺しにしていてもおかしくない。当初は吸血鬼として忌避していた使用人が、今ではもう少し身近な存在として扱われるようになったわけ。こういうところに、人間の感情の本質的な動きを感じるんだよね。こういう意外な優しさ、みたいなものが本編の至るところに配置されているんだ」

ウバ「なるほどね。ちなみにその男の子はまた別の町に行くことになるんでしょ? 何があったの?」

ひかる「やっぱり主人公を良く思わない村の男によって、川に突き落とされてしまうんだ。幸い溺れることはなかったけど、川に流されて別の町にたどりつくことになる」

ウバ「ひどい……」

ひかる「うん。そんな感じで村々を転々とするんだ。行く先々でとんでもない経験をするんだけど、それぞれ語ってたら大変だからこれくらいにしておく。ちょっとこのタイミングで感想を言っておくね。最初でも言ったけど、この作品は人間の本質を描こうとしていると思う。特定の人種を迫害してしまう人の心の歪みや、嫉妬、怒り、孤独、復讐、悲しみ、優しさといった様々な感情の描写が映画の随所に織り込まれている。主人公は、町を転々とすることで、そういった生々しい人間の感情を目の当たりにし、よくも悪くも成長していく。冒頭では家族を求め、動物を愛する心優しい少年だった主人公が、苛烈な経験を経て歪んだ精神の持ち主になっていく。映画を見ていると、そんな変わり果てた主人公に対して、言いようのない悲しみを覚える。でも主人公は完全に変わってしまったわけじゃない。映画の最後、彼は父親と再会する。変わり果ててしまった息子を見て、父親は『お前はもう自分の名前すら忘れてしまったのか』と言う。でも、父親と一緒にバスに乗った男の子は、隣で父が眠っている中、バスの窓ガラスに、指で自分の名前を綴る。『ヨスカ』と。少年は苦しい経験を経て、もう元の自分ではなくなってしまったかもしれないけれど、愛する両親から与えられた名前はまだ覚えている。悲しみに満ちたこの作品の中で、わずかに希望をほのめかす最後のシーンなんだよね」

ウバ「なんか……後味が悪い作品っぽいね」

ひかる「うん……爽やかな感じではないよ。しかもさ、映画が3時間弱もあるから、なかなか通しで見るのはしんどかったよ。でもまあおもしろかったよ、ほんとに」

ウバ「あ、タイトルはどういう意味なの? 異端の鳥って」

ひかる「そうだそうだ、タイトルにも触れておかないと。これを話すためにはもう一度作品の中身に触れないと……えーと、主人公は町を転々としていく中、人里離れた小屋に一人暮らししている老人と出会う。その老人は鳥を捕まえて人に売ることで生計を立てているんだ」

ウバ「え……なんか怪しい……大丈夫なの、その老人は?」

ひかる「そう、僕も最初、『このじいさん大丈夫か?』って疑って見ていたんだけど、なんと大当たり。一人暮らししている老人ってことでかなり警戒してたんだけどね。どうやら鳥を捕まえるための仕掛けを木の上に設置する上で、少年の身軽さが役に立ったみたい。比較的良い扱いで住まわせてくれる。それまで男の子は、使用人としてこき使われて、眠る場所も屋根裏部屋みたいなところだったんだけど、この老人とは一緒に眠ることが許された。といっても、二人とも床の上だけど。老人も男の子が気に入ったみたいで、酒を勧めたりする」

ウバ「いやそれは駄目でしょ」

ひかる「そう笑 主人公は首を振って嫌がるんだけど、『そうか……』みたいな感じで一人で飲んでた。嫌がったらブチ切れるかな、と思ったんだけどそうでもないみたい。決して裕福な老人ではなさそうだったけど、これまでの悲惨な生活に比べたら、小屋での生活は悪くない様子だった」

ウバ「へ〜。それはいい感じだね」

ひかる「ところがそのじいさん、意外とイケイケで、村の若い女と原っぱのど真ん中で寝たりしていた。男の子は離れた木のそばで待たせておいてね。どうやら老人と女は恋仲だったみたい」

ウバ「うわ、なにそれ……おじいさんはけっこうな歳なんでしょ?」

ひかる「普通にじいさんだよ。で、けっこういい関係らしく、その女は親交の印として、じいさんに小鳥をプレゼントするんだよ。檻に入れてね。それが後の『Painted Bird』になるわけ」

ウバ「ん? 原題の方?」

ひかる「そうそう。僕は原題の方が好きだな。Paintって言葉に異端という意味はないと思うんだけど……実はあるのかな? まあいいや。で、話を戻すけど、実はその村の女、じいさんの恋人と思いきや、実際はただのセックス狂で、村の若い男たちをたぶらかして乱交をおっぱじめたりする」

ウバ「うわ笑 やばいね笑」

ひかる「じいさんはその乱交を知ったのか、あるいは自分の元に女が来なくなってしまったのか、わからないけど、ある日酒を飲んでいるときにブチ切れる。たぶんじいさんは真剣に恋してたんだろうね。で、その女からもらった小鳥を檻から取り出し、その羽根にペンキで色を塗る。何色か忘れたけど」

ウバ「ペンキで? なんで?」

ひかる「うん。で、色を塗った小鳥を逃してやる。主人公と老人はその小鳥の行方を見守る。ちょうど、鳥の群れが上空にやってくる。色を塗られた小鳥は、仲間に加わるためにその群れに入る。ところが、群れからしたら、羽に色が塗られた小鳥は、自分たちの仲間じゃないように見えるらしく、群れ全体がその小鳥を攻撃し始める」

ウバ「え……」

ひかる「必死に逃げるも、その小鳥は力尽きて、空から落下して地面に落ちる。その様子を老人は満足げに眺める。一方、男の子は死んだ小鳥を土の中に埋めてやる。これがPainted Birdのシーン」

ウバ「……そのおじいさん、まともじゃなかったね」

ひかる「うん……あるいは、比較的まともだった彼を狂わせてしまったのは、色恋沙汰による嫉妬や孤独だったとも言える。で、このPainted Birdは、本来仲間であるはずの者たちから迫害されるという意味で、ユダヤ人の迫害と結びつけて考えることもできる。でも僕はそれだけじゃないと思うんだよね。この色を塗られた鳥は、なんていうか、犠牲とか代償とか罰といった意味合いもあると思うんだ。冒頭で主人公の小鳥が焼き殺されたときもそうだった。その小鳥に罪はなく、ユダヤ人でよそ者である少年が持っていたという理由だけで殺された。この色を塗られた鳥も罪はなく、老人と女の恋が崩れたことに対する贖罪(しょくざい)として処刑された。人間の業によって無残に死ぬ羽目になった。僕はこのタイトルが、そういう人間の醜い心を表象しているように思えてならないんだよね」

ウバ「なるほどね」

ひかる「以上が『異端の鳥』の感想と、簡単な解説でした」

ウバ「なんとなく雰囲気はわかったよ。いざ見ると暗い気持ちになりそうだけど」

ひかる「本当はまだまだ語りたいことがいっぱいあるんだけどね。心優しい軍人の話とか、未亡人との二人暮らしの話とか。でも今回はこれだけにしておくよ。Amazo Prime Videoで視聴可能なのでみなさん見てください。それでは!」

ウバ「ばいばい!」

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