芥川賞を読む 第34回:『蛇にピアス』(金原ひとみ)感想文
読書のきっかけ
今回読んだのは、金原ひとみさんのデビュー作『蛇にピアス』。実は最初に映画を観ていたこともあって、作品に対して“ちょっと刺激的”というイメージを持っていました。
それでも「ページ数がそこまで多くないし、神秘的なタイトルに惹かれて読んでみたい」と思い、手に取ったのがきっかけです。読了後には小さな達成感もあり、読書を再開する良いきっかけになりました。
作品概要
作品名:『蛇にピアス』
著者:金原ひとみ
受賞歴:第130回芥川賞受賞
あらすじ
肉体改造に溺れる若い女性と、彼女を取り巻く男性たちの愛と絶望を描いた作品。ピアスや刺青(タトゥー)といった身体改造を通して、登場人物たちは自分たちの居場所やアイデンティティを模索していきます。過激な描写が話題となり、日本だけでなく海外でも翻訳出版され、多くの読者を魅了しました。
物語
物語は主に「ルイ」「アマ」「シバ」の3人を中心に進みます。
アマとの出会い
あるバーで、ルイは“スプリットタン”の持ち主である赤髪の少年アマと出会います。スプリットタンとは、舌をふたつに割いて爬虫類のような形状にしたもの。最初はただ「珍しい」と思ったルイですが、アマの雰囲気に惹かれて付き合い始め、やがて「自分もスプリットタンにしたい」と願うようになります。スプリットタンへの道
スプリットタンを作るには、まず舌にごく小さなゲージのピアスを開け、少しずつ拡張していくそう。最後は糸などで縛るという方法で舌を切り離す──。衝撃的な手順を知って私自身も「へぇ、そうやってやるんだ」と思わず驚きました。
ルイは、アマがスプリットタンを作るときに世話になったサディスト気質の彫り師・シバの店を訪れます。シバは全身タトゥーとピアスだらけで、舌は割れていないものの、明らかな“S”気質を持った人物。ルイは彼の刺激的な雰囲気に魅了され、舌ピアスだけでなくタトゥーを入れることも決意するのです。シバとの関係
ルイはタトゥーを彫るためにシバの店に通い始めますが、それをきっかけにシバとの身体的な関係がスタート。物語の中では、かなり生々しい描写が続きます。ところが、その性描写にはイヤらしさというよりは、どこか乾いた感情や孤独感がにじんでいて、読んでいて不思議なドキドキ感がありました。
感想:若さと大人の間で揺れ動く危うさ
物語の中盤で、アマとルイが実は未成年であることが分かります。序盤からずっと、タトゥーや舌ピアスなど大人びた刺激を求めて動いていた二人だけに、「実はまだ子どもだったのか」という事実はちょっとした衝撃でした。
ただ、それがわかってしまうと「若いのにイキがってるだけ」という先入観を読者が持ってしまうかもしれません。作中ではあえて序盤で年齢を明かさず、“彼ら自身の言動・行動”が読者に与える印象を優先させているのかな、という工夫が感じられました。
未成年とはいえ、登場人物たちが抱えている「愛されたい」「必要とされたい」という欲求は、決して子どもに限ったものではありません。むしろその思いが「身体改造」に直結していく過程を見ると、身体を通してしか自己を表現できない彼らのもどかしさや痛々しさが浮かび上がってきます。
過激な表現も多いですが、その背景にある“心の未熟さ”や“孤独”がひしひしと伝わってくるので、不思議とくどい印象にはなりませんでした。
まとめ
『蛇にピアス』は、ピアスや刺青といった刺激的なテーマを通じて、登場人物たちの危うい純粋さや生々しい感情を描き出した一冊です。年齢的にも精神的にも未熟な彼らが、大人びた世界に足を踏み入れながら必死に自分の存在意義を探す姿は、読む側に少なからず衝撃を与えてきます。
同時に、身体改造や性描写といった要素を、あえて“生々しいけれど不思議とイヤらしさを感じさせない”タッチで描いているのも魅力的でした。純愛とは違うけれど、そこには確かに「愛されたい」「繋がっていたい」という人間の根源的な欲求が色濃く映し出されています。
短めの作品なので、ちょっと刺激的な読書体験をしてみたい方にはおすすめです。肉体に刻まれる痛みや快楽が、心の問題とどうリンクしていくのか……芥川賞を受賞した理由をぜひ実際に読んで確かめてみてください。
あとがき
読了時間:短いのでサクッと読めますが、内容はなかなかディープ。
映画から入るのもアリ:映像でイメージをつかんでから読むと、刺激的な世界観がより鮮明に感じられます。
金原ひとみ作品に興味がある方へ:同じく若い世代の危うさや孤独感を描いた作品が多いので、読み比べも面白いかも。
読んだ後は、きっと自分の中にある「痛みや孤独」との向き合い方を、少し考えてみたくなるはずです。気になった方は、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。