組織屋から見た、ファミリー企業の事業承継について
これまで自分が得意にしてきたことで、リンクアンドモチベーションでは異彩を放っていた『事業承継』について今回はお話ししようと思います。
※ファミリー企業とは、経営者一族が血縁者の、オーナーが明確に決まっている企業を指します。
一般的に事業承継というと、金融屋さんの領域で、お金まわりについてアドバイスを貰って、手続きを踏んで代替わりすることが多いと思います。
私が特に手掛けていたのはその後で、一通りお金まわりが片付き、後継ぎもいて「さあここからどうやって新体制でエンジンを吹かせていくか」という場面で登場していました。
ちなみに呼ばれるのも、先代社長(お父さん)からの場合もあれば、新社長(息子さん)からの場合もあります。どちらにせよ、体制を一新して組織をどう創っていくかにアドバイスを求めておられるわけですね。
私の場合は、名古屋に赴任していた2008年からの6年間、ここに活路を見出し、リンクアンドモチベーション知名度ゼロのマーケットを開拓していました。(名古屋は大手を支える中小企業にファミリー企業が多く、小さくても地道にお仕事されている企業が多い土地柄です)
皆さんに具体的なイメージを持っていただけるよう、組織的な観点でそれぞれの立場の人を以下に描写してみます。
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・発言力を持った経営者一族。特に社長は長年会社経営をしてきて、会社のすべてを把握しており、必然的に口答えする人は少ない状態です。
・先代社長に仕えてきた番頭さん達。彼らは新社長が子供の頃からよく知っています。(経理や総務担当なら、プライベートもよくご存じだったりもします)
・新社長は現代的な気質を持っていて、きさくに社員に話しかけるものの、現場経験は少なく空中戦をやりがち。それを見た番頭さん達はしらけムードが漂っていることも。先代社長の後ろ盾があるので、反発したりすることはないものの、意見を言わなかったり、従順なまま何十年と過ごしてスキル的に陳腐化していたりします。そんな番頭さん達を見て、新社長は彼らに不満を抱えるようになります…。
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多少思い込みが入っているかもですが、少なからずこのような組織状態になっているケースを沢山見てきました。
じゃあ、この組織をどのようにしたら新社長の方針に集う組織にアップデートさせられるか⁉
組織を見る時のフレームワークに、「HR(人材)」「Rule(制度や仕組み)」「Communication」という切り方があります。
囲われた中に人がいて、その人を繋ぐ線=コミュニケーションがあり、その下敷きとして各種ルールがあるイメージです。
それではそれぞれの要素に対して、どうアプローチしていくかご説明します。
1.HR(人材)
①現状:昔から地道にコツコツタイプが多く、マネジメントできる人は限られている状態
②理想:コツコツタイプも大事な一方、新社長のビジョンや経営方針に沿って、担当組織のかじ取りができる状態
③方向性:スキル不足であればリスキリングによって足りないスキルを付与し、意欲不足であれば新社長の熱意を伝えて賛同者を増やす →いずれにせよ、社内・社外の変化に対応したスキル・スタンスを装着する必要性アリ
2.Rule(制度や仕組み)
①現状:先代社長の際、手作りまたは外部に丸投げした古いルールが未だに使われている状態
②理想:新社長の事業の方向性に合ったルールを構築し、新体制に定着させる状態
③方向性:新しいルールを構築するだけでなく、PDCAを回して常に最適な状態をつくる →運用が肝であり、きめ細かくメンテナンスして常に効果的な状態にする(必要に応じて手直しする)
3.Communication
①現状:先代社長に意見することができず、組織内で本音が話しづらい状態
②理想:新社長になって、組織として上下左右で何でも言い合える状態(コミュニケーション=組織の血流が、広くあまねく行き届いている状態)
③方向性:社長の方針や考え方を、全方位的に(オフィシャル・アンオフィシャル関わらず)発信する →まずは管理職から言い合える状態を目指す
この仕事をしていて感じたのは、こういった組織の問題は9割方、コミュニケーションに原因があるケースがほとんどです。
さらにコミュニケーションと言っても、「質」ではなく「量」が足りてないケースが多く、まずは本音で話し合う関係づくりを目指すのがファーストステップです。
社員の立場だと、最初は「本音で話したらクビになるかも」と思っているので、周到な準備が必要です。なんでも思ったことを話せるように、会議のやり方を変えたり、社員の要望を解決していく姿勢を見せることなどが施策としてはあり得ます。
特に最初は本音が出にくいので、あえて外部の力を借りた方がスムーズにいくように思います。
駆け足でしたが、いかがでしたでしょうか?
あくまで一般的なケースで書いたので、「うちは違う」と言われる方も多いですが、多くのファミリー企業の事業承継に携わってみて、実は各社で似ている部分が多いと感じます。
ただ、似ているといっても体制を変えるというのは、簡単なものではありません。デリケートに、でもダイナミックに。世の中のマーケットの動きが大きいからこそ、慎重かつ大胆に舵取りしていく必要があると思います。