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時事無斎雑話(24) 観察レポート・路上のゴミ拾い

 以前書いた通り、定期的に通っている検診で軽度の脂肪肝と診断されています。もともと体を動かすこと自体は嫌いではないため、減量を兼ねて、4キロ離れた職場まで春から秋までは自転車、雪が積もる冬は徒歩で通勤するようにしています(注1)。
 毎日職場への道を歩いていて気付くのは、路上に落ちているゴミの多さです。古いものから新しいものまで雑多なゴミがあちこちに散らばり、しかも誰も拾わないまま日ごとに増えていきます。特に環境への悪影響が大きいプラスチックゴミ(以下プラゴミ)(注2)がかなり多いのが、仕事で環境問題も多少扱う立場としては非常に不快です。
 そこに雪が積もり、やがてゴミと雪が混然とした状態のまま除雪でダンプカーに乗せられ雪捨て場へと運ばれていきます。もちろんそれでゴミが消えてなくなるわけではなく、春になって雪が溶ければ含まれていた大量のゴミがそのまま雪捨て場に積み重なることになるわけです。逆に言えば、路上のゴミが濃縮されてその場に出てくるわけで、春先に雪捨て場に残ったゴミをまとめて集めて捨てるようにすれば、ある意味効率的なゴミ対策になるかもしれません。自治体の担当者の方、検討してみてはいかがでしょう。この場を借りて提案させていただきます(既にどこかでやっているのかもしれませんが)。
 それはさておき、増え続ける路上のゴミを連日眺めるうちにとうとう我慢がならなくなり、少し拾おうと決心したのをきっかけに、通勤がてらのゴミ拾いを続けています。以下、それに関するレポートです。

注1:もっとも往復8km歩いても消費するカロリーはご飯2膳分程度の450カロリー、脂肪換算で50gほどにしかなりませんので、これだけで簡単に体重が減るというものではありません。
注2:海鳥や海棲哺乳類が誤食したプラスチック類を消化器に詰まらせて死亡する事例が多いほか、最近では微細に砕けて環境中に散らばった「マイクロプラスチック」が生物(もちろん人間も含む)の体に取り込まれて悪影響を及ぼすことも明らかになってきています。

【写真1】

 いざ拾い始めてみると、想像以上のゴミの多さと、何より、拾うそばから再び増えるその速度に驚かされます。【写真1】は袋持参でいつもより多少念入りに拾ったある日のプラゴミ(右の手袋は比較用です)。前日、さらにその前にも同じ道筋で拾っているにもかかわらずこの量です。ついでに言うとさらにこの翌日に拾ったゴミもけっこうな量になりました。ゴミは自己増殖しません。同じ場所で連日拾っているにもかかわらずゴミが減らないということは、(他から風で飛ばされてきたものもあるのでしょうが、それも含めて)常にゴミが供給され続けている、つまり人が捨てているということです。
 一体どういう人たちが、どこで捨てているのでしょう。実際に拾っての観察結果から考察してみました。
 私の通勤経路は、まず住宅街を抜け、広い道に出てコンビニが並ぶエリアを通り過ぎたあと工場や集配センター・バチンコ店などの前を通る、という道筋をたどります。こうしたルートを歩きながらゴミを拾っていると、場所によって「ゴミ相」がかなり異なることに気付きます。
 住宅地ではゴミはあまり目に付かず、転がっているものの多くは食品の包装、惣菜のパック、レトルト食品のパウチなど、一般家庭の台所で出るようなものです。自宅で出たゴミをわざわざ外に捨てているとも思えないので、おそらく普通にゴミ収集に出したものが袋の口がきちんと閉まっていなかったりカラスにつつかれたりするなどして散乱したのでしょう。ゴミ袋の口はきちんと縛り、カラスに荒らされないようゴミステーションにきちんと入れるかネットで覆うようにしましょう。
 事業所の周辺では、作業用手袋や梱包こんぽう資材などが入っていたらしい袋、荷物を縛っていたとおぼしいテープやビニールカバーなど、業務用資材関係のゴミが多く見られます。そのほか、従業員の方が昼食にでも食べたのでしょうか、カップ麺の容器、割り箸の袋なども転がっています。経営者・現場責任者の皆さん、企業のイメージにも関わることだと思いますので、職場にはきちんとゴミ箱を設置し、出たゴミが散乱しないよう対策をお願いします。
 コンビニの近くではパンや菓子類の包装、弁当の容器などがよく転がっています。それも捨てたばかりとおぼしい全く汚れていないものが多く、拾っても翌日同じ場所に同じようなものがまた落ちていたりします。どうやら、コンビニで買った食べ物をその場で食べて包装はポイ捨てという人は想像以上に多いようです。

【写真2】

 大きな通りの車道側にまんべんなく落ちているのが、通りすがりの車から投げ捨てられたとおぼしいタバコの吸い殻、そして空き箱です。特に密度が高いのがパチンコ屋の周辺です。【写真2】は写真1とは別の日に拾った可燃ゴミの、吸い殻の部分を拡大したもの。この日は冷え込みが強く、地面に凍り付いて剥がせない吸い殻が多くてあまり拾えなかったにも拘わらずこの量です。さらに別の日には職場までの4kmの間に拾った吸い殻の本数を数えたところ(前日にも同じくらい拾ったのに)207本、翌日は168本という数字でした。喫煙者の皆さんにとって、タバコの吸い殻、そして空き箱は運転しながら窓から投げ捨てるのが普通なのかと疑問に思うほどです。実際、夜道で車を運転していると、前の車の窓から火が付いたままのタバコの吸い殻が投げ捨てられるのをよく目撃します。それが原因で起きた火災も少なくないはずですが、こういう投げ捨てを平気でする人たちは、自分たちが潜在的な放火犯であることに気付いているのでしょうか。
 これも以前書いたように、紙巻きタバコのフィルターは環境中で生分解されない上、タバコに含まれるニコチンは特に水棲生物に対して強い毒性を示します。私が今住んでいる街は水産業が重要な産業の一つで、漁業者のほかそれに関連する食品加工業や流通業の関係者も多いのですが、そういう人たちがタバコの吸い殻を無造作に海や路上に捨てるのは、例えば農家が自分の畑に毒をくようなものだということはもっと自覚されるべきでしょう。実際、乗船しての底曳き網調査などでは、かなりの沖合でも網に入ってくる夾雑物きょうざつぶつの中にタバコの吸い殻や各種のプラスチック類などが見られます。プラスチックやニコチンによる漁場の汚染は、一般に思われているよりはるかに深刻な状態なのではないかと感じます。
 こうしてみると、路上のゴミを通してうかがえる平均的日本人の民度は、残念ながらネットやマスコミが吹聴するほど高くはないようです。大学の社会学部あたりの学生の皆さん、あるいは自由研究のテーマを探している小中高生の皆さん、「どういうゴミが」「どういう場所に」「どれくらい」落ちているかの調査を兼ねて、身の回りでのゴミ拾いをしてみませんか。おそらくそこから見えてくるものはいろいろあるでしょうし、自分でゴミを拾ってみれば、路上にゴミをポイ捨てするような行動に対しても多少は抑制的になるでしょう。
 何より、落ちているゴミを拾えば少なくとも拾っただけ街はきれいになるのです。それを心の支えに、これからも通勤途中のゴミ拾いを続けていくつもりですので、よろしく応援下さい。

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