見出し画像

週末隠者(序) 隠者入門

 突然ですが、この文章を読んでいる方の中で「隠者」の生活に憧れる人はどの程度いるのでしょう。
 実は私自身は子供時代から「隠者」への憬れのようなものがありました。もともと人付き合いが苦手で、他人と離れた場所で独り遊ぶのが好きだったこととも関係があるかもしれません。子供時代の愛読書も、今思い起こせば『ロビンソン=クルーソー』や『二年間の休暇』などの漂流ものがけっこう含まれていたと記憶しています。
 長じてからもその傾向は変わらず、就職して多少の蓄えができてからは、あちこちの不動産屋のサイトで田舎暮らしの物件を物色し、時には100km以上離れた遠い場所まで足を伸ばして下見に行ったりしていました。このあたりの話はいつか前日譚のような形で書くかもしれません。田舎暮らしが好きと言うより「隠遁生活」への興味が根底にあったのでは、と今になって思います。
 そうやってあれこれ探し回った末に、道内某所に山林付き中古の一軒家を見つけて購入したのが数年前のことでした【写真1】。場所は北海道の中では比較的温暖とされる道南のD市。街自体は小さいものの、病院や買い物など生活の基盤となる施設は一通り揃っており、さらに特急列車の止まるJRの駅を抱え幹線道路と高速道路も走り、空港へも車で2時間程度と、札幌や本州方面、場合によっては海外にも、アクセスは比較的良い環境にあります。

【写真1】裏手の山から見下ろした家

 家はそのD市の中心部から10キロほど離れた街外れの山の中。4LDKの平屋で、土台部分の半分ほどが地下室(正確には上部1/3ほどが地上に出ている半地下室)となっています【写真2】。

【写真2】地下室

 敷地の大部分は雑木林で、山林付きの家というよりは、サッカー場より少し広い山林の中にぽつんと家が建っているというのが正確なところです【写真3】【写真4】。

【写真3】敷地の中の山林(その1)
【写真4】敷地の中の山林(その2)

 水場もあります。周囲にはセリやクレソンなど水辺の山菜も生えていますが、猛毒のドクゼリも混生しているため注意が必要です【写真5】。

【写真5】池

 お値段については、おそらく首都圏なら中古マンションすら買えるかどうか怪しい程度の価格だったとだけ言っておきます。北海道の田舎では、この程度の価格(もっと安いものも多い)の物件は珍しくありません(注)。別荘ではなく将来的に住んで暮らすことを前提に買った家ですが、現在の私は仕事持ち、北海道全域に散らばる職場の間で異動を繰り返す転勤族のため、今のところ月に1度か2度、週末を中心に訪れては、あれこれ家の手入れをしながら将来の隠者生活に向けての準備に励むのが精一杯です。特に意識したわけではないものの、最近話題になっている二拠点生活を先取りしたような形でしょうか。

注:ただし、それこそ医療も教育も受けられず買い物さえままならないような僻地の物件や、冬になれば雪や寒さで人間が暮らせないような環境になる家も多いので、価格だけを判断基準に安易に買うのは危険です(そういう土地を騙して売りつける悪質業者もいるようです)。このあたりもいずれ詳しく解説したいと思います。

 隠遁生活を送るにあたって、以下のような目標を立てることにしました。

①省エネかつ環境に配慮したエコな生活を目指す。本来ならわざわざ宣言するような方針でもないのでしょうが、最近のネット世論に見られるような、環境問題(のほか、社会的公正や多様性社会の実現など)に取り組む人たちの揚げ足を取っては斜に構えてせせら笑う(そのくせ、自分たちが冷笑する相手より高邁こうまいな理想や問題への有効な対処法を示せるわけでは決してない)のがカッコいいといういびつな風潮に反発を感じているので、あえて前面に出すことにしました。

②質素を旨としたスローライフを試みる。上と関連して、完全な自給自足は無理でも、自力で作ったり手持ちの何かを転用したりできるものはそれで済ませることを考えます。不要品をもらったり拾ったりも大いに活用します。そして、多少の我慢や工夫をすれば無しで済むものは、なるべく持たないようにします。

「引き寄せて 結べば草のいおりにて 解くれば元の野原なりけり」

慈鎮

③楽しむ。別に苦行として隠遁生活を送るつもりではありませんので、無理をして必要もない苦労を求めるようなことはしません。無駄や贅沢は排しつつ、その中で精一杯楽しむ生活を目指します。

④見聞を狭めることはしない。隠遁といってもただ山奥に引きこもって暮らすのではなく、あちこちを見て回ったり、いろいろ学んだりして人生の幅を広げるように務めます。隠者とは、少なくとも精神的にはアクティブな生き方なのです。

 ともあれ隠者生活を始める目途はつきました。退職してフルタイムの隠者になるまではかなりの時間がありますが、折に触れていろいろとレポートしていく予定ですのでお付き合いください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?