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ティルドラス公は本日も多忙④ 都ケーシの宮廷で(0)
第0章 これまでのあらすじ
群雄割拠の中で戦乱が続く大陸・ミスカムシル。一介の兵士から身を起こし一代で覇者となった開祖・キッツ=ハッシバル伯爵のもと一時的に天下の半ばを支配していたハッシバル伯国も、キッツ伯爵の跡を継いだ暗君・フィドル伯爵の失政により、現在は辺境の一小国へと没落している。そのフィドル伯爵の長男であるティルドラス=ハッシバルは、父を諫めたことで不興を買い、国都・ネビルクトンを離れたキクラスザールの街で謹慎させられていた。
フィドル伯爵の急死を受け、伯爵の次男であるティルドラスの同母弟・ダンは、母のメルリアン、秘書官のシー=オーエンらと共に父の遺言を偽造して伯爵を称し、キクラスザールのティルドラスに捕り手を差し向ける。末弟・ナガンの急報でそれを知ったティルドラスは、ナガン、そして秘書官のソー=チノーと共に脱出。三人の捕り手の兵士もろとも、住民が全て石と化した魔の森・シュマイナスタイへと迷い込む。彼らはそこで、腰から下が石となった謎の少女・アーネイラと彼女にかしずく妖婆・カーヤに出会い、彼女たちの岩屋にかくまわれることになった。
時を同じくして、伯国の要衝であるティルムレチスの城に隣国・ミストバル侯国が侵攻。守将・ヴァンダーエム=グスカの奮戦も空しく危機に陥ったティルムレチスを放置して、ダンは近隣の小国への侵攻準備に血道を上げる。彼を諫めるオーエンだったが、既に権力の魔力に取り憑かれたダンは耳を貸さない。一方、アーネイラの岩屋で呑気な日々を過ごしていたティルドラスは、ある日出向いた市場で偶然のことから所在を知られてしまい、捕り手の兵士たちの略奪暴行から村人を守るため、自ら進んで敵に捕らわれようとする。しかし姿を現した彼は悪政に苦しむ民衆や兵士たちによって、自身の意志とは無関係に、一方の旗頭に祭り上げられてしまう。野武士の頭で逃亡剣闘士のセルヴ=サクトルバス、ダンに反旗を翻した兵士たちの指導者であるリーボック=リーらの活躍によって国都に迫るティルドラスの前に、ダンの陣営はあっけなく崩壊する。万策尽き、ダンと共に戦って死ぬことを決意するオーエンだが、仇敵・チノーの妹であるセルキーナと、学問の師であるキコックの言葉に死ぬことの虚しさを悟り、ダンと共に国外へと亡命する道を選ぶ。
ティルドラスは伯爵として国都に戻り、ティルムレチスの危機も援軍の到着により救われた。そんな中チノーは、妹のセルキーナがオーエンと共に国を去ったことを嘆きながら、天下の名目上の主であるティンガル王家への上奏文に「平穏」「事もなし」の言葉を書き綴るのだった。(第一話 ハッシバル伯国は事もなし)
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伯爵の位に就いたティルドラスだが、国政は叔母である摂政のサフィアに握られ、彼自身は何の権限も持たない飾り物の地位に置かれただけだった。愛人のヴァリー=ガルキン将軍に手柄を立てさせるため、ティルドラスの反対を押し切って隣国・ミストバル候国への出兵を行うサフィア。しかしミストバル軍の女性指揮官・ペネラ=ノイの前に惨敗し、兵力の大半を失う。
これによってハッシバル家が力を失ったと考えた隣国・バグハート子国の主・メイル=バグハート子爵は、諫大夫(かんたいふ)であるペジュン=アンティルの諫めを聞き入れず、ハッシバル領への侵攻を企てる。国境の街・トパーナに迫るバグハート軍。しかしトパーナの守備隊に加わっていたリーボックに敗れ、逆に自国の領内へと侵攻されることになった。一方のハッシバル軍も占領地での略奪の可否を巡って内部で対立が起き、それを知ったティルドラスは、リーボックを守り略奪を止めるため、シュマイナスタイのアーネイラの力を借りてツクシュナップに乗り込んで軍の指揮権を握る。占領された土地を奪還するため派遣されたバグハート軍を再び破り、子爵家の国都・マクドゥマルに迫るハッシバル軍。メイル子爵は宮廷を逃れて手近の城塞に立て籠もり、なおも抵抗を試みるものの、兵糧の不足を補おうと略奪同然の徴発を繰り返したことから民心を失い、蜂起した民衆に殺されてバグハート家は滅亡する。(第二話 新伯爵は前途多難)
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併合した旧バグハート領に留まり、自身の周囲を固める人材を集めつつ自身の考えに基づく政策を実施しようとするティルドラス。だが、そうした彼の行動はネビルクトンのサフィアとの対立をさらに深めることにもなった。一方、バグハート家の滅亡直前に宮廷を追われ田舎で侘び住まいをしていたアンティルは、かつて自分が学んできた「科学」の力が他国で戦争に使われたとの報せを受け、乱世を終わらせて科学の力による大量殺戮を阻止するためティルドラスに仕えるべきか思い悩む。
そのアンティルのもとを自ら訪れて彼を招聘するティルドラス。招きに応じて彼の麾下に加わったアンティルは、次々にティルドラスの期待に応える献策を行い、彼の全幅の信頼を勝ち取る。
そんな中ネビルクトンへと帰還したティルドラスは、シュマイナスタイのアーネイラを訪れた際に、隣国・カイガー家の当主・ティム=カイガーの娘で表向き男子として育てられてきた公女・ジュネ(男性名はジュベ)と出会う。彼女を側室に迎えることでカイガー家と結び、摂政のサフィアから権力を奪還する助けとするよう進言するアンティルだったが、ティルドラスは、敵対関係にある大国・トッツガー公爵家の公女でかつての婚約者であるミレニアを正室に迎えることを望む。彼の想いを叶えるべく、ティルドラスの部下たちはアンティルの指揮のもとトッツガー家を相手に外交戦を展開し、相手が婚約の履行に同意せざるを得ない状況にまで追い込むことに成功した。しかし、婚儀にあたっての進物とした天下の名器・パドローガルの銀器がサフィアによって偽物とすり替えられていたため、一転して交渉は失敗に終わる。(第三話 冬終わる日に人来たる)
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そして今、ティルドラスは、ティンガル王家への参朝を行い王家の声掛かりによってミレニアとの結婚を成就させるべく、都・ケーシへと旅立つ――。
※付随音楽「『ティルドラス公は本日も多忙』のための音楽 Incidental music for the original novel "The Saga of Lord Tildras Hashbal"」