時事無斎雑話(25) 新旧コロナ感染レポート、またはいわゆるファクターXについての経験的仮説
すでに別のところで書きましたが、最近新型コロナウイルスに感染・発症しました。入院こそせずに済んだものの、ワクチン接種を3回受けていたにもかかわらずけっこう長引き症状も重く後遺症もしばらく続いて大変な思いをしました。やはり新型コロナは「ただの風邪」などではなく、例えばインフルエンザよりさらに危険な病気なのです(注1)。
にもかかわらず、ネット上では未だに「新型コロナはただの風邪」「ワクチン接種やマスクの着用は無意味」、果ては「新型コロナウイルスなど存在しない」といった与太話が、いわゆるネトウヨ界隈や宗教・スピリチュアル系のメディアを中心にタレ流され続けているのが現状です。こうした有害無益なだけのニセ情報をバラ撒き続けることに何の意味があるのかと思いますが、その類の情報を躍起になって広めようとする人たちにとっては、そうした妄信こそが自身のアイデンティティの中核なのかもしれません。
その種の主張とは別に、私自身にも以前から新型コロナに関して抱いている疑問があります。実は過去に「あれは今の新型コロナ感染症と同じか、もしくは非常に近いものだったのではないか」と思う病気にかかった経験があり、今回の感染でその感を一層強くしました。
私がその病気(以下「旧covid」と仮称)にかかったのは、新型コロナ=covid-19の初確認から1年半ほど前の2018年5月でした(注2)。以下、今回の感染(以下「新covid」)と比較する形で経緯を振り返ってみたいと思います。
注1:インフルエンザ自体も、一般に思われているよりずっと危険な、場合によっては死につながりかねない病気です。
注2:当時の予定表に書き込んだメモがあるので、発症日から症状の変化まである程度正確にたどれます。
1.感染と発症
【新covid】
こちらの感染経路はほぼ確実です。直前に調査で乗船していた船内で新型コロナを発症した人が出たため、急遽調査を切り上げて帰港することになりました。
それまでにも周囲で新型コロナに感染・発症した人が出たことは何度かあったものの、この時は「今回は危ないかもしれない」という予感めいたものがありました。帰港翌日は取りあえず在宅勤務を申請して周囲の人に感染を広げないようにし、寝込んだ場合に備えてスーパーで食料も買いだめして様子を窺います。そして帰港の翌々日、予想通り発熱が始まりました。
【旧covid】
こちらの感染経路ははっきりしませんが、発症の二日前に札幌からの特急列車に乗って家に戻ってきたことから、車内で感染した可能性が考えられます。そのほかヒトではなく何かの野生動物から感染した可能性もあるものの、そちらは特に思い当たる節がありません。
発症は日帰り出張で調査の現場に出ている時に起きました。前日の夜から咳が続き「どうも調子が悪い」とは思っていたのですが、起き抜けに体温を測った時には平熱だったため、そのまま出勤して調査に向かいます。ところが途中から急速に体調が悪化し、調査を終えて職場に戻ってきたときにはすでに高熱が出た状態になっていました。そのまま自宅に帰って寝込むことになり、夜には38度を超える高熱と咳・悪寒に加えて、全身の痛みも始まりました。
2.検査
【新covid】
私の職場では調査船や出張先に病気を持ち込むのを避けるため職員に新型コロナの簡易検査キットが配布されています。その検査キットを使って、発熱後しばらく時間をおいてから(発症後すぐだと体に抗体ができておらず間違って「陰性」と判断される場合があるため)検査を行います。結果は予想通り陽性でした。
【旧covid】
covid-19のウイルスがまだ発見されていない時期ですので当然検査キットなどあろうはずもなく、高熱・咳・関節痛といった症状からインフルエンザに違いないと考え、高熱を押して近所の病院に行き検査を受けたところ、予想に反して「陰性」という診断でした。診察は「陰性ですね。ただの風邪ですね。薬出しておきますね。お大事に」だけを言われて5分で終わり、そのまま薬を受け取って帰っては来たものの、朦朧とする意識の中で「どう考えてもただの風邪ではないだろう。もう少し念入りに診てほしかった」という気持ちでした。以来、その病院には2度と行っていません。
3.症状
※発熱
【新covid】
熱は発症したその日に38.2度まで上がり、そのまま3日間38度前後の高熱が続きました。熱と並行して悪寒も続きます。ちょうど週末で病院が開いていなかった上、行きつけの病院は遠く、近所の例の病院には行く気が起きなかったため、結局病院には行かずに自分の免疫力と治癒力に賭けることにします。
【旧covid】
熱は発症したその日に38.7度まで上がり、そのまま3日間38度を超える状態が続きました。病院でもらった薬(解熱剤と咳止め)もあまり効く様子がなく、飲み続けるうちに猛烈に気分が悪くなったため(以前も同じ薬で具合が悪くなりました)飲むのをやめました。
※筋肉痛
【新covid】
発熱から少し遅れて全身の痛みも始まり、布団から出るのも一苦労の状態が数日間続きました。インフルエンザのような関節痛ではなく、どちらかというと筋肉が痛む感覚です。同じ症状はワクチン接種を受けた後の副反応でも出たものの、こちらの方が強い痛みです。
【旧covid】
前出の通り発熱と同時に全身の痛みも起き、数日続きました。こちらは痛いのが筋肉だったのか関節だったのかよく覚えていません。
※咳・呼吸器の炎症
【新covid】
発熱から少し遅れて咳と喉の痛みが始まり、次第に上下に広がって胸の上部から鼻腔にまで拡散します。「鼻の奥の粘膜が割れたガラスのようになった状態」と言った感染者の人がいたそうですが、正にそういう感じでした。熱が幾分下がったあとも咳は続き、むしろ熱が下がってからの方が悪化します。過去の経験から、咳で炎症が広がり気管支に入ると面倒なことになるのが分かっていたため咳が出そうになってもなるべく我慢するようにします。それでも時々発作的に咳き込んでしまう状態が昼夜を問わず続き、おちおち寝てもいられません。
【旧covid】
発熱前から咳はひどく、咳き込むうちに炎症が鼻腔から気管支にまで広がってしまい普通に呼吸するのさえ辛い状態になりました。鼻の奥はガサガサで、つばを飲み込むたびに痛みが走ります。眠りかけてもその都度咳で目が覚めるため、睡眠が取れず体力が回復しません。
※食欲不振・味覚障害
【新covid】
発症後2日ほどして、covid-19の特徴である味覚障害が始まりました。塩味と苦味(注3)はむしろ通常よりどぎつく感じる一方で、甘味やうま味はほとんど感じず、何を食べてもおいしくない状態です。それと関係あるのか食欲も湧かず、食材はあるものの高熱と全身の筋肉痛で立って料理をするのもままならず、ゼリー状の流動食(本来は乗船中船酔いで食事が摂れない時のために用意したもの)でなんとか栄養を補給します。
【旧covid】
発症当日、熱が上がる前に摂った朝食では特に異常は感じませんでした。ところが昼時(すでに熱が出ていました)になって出先の近くの店でスパゲッティ(確かカルボナーラ)を食べたところスパゲッティに塩水をかけたような味で「こんなまずいスパゲッティは初めて食べた」と思いました(注4)。そのあと家に帰ってから摂った食事でやはり塩の味しかせず、そこで初めて自分の味覚が完全に麻痺していることに気付きます。
発症後は高熱で料理もままならない上に胃が食べ物を受け付けない状態が続き、そうこうするうちに体に力が入らなくなってきて「この状態で体の栄養を使い果たしたら死ぬかも」と危険を感じるまでになります。結局、体力を振り絞って起き出し、鍋に残りご飯と冷蔵庫の中の食材を片端からぶち込んで煮込んだキムチ雑炊と、そのまま食べられる手近の食材(どれも味がしません)を無理やり食べて栄養を補給し続けます。
注3:お茶さえ苦すぎて飲めず、もっぱら水ばかり飲んでいました。これは旧covidの時も同様です。
注4:なお、お店の名誉のため言っておくと、味覚が戻ってから同じ店で食べたスパゲッティカルボナーラはむしろ平均より上の味でした。
4.後遺症
【新covid】
1週間少々休んで職場に復帰したあとも激しい咳が2週間ほど続き、声もガラガラで電話の相手に「誰だか分からなかった」と言われてしまいました。それだけではなく呼吸器の炎症が鼻腔から耳にまで広がり、中耳炎を発症して右耳が聞こえない状態がやはり1月ほど続きました。
【旧covid】
呼吸器の炎症が気管支まで広がったことでもともとあった喘息が悪化し、咳が治まらない状態が1年近く続きます。そのほかやはり鼻腔から耳に炎症が広がって右耳が聞こえない状態がしばらく続きました。味覚の異常も結構長引いたと記憶しています。
以上のように、発症の様子から症状から回復までほぼ同一の経過をたどっています。同じくコロナウイルス系の感染症であるSARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)なども同様の症状が出るようですが、国立感染研究所などのサイトを見る限り、どちらも日本国内での感染例はないとのことで、可能性は低いでしょう。インフルエンザでも比較的よく似た症状が出るものの、検査を受けてインフルエンザではないと診断されています。
こうした経験から考えて、実はcovid-19のウイルス、またはその原型となったウイルスは、2019年以前から東アジアに広く分布しヒトにも感染していたのではないか、そして、アジア人がcovid-19に感染・発症した時の死亡率が欧米人に比べ際立って低いといういわゆる「ファクターX」は、過去にそうしたウイルスに感染してすでに免疫を獲得していた人が多かったからではないか、というのが私自身の仮説です(注5)。医療機関や研究機関の関係者で興味を持たれた方がいれば、聴き取り調査にも協力するつもりですが、今回はこのあたりで。
注5:もっとも、欧米で生まれてそのまま現地で暮らしているアジア系の人たちにも「ファクターX」が認められる場合、この仮説は成り立ちにくくなります。その場合は、もっと起源の古い、体質や遺伝子のレベルで耐性を獲得していた可能性も考えるべきでしょう。