どんな不思議なタイミングなのか、地震と失くした本のカバー
走ってる場合じゃない!
朝5時10分ごろ。
ジョギングしていたら、立体駐車場からガタガタガタガタ、大きな音がする。
カラスでも騒いでいるのかな? と思っていたら、おさまった。
まさか……。
それからちょっとして、防災無線が鳴った。
地震だ、震度4だ、と。
まだ人通りもない街なかに、かなりの音量で。
「火の始末をしてください。テレビ、ラジオをつけ、落ち着いて行動してください」
ええ! 地震だったのか?
すぐに聴いてるradikoをNHK仙台に切り替えた。
ジョギングしてる場合じゃない!
NHKも震度4だ、宮城県が震源だ、と。
「走っている場合じゃない! すぐに家に帰らないと!」
と、身体を反転させて、帰りを急ごうとしていたら、
「津波の心配はありません」
とNHK。
じゃあ走ろう。
いや、そんな場合じゃないだろう。
やっぱり津波あります、パターンはないとは限らない。
いやいや、そんなことはないから走ろう。
いやいやいや、
いやいやいやいや……
まさに右往左往していた。
みっともなく、あっちいったりこっちいったり。
まだ人通りもない街なかでよかった。
「探せば必ずない」
ジョギングに出かける前に少し時間を戻す。
今日はリサイクルの日だ。
ビン・カン、古紙を集積場に出さないといけない。
それで、紙類を仕分けしていたら、
いとうせいこうの『福島モノローグ』のカバーがでてきた。
なくなったと思っていた、本のカバーだ。
『福島モノローグ』は、作家のいとうせいこうが、
福島に住む人たちにインタビューし、
その人のモノローグ(ひとり語り)の形式で書いてある本。
インタビュー集なんだけど、読んでいてどこか、
短編小説のような読後感がある、不思議な本。
わたしはカバーを取り外して本を読む習慣があって、
ときどきカバーをどこにおいたか忘れてしまう。
今回もその例で見失ってしまい、
しばらく探していたんだけど見つからなかったのが、ひょっこり出てきた。
「探せば必ずない」
とはコラムニスト山本夏彦の名言で、
失くしものは探しているときには見つからず、
探していないときに目の前に現れる、という意味。
『福島モノローグ』、読もうかな、と思いながらジョギングにでかけた。
歌詠みのおばあさんが歌詠わなくなった
そこで、地震、オロオロウロウロ、しながらの、
やっぱりいっちゃいましょうとジョギングを敢行。
40分ほど走ってもどってきた。
なにかの縁というか、どんなめぐり合わせなんだろうか。
失くした本のカバーが出てきて、地震があって、
それでルーティンでのジョギング後の読書の時間。
『福島モノローグ』の「THE LAST PLACE」という章を読んだ。
いわき市の復興住宅に住むタカハラタケコさん98歳。
浪江町の出身で、2011年3月11日の被災以来、
いまの復興住宅で6回目の移転となった。
その間に夫は亡くなり、友人たちも亡くなり、
さびしいね〜、といいながらも、
どこかウキウキした感情がモノローグから伝わってくる。
たとえば、最初に避難した体育館での、
夫が「猫を迎えに行く」といって聞かなかったときの様子とか、
仮設住宅に入ってからのオレオレ詐欺からの電話の受け応えとか、
コロナになってからの、離れて暮らす子や孫たちとの会話とか。
朝日新聞地方版の『みちのく歌壇』。
何度も投稿して、何度も採用された、と。
でももう、書くのはやめた、と。
『福島モノローグ』 いとうせいこう 河出書房新社 2021年