雷直撃で才能開花! 後天的に天才になった驚異の人々/宇佐和通
知的障害や発達障害がありながら、ある特定の分野に超人的な能力を発揮するサヴァン症候群。これと同じように、事故などで脳に損傷を受けることにより特定の分野で才能が開花する後天性サヴァン症候群がある。
後天性サヴァン症候群を発症した人はその後の人生が劇的に変化している。
なぜ、このようなことが起こるのか?
人間の脳のメカニズムは不思議が満ちている。
文=宇佐和通 イラスト=田口智子
ピアノの音色が頭から離れない!
トニー・チコリアというアメリカのアーティストをご存じだろうか。2008年に『ノーツ・フロム・アン・アクシデンタル・ピアニスト・アンド・コンポーザー』というデビューアルバムを出したピアニストだ。アルバムのタイトルは「偶然生まれたピアニスト兼作曲家」という意味だが、奇をてらったり、控えめなニュアンスを醸しだすことを狙ったりしたものではない。
チコリアの本職は整形外科医だ。整形外科医がなぜ作曲をこなし、アルバムまで発売することができたのか。
ちょっと信じられない話だが、雷に撃たれて「後天性サヴァン症候群」を発症したことで、音楽の才能が“偶然”開花したというのだ。
トニー・チコリアは1952年にニューヨーク州で生まれた。子供のころは音楽よりも釣りに夢中だったようである。
「7歳になったころ、母からピアノを習うことを説得され、半ば無理やり教室に通わされた。でも1年でやめてしまい、母に『もういやだ』と告げた」
音楽との関係はとくにないまま中学・高校と進み、やがて医大で学ぶようになる。卒業後は整形外科医になってキャリアを積みながら家庭を築き、子供もできた。ごく普通の医師としての人生を淡々と歩んでいたわけだ。
運命の瞬間は突如として訪れた。1994年のある日、彼は家族とともにニューヨーク州のスリーピー・ホロウ湖を訪れた。湖畔でバーベキューをしながら、しばらく母親と話していないことを思い出した。あたりを見回してみると、少し離れたところに電話ボックスがある。
そのとき、彼はまだ気づいていなかった。湖の上空を厚い雨雲が覆いはじめていたのだ。母と長めの話を終えて受話器を元に戻そうとした瞬間、すぐ近くの電柱に雷が落ち、電話線を通して電話ボックスまで高圧電流が伝わった。中にいたチコリアは衝撃で外に吹き飛ばされ、そのまま気絶してしまった。
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