京都西院・呪音の家/吉田悠軌・怪談解題
四半世紀前に関西で起こった凄惨な殺人事件は、現場となったマンションも、犯人の潜伏した住宅も残される、いまだ生々しい出来事だ。事件に関連する京都西院を訪れた探偵は、古都の地下に眠る「水の記憶」を発掘した。
文・写真=吉田悠軌 #怪談解題
ずっと聞こえていたおじさんの声
「吉田さん、お久しぶりです。京都に来られるとのこと、案内したい場所があります。
西院にある、俺の実家のすぐ近所です。昔、そこに殺人犯が潜伏していたのです。
事件は25年前に起こりました。大阪府交野市のマンションで、45歳の女が、再婚したばかりの52歳の夫を殺し、その遺体をバラバラにしていったのです。なんと1年以上も発覚しなかったのですが、女はその間、うちのすぐそばの借家でも生活し、マンションと行ったり来たりしていたようです。
その建物は今でもあります。なんだか行きづらい、嫌な雰囲気の袋小路にある、古びた家屋です。ただし女の羽振りはよかったそうで、近所の人に奢りまくったり、嵐山で人力車を借りて豪遊したこともあったとか。
あと、借家から道路にせりだした便所の前に、いつも女の飼っているシーズー犬がちょこんと座っていたのを覚えています。
女はその家にも、夫の一部を持ってきていました。逮捕後、軒下に埋められた体の一部が発見されたそうです。『鍋で肉を煮込んでいた』『その肉を犬に食べさせていた』との噂もあり、俺の父親も同じようなことを呟いていました。
それと2ちゃんねるに、事件当時の体験談が書き込まれています。残念ながら件の借家ではなく、殺害現場のマンションでの出来事ですが、面白い怪談なのでリンクを貼っておきますね」
——知人の横森君から、そんな連絡をもらった。折から京都への日帰り仕事があったのだが、西院であれば京都駅からすぐ出向ける。そして確かに、当該事件も2ちゃんねるの怪談も、ひどく興味深いものだった——。
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