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マオリの怪物が覚醒する話など/南山宏・ちょっと不思議な話

「ムー」誌上で最長の連載「ちょっと不思議な話」をウェブでもご紹介。今回は2012年8月号、第340回目の内容です。

文=南山宏

笑うオランダ人

 オランダ南部の食料雑貨品店経営者フーグ・ボッセ老人(70歳)は、2年前に腰骨の外科手術を受けて以来、どういうわけか目覚めている間は、ほとんど止めどなく笑い続けるようになった。
 といってもほかの日常的な行動はまったく正常で、会話もちゃんとできる。ただ俗にいう〝箸が転んでもおかしい年ごろ〟の女の子みたいに、何かといえばすぐにゲラゲラ、クスクス笑い出すのだ。
 本人もどうしてこんなにおかしく感じるのかわからないという。
 奥さんのノルダは「おかげで娘も兄も親戚も、みなうんざりして寄りつかなくなったわ」と嘆く。
 しかしただ一点、オランダ国歌を歌うときだけは別で、直立不動になって感激の涙を流すという。
 医者も手術の際の全身麻酔が原因かもと首をひねるだけで、治療の方法がなくお手上げ状態だ。
 マスコミが一斉に報じた本年3月の時点では、ボッセ爺さんは依然として陽気に笑いつづけている。


怪物覚醒

 ニュージーランドはオークランドで、現在進行中の大規模トンネル掘削プロジェクトが、同市の地下に往古から棲息するという〝聖なる怪物〟の代弁者たちに猛反対されて立ち往生している。
 先住民マオリ族の長老から構成される〝マオリ法令制定会議〟の主張によれば、26億ドル(約2000億円)の建設費をかけた同プロジェクトは、〝太初から当地に鎮座ましますタニファ様〟に少しも敬意を表していないという。
 タニファとは、マオリ神話で河川の激流や地中の洞窟や海洋の深淵に住む生き物で、人間の守護神でもあり、人喰いザメのような恐ろしい怪獣でもあるとされる。
 長老のひとり、グレン・ウィルコックス氏はこう警告するのだ。
「この建設計画が気に入らなければ、タニファはきっと〝目を覚まして牙をむく〟ことだろう」


不謹慎な露出

 墓場荒らし逮捕の目的で、米ミシシッピー州ピカユーンの警察が地元の共同墓地に設置したモーション検知作動式監視カメラは、その代わりにヌード姿で動き回るゴーストハンターをキャッチした。
 ロバート・ハースト(47歳)当人の言い分では、目的の〝霊界から出現するエネルギー光球(オーブ)〟を撮るには、素っ裸の肌こそが〝最上のキャンバス〟なんだとか。
 はじめはシャツだけのつもりだったが、つい興奮のあまり上も下も脱ぎ捨ててしまったのだそうだ。
 事件を報じた1昨年12月13日付けAP電によれば、ハーストは公然ワイセツ(インディーセント・エクスポージャー)の罪に問われている。


ワニの恐怖

 ウクライナはドニプロペトロフスク市内の海洋水族館で飼われている14歳のワニのジーナは、見物客のリンマ・ゴロフスクさんが写真をとろうとしてうっかり落としたケータイを呑み込んでから、そわそわと落ち着かなくなった。
 水族館員たちはリンマさんの訴えを最初は信じなかったが、そのときだしぬけにジーナのお腹の中で、ノキア(携帯電話端末のシェアで世界トップを争うフィンランドのメーカー)が鳴り出したのだ。
 自然排便を4週間ほど待つうちに、ジーナはかわいそうに食欲を失い、下痢になり、元気をなくして、苦痛の様子さえ見せはじめた。
 昨年1月21日付け「ガーディアン」紙によると、飼育係はやむなく手術で取り出そうと決断した。


空飛ぶ赤ん坊

 生後7か月の赤ちゃんが母親の目の前で、突然の竜巻に空中高く巻き上げられたのは、2010年9月6日深夜、ハリケーン(正式名は熱帯性ストーム)・ハーマインが、メキシコ湾の西端海上からメキシコに上陸した直後のことだった。
 ブランドン・エミリアーノ坊やが、メキシコ・タマウリパスの自宅内の寝台から、時速116キロの突風にトタン屋根ごともぎ取られて、真っ暗な夜空に吸い込まれるのを、母親のマリサは絶望に打ちのめされながら見送った。
 だが1時間後、ブランドン坊やはエミリアーノ家から60メートルほど離れた路傍に捨てられたマットレスの上に転がっているところを、近所の住民に発見された。
 坊やはまったく無傷で、救急隊員の話では、奇跡的に運よくそのマットレスに落下したおかげで、ショックが和らげられたらしい。
 以来、ブランドン君は〝空飛ぶ赤ん坊(フライング・ベビー)〟と呼ばれているそうだ。


恐竜のオナラ効果

 英リヴァプール・ジョンムーアズ大のデヴィッド・ウィルキンソン、ロンドン大のユアン・ニスベット、グラスゴー大のグレーム・ラクストンの3教授が、今年の米専門誌「現代生物学(カレント・バイオロジー)」第22巻9号で興味深い共同研究を発表した。
 数年前、「大気中のメタンガスの約13パーセントが、世界中で飼育されているウシのオナラやゲップに由来する」というユニークな研究が話題になったことがある。
 だが、1億5000万年前の中生代に栄えたディプロドクスやアパトサウルスなど、長い首と尾に巨大な胴体が特長の竜脚類(草食恐竜の総称)なら、もっとはるかに大量のオナラ、つまりメタンガスを発生させたはずというのだ。
 3教授は総体重こそキーポイントと考えて、平均サイズの草食恐竜1頭の体重を20トン、1平方キロメートルの土地に数頭から数十頭の個体が群れをなして生きていた、との想定からスタートする。
 地球全体では草食恐竜によるメタンガスの総排出量を、毎年最大5億2000万トンと計算した。
 これはウシ、ヒツジ、ヤギなど現存する全反芻動物のメタンガス産出量のゆうに6倍以上という。
 大気中のメタン濃度に換算すれば、草食恐竜だけで1~2PPM(100万分率)となり、これに温暖で湿潤な中生代特有の森林火災や天然ガス田から発生するメタンガスが、4PPMほど加算される。
 地球温暖化の一因として現在問題視されるのは炭酸ガス(二酸化炭素)だが、実はメタンガスはその20倍も温室効果が強いのだ。
 そこで3教授はこう結論する。
「1億5000万年前の中生代の気候を温暖化させたメタンガスの温室効果には、草食恐竜のオナラも大いに貢献した可能性がある」



(月刊ムー2012年8月号掲載)

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