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るみちゃん人形/読者のミステリー体験

「ムー」最初期から現在まで続く読者投稿ページ「ミステリー体験」。長い歴史の中から選ばれた作品をここに紹介する。

選=吉田悠軌

るみちゃん人形

北海道 27歳 鈴木沙織

 小学校のころ、父にねだって、声が出る人形を買ってもらいました。私はその人形に〝るみちゃん〞と名前をつけ、とても可愛がりました。寝るときも、出かけるときも、ずっと抱っこしていました。中学生になってもそれは変わらず、本当に大切にしていました。
 中学1年生のころ、うちに遊びにきた友だちが、るみちゃんを見て、
「可愛いから、一日だけ貸して」
 というので、内心はいやでしたが、貸したことがありました。
 すると、翌日、るみちゃんを返しにきた彼女から、
「夢の中にるみちゃんが出てきて、涙を流しながら、『私をママのところに帰して』と訴えられた」
 といわれました。私は思わずるみちゃんを抱きしめて、何度も謝ったものでした。

 高校生になると、私に彼氏ができて、当然、るみちゃんを可愛がる時間は少なくなってしまいました。たまに気が向いたときに抱っこするくらいでした。そして、いつしか、彼との間にるみちゃんのような可愛い赤ちゃんがほしいと思うようになりました。
 やがて20歳のころ、その彼とできちゃった結婚をし、21歳で母親になった私は、子育てに夢中になりました。そんな自分の姿をるみちゃんに見られることに、なんとなく抵抗を感じ、るみちゃんを実家に預けることにしたのです。
 翌年には長男も生まれて、育児に追われるようになった私は、すっかりるみちゃんのことを忘れてしまいました。
 そんなある日、中学生のころにるみちゃんを貸してあげた友だちが遊びにきて、
「なんか、泣き声が聞こえる」
 というのです。子供たちは泣いていないし、気のせいでしょう、といったのですが、彼女は、
「るみちゃんは、どうしたの?」
 と、ソワソワしています。私が実家に預けたことをいうと、るみちゃんがヤキモチを焼いている、かわいそうに、といって、涙まで流すんです。
 友だちの言葉が気になった私は、すぐに実家にるみちゃんを迎えにいきました。ところが、
なぜか子供たちは、るみちゃんのことを怖がるのです。夫も、すごくいやがりました。結局、私はるみちゃんを実家に預けたまま帰ってきてしまいました。

 それからです。子供がだれもいないところを指さして、急に泣きだすようになったのは。私自身、台所に立っているときなど、だれもいないのに服の裾を引っぱられるようになりました。先日の夜には、外出しようとした主人が、玄関を出てからずっと人形くらいの小さな人影にあとをつけられた、といっていました。
 るみちゃんは、今も私の実家にいます。母や友だちは、供養に出せば、といいますが、私には、どうしてもそれだけはできません。本当に大好きだった人形なので、いずれは家に連れて帰ってきて、娘と遊ばせたいと思っているのですが……。


(ムー実話怪談「恐」選集 選=吉田悠軌)

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