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どなた様?/読者のミステリー体験
「ムー」最初期から現在まで続く読者投稿ページ「ミステリー体験」。長い歴史の中から選ばれた作品をここに紹介する。
選=吉田悠軌
どなた様
群馬県 47歳 小原みさと
学生のころの出来事です。ある日のこと、バイト先で知りあった友人の家へ遊びにいくことになりました。その日、彼女の家族は外出しているという話でした。
彼女の住まいは、少々築年数のたったマンションでした。彼女の部屋は、広いリビングを抜けたところにあります。
部屋に案内された後、私たちふたりは、バイト先の店長の悪口をいいあうなど、笑いころげながら楽しい時間を過ごしていました。
やがてフッと話が途切れたとき、ドアの向こうから人の気配が感じられました。まるでだれかがリビングにいて、新聞を読んでいるかのような感じです。
実際、新聞紙をめくる音が聞こえてきたため、彼女以外にだれもいないと思いこんでいた私は、ちょっと驚いてしまいました。
「どなたかいるみたいだね。私、ご挨拶したほうがいいかしら?」
そう、彼女に聞きました。すると彼女は何もいわずに立ちあがり、ドアを開けてリビングを覗きこみました。
次の瞬間、いきなりバタンッと乱暴にドアを閉め、
「だれもいないよ」
と、投げやりにいいはなったのです。そのときの彼女の笑顔が変にぎこちなく、私は余計なことをいってしまったのかなと心配になりました。しかしそれきり新聞紙をめくる音は聞こえなくなりました。
帰りは彼女が駅まで送ってくれるというので、マンションを出て、並んで歩きだしました。
やがてマンションからかなり離れたあたりまで来たころのことです。彼女が立ちどまり、真剣な顔をして、
「あのね、思いきって打ちあけるけど、本当のこというと、実は、うち、出るのよ」
と、いいだしたのです。
「……えっ!?」
「さっきのあれ。ほら、あなたも聞いたでしょ? うち、よく、だれもいないリビングで、″白っぽい人″が新聞を読んでいるの。新聞紙をめくる音ってかなり独特でしょ。だから家族はみんな、とっくの昔から気づいているの」
やはり私が聞いたあの新聞紙をめくる音は、空耳などではなかったのです。
思わずゾッとした私が、
「怖くないの? お祓いとかしてもらえば?」
というと、彼女はとんでもないという顔をしてこういったのです。
「私が子供のころからいるんだから怖くないし、家族のだれもお祓いなんて考えたこともないよ。だってそんなことしていなくなったらつまらないじゃない」
ちなみに、あのとき彼女が自分の部屋のドアをバタンッと強く閉めたのは、その白っぽい人に消えてちょうだいという合図だったということでした。
そのとき私は、彼女や彼女の家族のことを、なんて優しい人たちなのだろうと思ったものです。しかし、その後、どんなに誘われても、二度と彼女の家に遊びにいく勇気はありませんでした。
(ムー実話怪談「恐」選集 選=吉田悠軌)
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