見出し画像

猫ばあさん/読者のミステリー体験

「ムー」最初期から現在まで続く読者投稿ページ「ミステリー体験」。長い歴史の中から選ばれた作品をここに紹介する。

選=吉田悠軌

猫ばあさん

大阪府 36歳 向田英一

 私がまだ小学校5年生のころでした。夏休みを利用して祖母の生まれた故郷である新潟県に遊びに行きました。これは、その祖母の家の隣に住んでいた、たいへん猫好きなお婆さんの死にまつわる話です。

 私が行くちょうど1年ほど前に、そのお婆さんは腰を痛めたために近くに住む息子さん夫婦の家に引きとられました。猫好きのお婆さんでしたから、そのとき当然たくさんの猫を飼っていました。しかし、息子さん夫婦にとっては、そんな猫たちまで引きとるわけにはいきません。そこで、息子さん夫婦は、お婆さんがいっしょに連れていってくれと泣いて頼むのを無視して、猫たちを山の中に連れていき、1匹残らず殺して捨ててしまったのでした。

 それからしばらくの間、お婆さんは毎日泣いて暮らしていたそうです。が、ある日突然お婆さんの様子が変わりました。これといった訳もないのに、いきなり息子さん夫婦に乱暴を働いたり、部屋中をはいまわってツメで畳や柱をひっかいたりするようになったのです。また夜はほとんど眠らず、部屋でジッとしていたかと思うと突然カッと目を見開いて大きな唸り声をあげたりもしたそうです。
 近所の人たちは、息子さん夫婦が殺した猫たちの怨霊がお婆さんにとりついたのだと大騒ぎでした。さすがに息子さん夫婦もほうってはおけなくなり、お祓いを頼んだりしたそうですが、まったく効果がありません。息子さん夫婦はすっかり困りはて、自分たちが衰弱状態になってしまいました。

 私が新潟へ行き、そのお婆さんを見たのはちょうどそのころでした。何も知らない私が見ても、そのお婆さんのしぐさや全体の雰囲気が猫そっくりで、びっくりして祖母にそのお婆さんのことをたずね、以上のようないきさつを話してもらったのでした。

 また、そのころには、そのお婆さんが住む息子さん夫婦の家にはたくさんのノラ猫たちがうろついていました。どこからやってきたのか、ある日いきなり現れて棲すみついてしまったのだそうです。追っても追っても数を増やすばかりで、ついに息子さん夫婦もあきらめてほうっておくしかなくなったようです。私は、そのお婆さんがまるで、そんなノラ猫たちとまったく同化してしまっているような奇妙な錯覚を起こしたことを今も覚えています。

 のちに聞いた話ですが、その後、息子さん夫婦の家が火事になり、焼け跡からお婆さんと、たくさんの猫の死体がでてきたとのことです。火事の原因はわからず、息子さん夫婦はその直後、逃げるようにしてその地を去ったきり行方がわからなくなったそうです。

 ちなみに私は、いまだにしばしば、そのお婆さんと猫たちにまつわる悪夢にうなされます。私も子供のころ、訳もなく何匹かの猫を殺したことがあるものですから……。


(ムー実話怪談「恐」選集 選=吉田悠軌)

★「ムー」本誌の特集やオリジナル記事が読めるウェブマガジン「ムーCLUB」(月額900円)の購読はこちらから。



ここから先は

0字
マニアックなロングインタビューや特異な筆者によるコラム、非公開のイベントレポートなど、本誌では掲載しにくいコンテンツを揃えていきます。ここで読んだ情報は、秘密結社のメンバーである皆様の胸に秘めておいてください……。

ムー本誌の特集記事のほか、ここだけの特別企画やインタビュー記事、占いなどを限定公開。オカルト業界の最奥部で活動する執筆陣によるコラムマガジ…

ネットの海からあなたの端末へ「ムー」をお届け。フォローやマガジン購読、サポートで、より深い”ムー民”体験を!