見出し画像

カーペンターズのトンデモ楽曲「星空に愛を」と米国UFO史/初見健一・昭和こどもオカルト回顧録

年に一度、世界中のUFO愛好家が地球外生命体との交流を試みる日「ワールド・コンタクト・デイ」。その公式テーマソング(?)を歌っていたのは世界的に有名なあのデュオだった。牧歌的UFO観にあふれるその歌詞は……。

 文=初見健一 #昭和こどもオカルト

 奇妙な「宇宙人ソング」の背景

 毎年3月15日は「ワールド・コンタクト・デイ」。世界中のUFO愛好家が地球外生命体にテレパシーを送り、交流を試みる日なのだそうだ。 とはいえ、この祭典の起源は1953年。今では本国アメリカでもあまり盛りあがらない前時代的イベントになっている。

 急に話は変わるが、あれは僕が高校生のころ、80年代なかばのことだったと思う。床屋で髪を切っていたら、店内のFM放送で奇妙な歌がかかった。当時の僕の英語力では詳細は理解できなかったが、ラジオDJと宇宙人の茶番劇みたいなコントに続き、妙に大仰でダサいB級プログレ風の曲が展開する。
「え?」と思ったのは、どうも歌っているのはカレン・カーペンターらしい。ロック少年だった僕は、世界中のロックファンから「反動分子」と目されていたカーペンターズなど代表曲しか知らなかったが、「彼らはこんなヘンテコな曲も演ってたのか!」と驚いた。歌のなかで、カレンはしきりに「私たちはあなたの友達です」と繰り返していた……。

 調べてみると、この曲は「Calling Occupants Of Interplanetary Craft(宇宙船の搭乗員に告ぐ、応答せよ)」。邦題は「星空に愛を」、そして副題が「ワールド・コンタクト・デイの公式頌歌」。1977年のリリースだが実はカバー曲で、オリジナルはカナダのプログレバンド、クラトゥが前年に発表している。このクラトゥというのは当初、メンバーの名前も顔も明かさずに活動していて、一時期は「ビートルズの変名バンドなのではないか?」などと噂されていた。ちなみに、「クラトゥ」という奇妙なバンド名は、1951年のSF映画『地球の制止する日』に登場する宇宙人の名から取られている。 

「Calling Occupants Of Interplanetary Craft」が収録されたクラトゥの1stアルバム『3:47 EST』(1976年)。曲のタッチやアレンジが似通っていたことから、「このバンドは実はビートルズなのではないか?」という憶測が広まった。

 歌詞の内容は「我々は誰もがテレパシー能力を持っている。だからこの歌詞をみんなで念じよう。宇宙船のみなさん、応答せよ。すぐに来て、“彼ら”に地球がもはや壊滅状態であると知らせてください。ここにワールド・コンタクト・デイを宣言します。我々はあなたの友達です」というもの。

 照れくさくなるほどアメリカ的ニューエイジ臭とリベラルなUFO観まるだしだが、この歌詞こそ、世界初の民間UFO研究団体「IFSB」(the International Flying Saucer Bureau.国際空飛ぶ円盤事務局)が1953年に開催した「ワールド・コンタクト・デイ」に際し、世界中に配布したメッセージだ。当日、各国のメンバーはこのテキストを「念じ」、彼方の異星人に「送信」した。

ニューエイジ的UFOブームと「M.I.B.」 

 60年代から70年代にかけての「アクエリアスの時代」、つまりはヒッピーたちが先導するニューエイジの時代に、アメリカでは「UFO運動」「UFO宗教」と呼ばれるムーブメントが活性化した。これらはライトなサブカルチャー的カルト宗教のようなもので、要するに「戦争」(もちろん当時のアメリカの若者たちの念頭にあったのはベトナム戦争である)や「環境破壊」(これもまたレイチェル・カーソンの『沈黙の春』(1962年)以来、若者たちの心を捉えた大きな課題だった)によって、もはや地球は風前の灯火である……ということを前提に、「チャネリング」などによって彼方の「地球外生命体」にメッセージを送り、「どうか愚かな地球人である我々に英知をさずけ、この星を救いたまえ」と呼びかけたわけだ。
 言うまでもなく、こうした流行は当時のロック、LSDなどのドラッグ、そしてヨガや瞑想や占星術など、あの時期のアメリカの若者文化を席巻したスピリチュアルなアレコレと密接に結びついている。今なら「みんなで空を見上げてUFOに助けを乞う」という行為自体は「アホか」と一蹴されるだろうが、ヒッピームーブメントによるアメリカの「変革」、さらに言えば資本主義的価値観を転倒させる「革命」の可能性がなかば本気で信じられる熱気のなか、若者たちを魅了した大小さまざまな「祭典」のひとつとして成立していたのだろう。

ここから先は

3,255字 / 2画像

¥ 200

ネットの海からあなたの端末へ「ムー」をお届け。フォローやマガジン購読、サポートで、より深い”ムー民”体験を!