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日本と台湾の巨怪建築ーー軍艦マンションを生んだ奇想建築のルーツ/吉田悠軌・オカルト探偵

どんなプロフェッショナルの世界でも、「鬼才」「異端」を冠される者はごくわずか。 今回、そんな「鬼才」建築家を追う探偵の前に現れたのは、大地にそびえる「軍艦」だった…?
(ムー2018年6月号掲載)

シリーズ記事は「#オカルト探偵」にて。

文・写真=吉田悠軌

プロフィール候補

吉田悠軌(よしだゆうき)/怪談サークル「とうもろこしの会」会長、『怪処』編集長。写真は善導寺屋上の物見台から、糸魚川市を一望中の一枚。

「軍艦みたいなお寺」のルーツ

「異端の建築家 渡邊洋治さんを調べていただきたいです」
 読者から寄せられたオカルト探偵への依頼は、シンプルかつ具体的なものだった。しかしムー編集部から転送されたメールに、私は少なからぬ奇遇を感じた。なにしろ私がオカルト探偵事務所を構えている裏新宿(歌舞伎町の裏側)の、すぐ近所に渡邊洋治の建築がそびえているからだ。それは軍艦が縦に伸びたような鉄筋コンクリートのビルで、通称もずばり「軍艦マンション」。渡邊の代表作とされるこの建物の前を、私はほぼ毎日通りすぎている。
 裏新宿のごみごみした風景のせいであまり目立たないのだが、あらためて観察すれば確かに奇怪な造形である。港町・直江津(なおえつ)に生まれ、戦時中には船舶兵だった経歴によるものだろうか、こうした無骨な鉄の船を想わせるモチーフが渡邊作品の特徴だ。

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吉田オカルト探偵事務所のすぐ近くにある、渡邊洋治の代表作「軍艦マンション」。正式名は「第3スカイビル」だったが、2011年のリノベーションにより「GUNKAN東新宿ビル」に改名。同連作である第5スカイビルもまた、ゴジラのような奇怪な外観だった(現存せず)。

 処女作には作家の全要素が詰まっているというが、そんな渡邊のデビュー作はなんと寺院であるらしい。変わった宗教建築は数多いものの、「軍艦」のような「お寺」など、どうやってもイメージすることができない。ともあれ現物を目の当たりにしなければと、私はその寺がある新潟県糸魚川市へ足を運んでみた。

 いったいどんな建物が待っているのか……。北陸新幹線の車中で思い出していたのは、これまでの取材で出会ったオカルト的ともいえる建築群だった。

台湾の怪怪屋「葉山楼」

 台湾では幽霊屋敷のことを鬼屋(グイウー)と呼ぶが、桃園市龍譚にある巨大建築は、地元の若者から怪怪屋と呼ばれ無気味がられている。とはいえ立地は怖くもなんとない、大きな交差点のど真ん中。行きかう車を見下ろすコンクリートの塊には、色とりどりの看板広告が掲げられている。これぞ台湾を代表する怪怪屋の「葉山楼(イーシャンロウ)」だ。しかしここは鬼屋でも廃墟でもない、れっきとした住宅である。

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台湾・桃園市にある葉山楼(イーシャンロウ)。鉄筋とコンクリートを好き勝手に組み合わせた現代の迷宮城だ。外付けの広告板が風情を壊しているようにも見えるが、葉先生によれば「あれは鳥の糞よけです。ゆくゆくは防止ネットを張って、広告はとりはらうつもりです」とのこと。

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