長ネギ
冬の陽が落ちた頃、子2人を連れてオオゼキを出た。もう真っ暗だね、と帰ろうとしてスーパーの袋を持ち上げたところ、抱っこ紐に入った下の子が、袋から伸びた長ネギの青い部分をグニッとつかんだ。
しまった。
私は両手がふさがっているし、1歳の手はつかんだものを容易には離さないと分かっている。しかし、潰れた、いかにも臭いそうな長ネギをこのままつかませておくわけにはいかない。そこで、隣にいた上の子に頼んだ。
「ねえ、青ネギつかんじゃったの、取り上げてくれる?」
「いいよ!」
5歳の手は妹から遠慮なく長ネギをサッと取り上げた。
よくやった、と思った次の瞬間、息子はなぜか全速力で暗い街を駆け出した。呼びかけても振り向きもせず、どんどん離れていく。私は取り上げてと言っただけなのに。
いくら戸越の皆様が小さな子に優しく、よく気にかけてくれるといっても、この夜道に長ネギを握り、ひとり勢いよく走っていく子は、奇妙に思われるだけで心配されないような気がする。
もう姿が見えなくなった息子が道に飛び出したりはしていないか、と不安に思いながら、下の子とスーパーの大袋を抱え、できるだけ早く追いかけた。息子はそのままの勢いでマンションの玄関までたどり着いたらしく、そこでおとなしく待っていた。私はホッとした。
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