白井球審批判から考える公平性
客観的に見て何があったのか
4月24日に行われたオリックス・バファローズ対千葉ロッテマリーンズで、白井一行球審がロッテの佐々木朗希投手に詰め寄った行動が物議を醸している。特段誰も処分が出ておらず試合の流れを大きく左右する出来事でもなかったため、私自身は特段大した問題とも捉えていなかったのだが、周囲の意見を聞くと悲しいかな白井球審が四面楚歌の状態である様に思う。
ここで、何があったのか出来るだけ客観的に事実を列挙すると、以下のとおりである。
当日の白井球審は微妙な判定が多く、1回裏の投球いおいて既に佐々木投手は白井球審に不服そうな態度をとっていた。
微妙な判定は佐々木投手に偏ったものではなく、オリックス側の山崎投手もストライクをボールと判定された球が結構あった(これは私自身が確認した訳ではなく落合博満氏の発言を引用している)。
やや主観的な判断も混じるが、問題の投球は事後的にビデオで観るとストライクの可能性が高い。
ボール判定直後の顔は、何故かセンター方向からのビデオ映像しか公開されていないので不明。
一塁走者の二塁盗塁成功後(ボールは二塁に送球された)、佐々木投手が不満の態度を表しながら、マウンドから降り、球審側へ2、3歩詰め寄った。
佐々木投手の態度に怒りが爆発したのか、白井球審がマウンド上の佐々木投手に詰め寄り、注意を発する。私には関西弁で「どうしたん?何かあるん?」と言っている様にも観えたが、世間的には恫喝だとか威嚇したことになっている。
白井球審のみが袋叩きに合う理不尽さ
「大人が若者に対してみっともない」「審判は冷静であるべき」「パワハラ」「昭和ならまだしも令和の時代に受け入れられない」「佐々木は悪気なくマウンドから勢いで降りただけ」「明らかにストライク」というのが、白井球審批判の主なものだろうか。最後の判定技術に関するコメントについては私も同意し、判定技術の向上に取り組んでもらうことを祈る(困難なお仕事をされているのだろうと理解はしておりますが)のみであるが、その他の批判には殆ど同意しない。何故か?その批判がまったくフェアでなく著しく公平性を欠いたものだからである。
プロとプロは基本対等であるべき
舞台は高校野球ではない。プロが己のプライドと生活を賭けて最大限のパフォーマンスを発揮すべく努力している場において、年齢差や選手と審判の差などの歪んだ尺度を持ち出すべきではない。両者は対等であるべきなのだ。勿論、審判が恣意的なジャッジでゲームの進行を歪め、選手に対して優位な地位に立とうとする様な場合は別であるが、今回はそういったことはなかった様に思われる。むしろ今回の場合は、年棒、人気、注目度、サポーターの数という観点から佐々木投手に圧倒的なパワーがあり、白井球審の方が結果的にパワハラを受けやすい立場にあったとすら言え、だから審判によるパワハラなどという議論になるのは全くもって不可解である。
判定に不満を表すことの是非
ルールブックでは球審の判定に不満や意義を申し立てることは禁止されている様であるが、私個人の意見としては全然あってよいことだと思う。投手も真剣にプレーしているのだから納得できないジャッジには真剣に腹が立つだろう。従って判定に不服そうな態度を表した佐々木投手の行動については理解できる。若いからという甘っちょろい理由ではなくプロだからである。だから、プロとして責任のあるジャッジを下した白井球審が佐々木投手の態度に敏感に反応することも同様に理解できるし、今回のケースは誰も悪くない。プロとプロの意地がぶつかりあった結果の出来事であり、ここまでバズる方が不思議なくらいである。
判官びいきの日本人体質
そもそも日本人は判官びいき体質が強い。本当に弱い人の肩を持ち助けるのなら美談であるが、大体はスーパースターが少し反撃を食らった時に擁護する傾向が強いのではないか。贔屓のアイドルや俳優なら何をやっても許されるという、お決まりのパターンである。今回で言えば佐々木投手は守るべき対象であり、白井球審が悪役という大げさな構図が誰かの手により作り出され、それに乗っかる謂わば「集団リンチ」の様な状態になっており非常に恐ろしいとさえ思う。メディアなどの媒体でも白井球審を擁護しづらい空気感が支配している。
最近の日本人は争い事に慣れていないのかもしれないが、白井球審のあの態度は確かに行儀が良いとは言えないものの、「恫喝」や「威嚇」とは程遠いものに思える。白井球審自身の心持やご家族に悪影響がないかどうかが心配される。
佐々木投手は喧嘩の経験が少ないのではないか
佐々木投手が不満を顔に出すことについてはまったく問題ないと思うものの、本人にどれだけの自覚と覚悟があったかは甚だ疑問である。そもそも、相手が責任持って下した判定に文句を言うという行為自体が喧嘩を売っていることと同義である。いや、正々堂々と抗議をするならまだ相手も毅然とした態度を崩さなくてよい余地があったかもしれないが、1イニングから重ねられたあの苦笑いの不満表明は、受け手の印象が悪すぎる。本人にその意図があったかどうかは不明であるが、身長190cmを超える大男が相手を小馬鹿にした様な笑みを浮かべながらガニ股でマウンドから降りてくる光景は、相手を挑発している行為を受け取られても仕方がない。佐々木投手はもっと喧嘩の仕方を学ぶべきである。
さいごに
繰り返しになるが、私は今回の件では誰も悪い者などいなく、審判批判が展開される風潮には反対である。投手も審判もそれぞれプロフェッショナルととしてのプライドを賭けて真剣に勝負しているのである。感情がぶつかり合うこともあるだろう。喧嘩や乱闘も含めてプロ野球の魅力だと思うのはいささか前近代的であろうか。
サッカーやラグビーなどの反則を巡る選手と審判のやり取りと異なり、野球のストライク/ボールの判定はそもそも抗議の余地を残せば試合が成り立たない。ファンとしては審判の判定に不服を持つことも多いが、人間が判断している以上それは仕方のないことなのだと割り切るしかないのではないか。幸い、ひと昔の巨人贔屓の審判団と異なり、今の審判は特定のチームに偏った判定をすることはないし、ミスがあったとしても『公平』にミスジャッジしてくれる。公平性が保たれている限り大目に見るくらいの余裕がないと、何かギスギスして楽しめないなあとすら感じる。