『青天を衝け』第14回「栄一と運命の主君」(2021年5月16日放送 NHK BSP 18:00-18:45 総合20:00-20:45)
平岡円四郎(堤真一)が提示した一橋家仕官の話は栄一(吉沢亮)と喜作(高良健吾)にとってまたとない良い話であったにも関わらず、栄一は「苟も志にかかわる話ゆえ……」と即答を避ける。円四郎は「本当の馬鹿だぜ」と言いつつ、公儀の役人への返答は引き延ばすようにと川村恵十郎(波岡一喜)に指示をする。
宿へ戻った喜作は「今更ありえない話だ」と息巻くが、栄一は冷静に考え、一橋家仕官の道が一時的には卑怯だと後ろ指指されるかもしれないが、長い目で見れば一挙両得の上策であることに気がつくのだった。
再び円四郎の京の屋敷。栄一は、愚説を建白してから召し抱えて欲しいととんでもない条件を提示する。しかも直に拝謁してお耳に入れたいと言う。今で言えば、直接菅総理に会って話をしたいというくらいか。当然、円四郎はそれは無理な話だと頭を抱える……。
ここで前回お休みの家康(北大路欣也)登場。家康の説明では身分がどうのこうのというより、その頃の慶喜(草彅剛)は大変だったと述べる。つまり、朝議参与のメンバーが直接帝に意見をいうという体制ができ、そこでの権力争いの渦中にあったからだという。また薩摩の久光(池田成志)をはじめとする外様が幕府に代わって力を持ち始めていたなかで幕府は外様に勝手をさせてなるものかと家茂(磯村勇斗)も上洛(1) し、牽制を強めていた。将軍後見職でありかつ朝議参与であった慶喜は両者の板挟みでピンチだったのだ。
場面は二条城。幕政の中心はすでに京に移っていたことは前回の話のなかで出て来たとおり。そこで慶喜に対して意見を述べる老中・水野忠精(松村武)と酒井忠績(小山力也)。彼らの意見は、すでに横濱鎖港使節団(2)も派遣しているのだから、薩摩への同調は否、すなわち横濱鎖港を貫けというものだった。しかし、当然参与会議の薩摩は反対。松平春嶽(要潤)も反対。久光は幕府の政策を姑息だと言うが、それに対して慶喜は「半年前まで攘夷と言っていた姑息の男は誰であったか」と場の緊張感を高める。その議論を控えの間で聞いている大久保一蔵(石丸幹二)が、不気味な存在感を示している(ただ、石丸幹二は大久保のイメージと合わない感じがしなくもない)。
円四郎は上記のようなとんでもない時期に栄一や喜作を慶喜に会わせるのはとても無理だと言うが、一計を案じる。この辺はこちらに詳しく書かれているので省略するが、このドラマが始まる前から宣伝でもよく使われていた栄一と慶喜の邂逅シーンという見せ場。運命の主君との出会いはこうやって実現し、円四郎は、無事に召し抱えることとなった栄一と喜作に現在の政治状況を話し、この先は一橋のためにきっちり働けというのであった。
ところで栄一と喜作は若州屋敷の応接の間に飾ってあった慶喜の銀盤写真に気がつく。今回は一橋家家臣・黒川嘉兵衛(みのすけ)もちょこっと登場するが、実は現存する日本で撮られた最古の写真がこの黒川を撮ったもの。慶喜の写真も最初期のものであろう。
一橋家で栄一たちに与えられた仕事は、書類整理の事務仕事。住居もあてがわれたが鍋釜、布団を用意するお金もない。一橋家家臣の猪飼勝三郎(遠山俊也)がいい人そうでで良かったね・w
血洗島では江戸の長七郎(満島真之介)の様子を探りに行った惇忠(田辺誠一)が戻ってきた。心配な様子の渋沢家の人びとであった……。
再度、京の二条城での参与会議。ますます慶喜と久光の対立が鮮明になるなか、薩摩は中川宮[久邇宮朝彦親王](3)(奥田洋平)に取り入って朝廷への影響力を強めようと画策。この中川宮邸ではじめて大久保一蔵が台詞を吐く。
参与諸侯の幕政への参加が認められるなか、家茂が参与諸侯へ酌をするシーンに続いて朝廷はすでに鎖港攘夷にこだわらなくなったとの中川宮の考えを慶喜に伝える薩摩や越前。慶喜はどのような朝議によって中川宮が突然そのようなことを言ったのか了解しかねると久光に詰め寄る。
そして、中川宮邸酒宴事件。実はここが個人的には今回最大の見所。酒に酔って暴言を吐く慶喜を草彅剛が演じたのも・w
薩摩に一泡吹かせ「快なり」を叫ぶ慶喜。そして、栄一たちにも酒が振る舞われるのであった。
注
(1) 家茂は家光以来229年ぶりに上洛した将軍。前にも紹介したが、この辺は久住真也先生の研究に詳しい。
(2)この使節団は何の成果も上げられなかったが、エジプトのスフィンクスの前で撮った写真が超有名。
(3)中川宮(久邇宮朝彦親王)の第九王子が、敗戦後首相となった東久邇宮稔彦王(のちに皇籍離脱して東久邇稔彦)。香淳皇后(昭和天皇の后)の祖父なので、上皇明仁の曾祖父、天皇徳仁の高祖父ということになる。