『青天を衝け』第10回「栄一、志士になる」(2021年4月18日放送 NHK BSP 18:00-18:45 総合20:00-20:45)
栄一(吉沢亮)が生涯忘れることのできなかった出来事。それは志士として尊攘運動に参加したことであった。『青天を衝け』第10回は栄一が再び江戸に出てその運動に参加していくという話。また幕府は大老の井伊掃部頭(岸谷五朗)が桜田門外で暗殺されたあと、老中首座となった安藤信正(1)(岩瀬亮)主導で「公武合体」を進めるために皇女和宮(深川麻衣)を第14代将軍・家茂(磯村勇斗)の嫁に迎えることを決めた。いわゆる「和宮降嫁」である。栄一も江戸へ、和宮も江戸へ。和宮一行は物騒な東海道を避け中山道を通った(ただし、嵩張って重い「嫁入り道具」は東海道経由)。おかげで血洗島の百姓たちも駆り出されていい迷惑という話も描かれている。
さてドラマの冒頭では幕末のインフレーション(2)の話が何度か出て来た。栄一は、父の市郎右衛門(小林薫)に幕府が貿易をはじめたことがその原因である旨を言っていたが、この時期のインフレは前回触れた幕末の金流出を阻止するために、小判を改鋳して金の含有量が安政小判の3分の1であった万延小判を発行したことに直接的には起因する。もちろん、幕府の改鋳政策は19世紀に入って徐々におこなわれてきており、全体にインフレ基調で推移していたので、幕末インフレを万延改鋳のみで説明することはできないだろう。大橋訥庵(山崎銀之丞)が思誠塾塾生の前で言っていたように「江戸は呪われたのじゃ」とか坂下門外の変の実行犯である河野顕三(福山翔大)が言うように「神の国に異人を入れた天罰」というのも当時としてはありであった。栄一は「天罰」論に疑問を呈するのだが、「俺たちが風を起こす」というアジテーションには心を動かされる。
江戸に集合した長七郎(満島真之介)、喜作(高良健吾)、そして栄一たちは酒を飲みながら、天下国家を憂う。喜作は「幕吏」という言葉を知らなかった栄一に「夷狄の言うなりの幕府の犬を尊攘の志士たちはそう呼んでいるのだ」と説明する。河野はさらに具体的にそれを老中・安藤対馬守と特定し、水戸や長州はアテにならず、草莽の志士である我々が安藤を誅せねばならないと息巻く。
しかし、草莽の志士と意気込んでも実際には誰も刀で人を斬るということをやったことはない。だからこそそのための訓練なのだが、栄一が真剣を使うこの短いシーンは非常に印象的。
さて、いったん血洗島に帰郷した栄一は、岡部藩にも和宮降嫁の準備を命じられたことを知る。そのことに対する怒りは、しかし、千代(橋本愛)の懐妊で落ち着く。頭を冷やすには絶妙のタイミング!!
和宮降嫁の準備に大わらわの血洗島。準備された諸道具や食料などは深谷宿に届けられて供されたのだろうが、そのシーンはなくて、江戸到着。家茂と和宮の対面シーン。和宮は想像していた殿方と違ってホッと安堵したことであろう・w
和宮降嫁が成ったあと、大橋訥庵の塾では安藤暗殺計画が進んでいく。尾高長七郎がその暗殺者に指名されるが、長七郎は賢明にも血洗島に帰り、惇忠、喜作、栄一に決意を述べる(止めて欲しかったのかな?)。惇忠や栄一は安藤一人を斬ったとて何も変わらないと諫める。「根本から正す」という栄一にこの時点でヴィジョンがあったわけではなかろうが、惇忠はそれを受けてより大きな幕府顚覆という目標に長七郎が必要だと説得し、長七郎は上州に身を隠すこととなった(現在、「青天を衝け」の特別展示がおこなわれている埼玉県立歴史と民俗の博物館ではこの後惇忠が起草した「神託」(次回、登場かな?)も展示されており、興味深かった)。
そして「坂下門外の変」勃発。安藤対馬守は背中を斬られただけ。襲撃した6人は全員討ち死。大橋訥庵も捕縛され、のちに獄死することになるのだが、上州に身を隠していたはずの長七郎も江戸に向かったという報が栄一のもとに届くのであった(続く)。
注)
(1) 「坂下門外の変」のあとに「信正」と改名しているので、その前は正確には「信行」。しかし、ドラマではその辺は無視して「信正」としている。
(2)幕末のインフレーションに関する論考はこちらを参照。