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2024年ベスト経済書+α

今日発売の『週刊ダイヤモンド』の第2特集のアンケートに答えたが、私が選んだベスト経済書3冊はどれも10位以内にランクインしなかった(飯田さんの本が11位)。また「戦後80年の日本経済の検証と分析に役立つ5冊」にも入らなかった。ちょっと悔しいので、ここに挙げておきたい。上3つが2024年のベスト経済書として挙げた3冊で、最後のものが「戦後80年の日本経済の検証と分析に役立つ本」として推薦したもの。

萬代悠『三井大坂両替店 銀行業の先駆け、その技術と挑戦』中公新書
三井大坂両替店の「事業概要」、「組織と人事」、「信用調査の方法と技術」などについて、原史料を縦横に駆使しながら精緻に論じた刺激的な一冊。たとえば奉公人の昇進と報酬のシステムに事実上の年功序列賃金制度が取り入れられていたこと、信用調査の結果、住友などの豪商でも信用調査結果が芳しくなければ、融資を断っていた点など非常に興味深い。

飯田泰之『財政・金融政策の転換点 日本経済の再生プラン』中公新書
財政・金融政策の統合運用による高圧経済への移行を提言した本書は、初学者にもわかりやすく丁寧に財政政策とは何か、金融政策とは何か、それぞれ何ができて、何ができないかを説きつつ、1980年代以降、いかに財政・金融の整合性のない政策が経済成長を妨げてきたかが示されている。政策提言としては、需要主導型経済政策への転換をあげているのだが、同時にこれが従来の産業選別的な政策になってしまわないように注意する必要があることも指摘されている。

伊藤宣広『ケインズ 危機の時代の実践家』岩波新書
「危機の時代の実践家」としてのケインズを描いた好著。「危機の時代」とは第1次大戦から第2次大戦までのいわゆる「両大戦間期」である。本書で具体的に取り上げられている課題は、第1次大戦後の対独賠償問題、金本位制復帰問題、そして大恐慌の問題である。本書に通底しているのはミクロの合計がマクロにはならないという「合成の誤謬」という視点である。ともすればもはや常識として忘却されがちであるのだが、当時においては斬新であり、ケインズによる格闘の賜物であったことが強調されている。

香西泰著『高度成長の時代 現代日本経済史ノート』(日本評論社、1981年、日経ビジネス人文庫、2001年)
戦後日本がどのような軌跡を辿りながらかつてないような高度成長を実現できたのか、またなぜそれが終わり、1970年代に入ってどのような問題に直面していったのかについて様々なデータから冷静に分析した好著。戦後80年という観点から言えば、その前半に当たる1945年から1970年代半ばまでを対象としたものではあるが、その後の低成長期、バブル期、さらにその後現在に至るまでの日本経済を考える上でも重要な視点をいくつも提供している。なお文庫版では2001年時点での著者による若干の現状分析もある(「文庫版へのあとがき」)ので参考になる。

吉川洋『高度成長 日本を支えた六〇〇〇日』が2位に入るくらいなのだから、香西氏の上記の本の方がより上位に入っていても不思議はないと思うのだが……。

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