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ゴキブリが出た!

昔からひどく弱虫だから損ばかりしている、気がする。ジェットコースターには乗りたくないし、受験だったり就活に失敗したらどうしようと考え込んでしまったりする。どっちも失敗したけれど。案外失敗してしまうとそれはもうどうでもいいことで、悩んでいたことが馬鹿らしく思えたりもするけれど、やっぱり失敗しないに越したことはないし、悩んでた時間にもっといっぱい本を読んだり映画を見たり、友達と遊園地に行ったりすればよかったと思ったりもする。まあ遊園地に行ったら絶叫好きの友達に無理強いされて後悔することになるのだけれど。


部屋にゴキブリが出た。うわあ、まじか。メガネを外してさあ寝るかと枕を準備した瞬間、黒い影が僕の前を通り過ぎた。まあいいや、多分気のせいだと思って電気を消し、目を閉じてちょっと猥褻な妄想でもしてみたけれど、気がつくと妄想の中にゴキブリが忍び込んできて、てかだんだんゴキブリの方が主になってきて、ニヤニヤした僕の顔はだんだんと引きつる。さっきまでの睡魔はゴキブリの前にそそくさと逃げ去ってしまったらしい。将来の不安だとか、うまくいかない恋路だとか、そんな暖かくて幸せな妄想は音も立てずに消え去ってしまい、僕の前に立ち現れるでかいゴキブリ。


とりあえずパソコンをもってベランダで夜風を浴びる。上着も羽織らず寝巻き姿のまま逃げ出してしまったから、当たり前だけどとても寒い。でも戻ったら戻ったでゴキブリの残像に悩まされるから戻るに戻れない。こんな時に誰かとルームシェアしてたらなあ、と思う。まあしてたらしてたで、急な衝動に襲われた時に、一人暮らししてたらなあ、と思うんだろうけど。


部屋の中から物が落ちる音がした。僕の弱気な心臓は危うく止まってしまうところだった。ゴキブリが部屋を荒らしている!多分適当に立てかけてあった本が棚から落ちてしまっただけだろうけど。


さて、この文章を書いている限りは部屋に戻らない理由があるわけだけど、そもそもゴキブリが出たことを長文にする才覚は僕に備わっていない。読みかけの本を持ってきたらよかった。ああ、もう書くことないな。


僕は勇気を振り絞って文章を終え、ノートパソコンを閉じる。そしてまた開く。Twitterを確認してから戻ろうそうしよう。みんなの温かい言葉を読んで勇気付けられよう。でも寒いなあ、靴下履いてくればよかった。もう我慢できない仕方ない。弱虫がゴキブリに立ち向かうのだ!虫だし!

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むね
喉から手が出ちゃう