2024UTMB - TDS 150kmに出場して気づいたこと(前編)
8月22日ジュネーブ到着から9月3日までの10日余り世界最大のトレランの祭典、UTMBに参加してきました。私が役員をさせてもらているグループのスポーツ企業、株式会社ルーセントでは、LUC+Adventuresのブランドで2022年よりツアー運営を事業として行なっています。今年もUTMBオフィシャルツアーの運営者として、会社の仕事でツアーを運営でき、無事に終了したことにまずはほっとしてます。今年も世界に挑戦するトップアスリートから、夢に見た初めてのUTMBに望んだ方まで本当にたくさんの方のドラマを見せてもらいました。この文章はその余韻に浸りながらヨーロッパを後にするフライト中にかいています。
思えば今年もたくさんの方に手助けいただき、私自身もまた素晴らしい経験ができました。ツアーに参加していただいたみなさん本当にありがとうございました。
例によりわがままを言って私もランナーとして走らせてもらいました。遅い一般ランナーの感想ですが気づいたことをシェアしてみます。
今年の挑戦はTDS150キロ。難度が高いといわれるレースです。私は2020年にエントリーしていたのにコロナで開催されなかった過去があります。
難しいのはわかっていながらエントリーしたのに、正直今回は全く自信が持てない挑戦でした。2月に目の手術をしたこともあり、トレーニングも減量も中途半端。気持ちが乗らないままダラダラとレースを迎えてしまった感。みんな積み上げてきているのに....それでもやれるだけやる、という気持ちで臨みました。ここからは個人のTDS挑戦のメモです。
ウルトラトレイルの世界最高峰、UTMBとTDS
最初に、まずこの競技にあまり縁のない方向けに説明を。トレイルランニングというのは山を走って競争するスポーツ。その中でフルマラソン以上の距離を走る競技はウルトラトレイルと呼ばれる。世界で最も人気がある、モンブランの山を一周巡る100マイル(約170km)のレース、UTMB(Ultra Trail de Mont Blanc) の主催団体が、「ウルトラトレイル」を商標登録までしています。UTMBはそのモンブランの周りを一周、フランスのシャモニーからスタートしてイタリア・スイスを巡ってシャモニーに戻ってくるメインレースの他に、6種類ほどのカテゴリーがあり丸1週間毎日レースが開催されています。TDSはその中でUTMBに次ぐ距離の150kmのレース。イタリアのクールマイヨールからスタートしてフランス・シャモニーでゴール。昨年UTMBに出場したものの完走できなかった僕は今年も走りたかったけれど、くじ引きにあっさり落選。気を取り直し、過去コロナでレースが開催されず走ったことがなかったTDSに出てみようと決めたのでした。
TDS 150kmスタート
TDSスタートはUTMBの週間の開催初日、25日夜11時50分。ほぼ26日真夜中からのレース。ツアースタッフのみんながレース前の僕の分も仕事を引き受けてくれ、しっかり睡眠をとれた。天候もよく、コンディションは上々。イタリアのクールマイヨールまでツアーの車で余裕を持って送迎してもらい、現地でも確保したホテルロビーで直前まで眠ってスタート。
スタートからそれほどたたずに早速登りが始まる。最初はロードの登りからトレイルへ。若干の渋滞。前半戦の制限時間が厳しいセクションでもあり心配になりつつも急ぐ。ひたすら進みながらも徐々にペースが掴める感覚。早いランナーについて行けはしないまでもなんとか自分のペースで計画通りに進めそう。確かに厳しい登りも多いけど悪くない。
2つ目のエイド、ラック・コンバルまでは14キロ、計画よりも前倒し、関門より30分以上余らせて到着。
走れている
ラック・コンバルを出たあとはさらに本格的な山々、徐々に空が白み始め、イタリアの美しい山々が姿を現す。体もいつもより早くレースのペースに適応し心拍数も下がってすすめている。やれている。目指すは4つ目のエイド、50キロ地点のブールサンモリスの街。そこまでは関門時間が猛烈に厳しいと考えていたので山の写真をとるゆとりもなく進む。
すっかり明るくなり、朝日に輝く牧場を縫うトレイルを進む。美しい。さらに進み、森林限界を超えた高地も超えた先で、湖が現れる。これがあの写真で見た湖かと感動する。初めてゆっくり写真をとる。ちょうど一緒になった友人の写真も湖を背景にベストショットがとれた。今の朝日を浴び、背後の山を鏡のような湖面に映したこの時間がきっとこの湖は一番美しいんだろう。速いランナーにはこの感動は味わえなかったはず。遅いランナーで得したなー。
何とか登りをいくつもこなすと、今度は大きな下りや走れるセクションが続く。眺望のひらけた気持ちのいいトレイル。でも思うようにはスピードがだせない。歩いている場合ではない。とにかく疲労を残しすぎないペースではいそがないと。他のランナーをかなり抜くが、ブールサンモリスが遠い。
トレイルランナーのリアル
やはりトレーニング不足は隠せない。まだ50キロにも満たないのにすっかり足が重い。今回は絶対諦めず最後まで進み続けると決めていたはずの心に疑問が浮かび始める。
何のタイミングだったかもう思い出せない、気づいた時には躓き、派手に転倒していた。路肩に転落し、トゲのある低木に右手をぶつけて擦り剥く。オーバーペースなのか。まだ10時間も走っていないのにこんなに疲労していることを実感してショックを受ける。
だんだんぐるぐる考え始める。なんでトレイルをやっているのだろう。このレースを完走できなかったらウルトラトレイルをやめてしまうよう気がする。そうしたら一体僕は何をするんだろう。
ブールサンモリスはそれでも予定よりも早く到着できた。ここが最初のサポートエイド。ツアーのスタッフが待機していて、暑いなかありがたい素麺や日本から郵送した和菓子まで補給をしてくれる。自分の用意したドロップバックもここで使える。疲れてはいる。でも元気になった。やれるはず。
エイドをでたらすっかり気温が上がり日差しが照りつけるなかこのレース最大の登りセクションにはいる。出る時になぜか水のフラスクを一つ忘れてしまう。エイドに詰めていたスタッフの若岡さんが走ってきてくれる。数々のレースで優勝してるウルトラランナーの若岡さん。この先の長い山で完全に水切れになるところだった。大感謝。
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