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拙作《キメラ》の特殊奏法について(「管弦楽法のバスクラリネットの項を再考する」番外編①)

今回は拙作の解説ですが、せっかくですので、これまでに執筆してきた「管弦楽法のバスクラリネットの項を再考する」シリーズに関連させ、特殊奏法が実作にいかに現れているか、(簡素ではありますが、)少し説明を試みてみようと思います。今回は《キメラ》という作品を扱い、主なテーマを「重音」としてお届けいたします(適宜シリーズ第3回を参照してください)。


①バスクラリネットとピアノのための幻想曲

本題に移る前に、この作品を執筆する以前に書いた楽曲であり、深く関連のある拙作《Fantasie》に触れておきましょう。
この作品で、主に重音が用いられているのは、全4部中の第3部分です。ここでは、ピアノから立ち昇る響きの中から、モワレ的にバスクラの重音(等々)が、創出されてゆくような、そんなイメージを持って描きました。その結果として、幽玄的(=ファンタジー的)な表現を志向しております。
また、ピッチ構造と重音がゆるやかに関連づけられており、1曲中の統一を図っています。つまり、通底するイデオロギーが存在するということ(…を意図しているの)ですね。

②キメラ

・本題:重音について

さて、今回の作品では、前回の「(ピッチ構造と重音の)ゆるやかな関連」といったものが継承されつつ、「楽器間」においても重音の関連づけがなされております。具体的には、バスクラの重音1とサックスの重音1が対応し… バスクラの重音2とサックスの重音2が対応し… バスクラの重音3とサックスの重音3が対応している…ということです。もちろん楽器の構造が違いますから、まったく同じ構成音というわけではないのですが、近似の響きがするものを選択したつもりです。この似ているようで似ていない、似ていないようで似ている2つの楽器間の重音が、3楽章で(ヴァイオリンを媒介しつつ)無理やり結合しようとします。それこそこの楽曲における「キメラ的」表現の代表たるもの、のひとつというわけですね。また、2楽章では、ドライブ感のある楽想に重音を用い、未聴感のあるサウンドを目指しました。

・補足:バスクラリネットのハイトーン問題

この楽曲ではシリーズ第2回で述べた超高音域をも超過する音高を用いています。この辺りの音域は音程もあってないようなものですし、100%百発百中というわけにもいきませんから、あなたが作曲家であり、かつ自作に用いたいのであれば、それは折り込んでおく必要があるでしょう(実際に私の今回の演奏も完全に楽譜通りかと問われると、自信を持ってYesとは言えないようなものです。お恥ずかしながら…)。もちろん機動性もありません。
なお、運指表は、シリーズ第2回で触れたような書籍に記載されておりますが、私はそこからずらしてオリジナルのものを使用しております。個人差、個体差のような概念は、やはりこの高さまでくると、色濃く露呈してしまうような気がしております。

まとめ

これが(私的に)1番大切なことなのですが…。確かに重音(等々)を使うと容易に「現代音楽っぽい」作品を創作することができます。しかし、個人的にはそのような作品は好きませんので、必ず何かしらの意味のある音を置くように善処しているつもりです。
使ってそこはかとなく中途半端な感じになるとしたら、むしろ使わない方がいいのではないかなあ…と、自戒を込めて…。

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