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【連載小説】マジカル戦隊M.O.G.(第20回)

前略

変な液体に漬けられたり血を抜かれまくったり、そんな日々が続く。
でも、案外居心地がいいんだぜ?
なんか研究所っつったらさ、白衣の胡散臭い連中が試験管片手に、薬品くさい部屋を行ったり来たりしてるようなイメージだったんだけど、ここは清潔そのもので、研究者にも愛想のいい連中が多い。
メシだってちゃんと食べてるし、状況がちょっと似てる捕虜だったときとは、そこんとこ雲泥の差だと言えるだろう。
一つだけ贅沢を言わせてもらうなら、この施設はどうも地下の奥深くにあるようで、おかげで外の空気が全く吸えないのが若干不満だ。
散歩代わりにトレーニングルームを使わせてもらえるんだけど、それじゃストレス解消には余りならないね。
テレビも見れるし新聞も読めるけど、相変わらずお前さんとの連絡はこの手紙だけが頼りなようだ。
せめて電話でもかけられたらいいんだけどな。

で、研究の結果なんだけど・・・正直な話、何も教えてもらってないんだ。
毎日いろんなメニューで検査が続くんだけど、その検査の結果分かったのは、俺が至って健康で、血圧も血糖も肝臓も腎臓も至極まともに機能してるってことぐらいだ。
俺の体と心の変化・・・ぶっちゃけ、魔人化に関することは何一つ分かってないし、その上今の俺は、気分を安定させる薬を処方されてるのもあるけど、あの時に比べてすごく心が落ち着いちゃってるから、感情の起伏も少なくて、つまりあれ以来変身することもなかったから、俺自身、あの経験は何かの間違いだったんじゃないかって思えるほどなんだ。
正直、俺って自分がそんなに特別な人間だとは思ってないし、どちらかというといつだって教室の一番隅で、立てた教科書に漫画を隠して笑いをこらえてたタイプの、いわゆるごく普通のオチコボレだったから、そんな俺の人生に、実は何か大きな使命が託されてたりとかするわけないと思うし。

でも、あの経験は確かに本物だったような気もするし・・・もう自分でもよく分からなくなってきてる。
特に、こんなどっちを向いても白い壁で囲まれた、うっとうしいほどに清潔な施設で、同じような毎日を二週間以上繰り返してたら、もう自分でも自分のことなんかよく分からなくなるってもんだ。
はぁ・・・総じて、退屈してるんだよ。

この戦争が始まる前までは、戦争なんてくそくらえだとずっと思ってた。
今でもその思いに変わりはない。

けど、実際に戦場に立ってみて、そしてこの手を実際に血に染めてみて初めて理解できることもあるんだと、今の俺にはなんとなく分かったような気がしてる。
俺はたまたま死なずに生き残って、生まれつきの素質なのか何なのかは分からないけど、こうやって優遇される身分になってしまった。
でも、俺の後ろには、俺がこの手で命を奪った敵の兵士たちや、俺の作戦ミスで死んでしまった仲間たちがたくさんいる。
だから、自分が今生きていることを喜んでいいのか、それとも嘆くべきなのか、どちらとも判然としない奇妙な気持ちに駆られることが、最近良くあるんだ。
大勢の人々が死んでいく中で、自分が生きていることが当たり前に思えない、死んでしまうことのほうがむしろ当たり前のような、そんな感覚・・・。
そしてさらに(理性では、これはホントは危険なんじゃないかと分かるんだけど)、この施設の上の世界で、俺の心のどこかが、戦争を、戦闘行為を「楽しんで」いたのも事実なんだ。
いつかまた、ホウキに乗って敵に火の玉をぶつけてみたいって、今も心のどこかで思ってる。
きっと、これだからいつまでも戦争はなくならないんだな。
だれかが、こんな気持ちを少しでも持ち続けている限りね。

物事が存在する理由、それは誰かがそれを必要としているからだ。
ニーズのないものは発生することすらない、それが人間の世界の常だ。
戦争が世界中に広まっているのも、きっと戦争を欲している人間が世界中にいるからなんじゃないのか?
ただ一つ言えることは、戦争っていうやつは、欲していようといまいと多くの人の命を奪うし、しかも死ぬのは、たいてい欲していないやつなんだよな。だから、俺はいつか戦争のない社会になるように、この戦争を最後まで・・・・・・

いや、何かおかしい。
どうしちまったんだ俺?
何を考えてる・・・?
戦争をやめようと、戦争を起こすのか?
それは結局、次の戦争を生み出して、さらに次が・・・。

なぁ、何が正しいんだ?
分からなくなっちまった。
もしかして、俺は「戦争がしたい」んじゃないだろうか?
教えてくれ。
俺はどうしたらいいんだ?

・・・ちくしょう、もう一度お前に会いたい。
ここから出たいよ。

早々



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日南本倶生(みゅんひはうぜん)
「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)