【12日目】『ABC理論』で自分の感情をつかむ(ニンゲンのトリセツ・改)
◆『無意識の習慣』を発見するツールがある
前回の話にあったとおり、僕たちの生活は『習慣』というものに支えられています。朝起きたとき「ここはどこだ?この布は何だ?」といちいち考えなくても、ベッドから起き上がって服が着られるのはこの『習慣』という「脳の機能」(=アタマの働き)のおかげなんです。
こういう便利な機能である『習慣』なのですが、時々僕たち自身でも気づいていない『無意識の習慣』が、あなたが幸せに生きようとする“足を引っ張る”ことがあります。
自分でもコントロールできない気持ちって、ありますよね? 特に“怒り”や“恐怖”といった激しい感情は、いくらアタマで「感じないようにしよう」と思っていても、“その時”が来たら勝手に出てきてしまうものです。
こういうふうに「勝手に出てきてしまう感情」も、ちゃんと前回説明した“手順”
にそって出てきています。問題は、僕たちが真ん中の「アタマ」の自動的な働き……そう『無意識の習慣』に、自分自身で気づいていないことなんです。
では、自分の中で勝手に起こっているこの“手順”を、自分の「アタマ」で知るにはどうしたらいいのでしょうか? 実は、そのためのとても便利なツールがあります。これは認知行動療法で昔から使われている
と名付けられた方法です。今回はこの『ABC理論』について、『モトの話』独自の解釈を加えながら、くわしくお話していきます。
◆『ABC理論』と犬を怖がる人
『ABC理論』とは認知行動療法(行動を分析しアタマで理解することで、ココロの働きをコントロールする心理療法)の一種で、エルバート・エリスという心理学者によって考え出されました。認知行動療法の現場では定番となっているメソッドです。
まず、『ABC』とは次の三つを指します。
前回から書いている『習慣』という「アタマの働き」は、この『ABC』でいうと『B』の部分に該当します。ここに『無意識の習慣』が隠されているので、それを『A:出来事』と『C:結果(感情)』から分析しましょう、というのがこの『ABC』理論の使い方です。
ではこの『ABC理論』の簡単な例として「犬を怖がる人」の中で起こっていることを見てみましょう。
犬が怖い人というのは、犬を見たら怖がります……当たり前です。この「当たり前」をABC理論の『A』と『C』に当てはめると、次のようになります。
A「出来事」=『犬を見た』
↓C「結果(感情)」=『犬が怖い』
僕たちは普段の生活で、このように自分の感情や行動をとらえています。ですが、よく考えてみると『A』と『C』の間に『B』である「信念(=考え方の基礎)」があることが分かります。つまり
A「出来事」=『犬を見た』
↓B「信念」=『犬とは、襲ってくる怖い生き物だ』
↓C「結果(感情)」=『犬が怖い』
という具合です。人によって犬が大好きだったり、逆に怖い生き物だったりするのは、この「Bの部分」が人によりけりだからだ、というのが『ABC理論』なのです。
さらに、ABC理論ではこの『B:信念』の部分を変えられれば『C:結果(感情)』を変えることができる、とされています。この例ならば、犬を怖がっている人も『B』の「信念」の部分である
B「信念」=『犬とは、襲ってくる怖い生き物だ』
という考え方を、なんとかして
B「信念」=『犬は人間にやさしい生き物だ』
というふうに変えられたら、『C』の「結果(感情)」である部分が
C「結果(感情)」=『犬はカワイイから怖がらない』
というふうに変わる、というわけなんです。
◆『当たり前』をあぶり出せ!
このように『ABC理論』は、自分自身で気づいていない「隠された信念」……つまり『無意識の習慣』を「アタマ」でとらえる=自分自身で気づくためにとても有用なツールなんです。
とはいえ、自分自身で普段の自分の行動を振り返ってみたとしても、なかなかこの『B:信念』を割り出すのは難しいものですし、いわんや気づいたとしても、それを“変える”ためには、それなりの経験や努力が必要になるもので、それはときにとても大変な作業になるかもしれません。
このやっかいな『無意識の習慣』がどこにあるのか? というと実は、あなたが普段暮らしている中で感じる
の中に隠されています。これはあなたが日常生活の中で「当たり前」に行っていることや、「当たり前」に受け取っているサービスなどの「当たり前」の中にこそこの『B:信念』がある、ということです。
一つ例を挙げましょう。こんな出来事があったとします……最近仕事場(学生なら部活)に入ってきた新人とあなたが廊下ですれ違いました。あなたは新人にあいさつをしましたが、新人はあなたにあいさつを返すことなく通り過ぎていきました。それを見たあなたは「ムッ」としてしまいました。よくあるシチュエーションです。
この一連の出来事を例の『ABC理論』で表すと
A「出来事」 = あいさつを返してもらえなかった
B「信念」 = ( ?? )
C「結果(感情)」 = ムッとしてしまった
こういうふうになります。
一般的に「新人はあいさつをするものだ」というのは『当たり前』です。ましてや先輩であるあなたから声をかけているのだから、新人ならあいさつを返すのはもっと『当たり前』だと思われるでしょう。だからこそ、最終的に「C:結果(感情)」が“ムッとする”というものになってしまうわけですよね。これは【好き嫌いゲージ】でいうと、針が急に『嫌い』側に動いたときの反応(軽い“怒り”)ですから、モトが減ってしまったときの反応です(イヤな気持ち=モトの減少)。
これはたしかに『当たり前』の感情に思えますが、こういうときにもやはり「B:信念」が存在するのです。つまりさきほどの『ABC』の「B:信念」=(??)の部分こそが、あなたが『当たり前』だと考えている『無意識の習慣』にあたるものなんです。
ではこの場合は「B:信念」=(??)には、どんな言葉が入るでしょうか? おそらく
「新人は先輩にあいさつをするのが『当たり前』だ」
くらいのものではないかと思います。もちろん『当たり前』の話ではあります。
ですが……この『当たり前』も、時と場合によっては「変化する」ものだったりします。たとえば先ほどの例だと、新人は「あなたに全く気づかなかった」のかもしれません。考え事をしていたり、悩みがあったり、ほかにも音楽を聞いていたり、周囲の雑踏にまぎれてあなたの声が届かなかったり……。そういうときは『当たり前』にやるべき「あいさつを返す」ことが難しくなるものです。
もしかしたらそういう事情があるのかもしれない……にも関わらず、最終的にあなたは「B:信念」にもとづいて“ムッとしてしまった”というわけです。それは実は「相手がどうか」ということと全く関係がない、あなたの「アタマ」の中にある『当たり前』=『無意識の習慣』がアタマから自動的にココロに送られたことによって、ココロが自動的に出してきた反応(感情)なのです。
こんなふうに、僕たちの日常生活ではしょっちゅう
が顔を出すものです。それが自分や周囲を幸せにするものなら別にそのままでいいのですが、もしも
なにかとイラッとするのをやめたい
すぐビクビクするクセを直したい
悪い方に考えてしまう心配性をどうにかしたい
など、あなたが自分の感情に振り回されていることがツラいと感じるなら、この『ABC理論』を使って自分の『当たり前』=『無意識の習慣』をあぶり出すことが、自分自身を変える出発点になるでしょう。
「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)