【連載小説】マジカル戦隊M.O.G.(第1回)

前略

大体俺は徴兵制には反対なんだ。
なんで俺がこんな服着て人殺しの手伝いしなきゃならないんだ。
「自分の国を守るため」に合法的に大量殺人が行われるなんて、狂ってるとしか思えない。
ただ、全員狂ってるから、俺の意見は世論的に「正しくない」わけなんだが。
ハァ・・・死ぬのはイヤだが、生きていくのはもっとイヤだ、こんな世界でな。

おっと、いきなり愚痴から始めちまってすまねぇ。
久しぶりの手紙がこんなんじゃ、さすがのお前も凹むだろうな。
でも、こんな書き出しのほうが、皮肉屋の俺らしいだろ?
こんな俺の話をまともに聞いてくれるのは、学生のときからお前さんだけだ。
マジで感謝してる。
何せ、今の俺に許されてる外部とのコミュニケーションは、この直筆の手紙だけだからな。
スマホもネットも閲覧のみ許されて、こちらからメッセージを送ることはできない。
機密の漏洩を防ぐためだから仕方ないけど。
この手紙だって、きっと検閲されてるんだと思う。
ただ、機密情報にかかわらないことなら、基本的に自由な内容で書いていいらしい。
この手紙が、お前の元に無事に届くことを祈ってるぜ。

ま、そんなこんなで俺も今年度から軍属なわけだ。
似合わねぇよな。
と言っても、俺は新設の魔道部隊、通称MOGへの配属だから、機関銃抱えて戦場を匍匐前進するわけじゃないんだけど。
俺はエレメント魔法系の修道士だから、主な任務は遠距離からの魔道力支援ってことになってる。
だが結局、いざ戦争ってことになったら、俺も人殺しの片棒を担ぐことになるわけだ。
こんなことしたくて魔法習ったんじゃないんだけどな。

いや、だからといって特に目的があったわけでもない。
ただ単純に、どの教科が得意?という質問に「魔道科です」と返事しちゃったら、ここにいたわけで。
魔道の素質、いわゆるMP保持者は十人に一人って言われるけど、たまたま俺がその中に入っちゃって、まぁ自分の特技を生かしたほうが成績上げるの楽じゃないか?
それだけのことさ。
単純にね。

それがこの体たらく。
ま、教育学部出た人間がみんな先生になるわけじゃないのと同じで、修道士の全員が修道院に入るわけでもなく、結局成績だの受験だのの波に飲まれて、なんとなく大人になったらこうでしたっていう、ただそれだけのことなんだけど。
で、その「なんとなく」の結果、その力を人殺しの道具にしろってなわけだ。

授業では散々、人に力を向けるな、って言っといてこれだ。

そう、MPのないお前にも分かってると思うけど、呪文と精神力で空間にエネルギーを生み出すこの力は、科学万能と謳われる現代でも、まだまだ多くの謎を秘めている未知の分野で、確かにその力は大いに殺傷力を持ってる。
だが考えてみろ、包丁で人を刺せば死ぬし、自動車で人を跳ね飛ばしても死ぬ。
それと同じように、俺たちが印を描きながら「ジュランデュラン・グ・ザララーン」とつぶやいて相手をワンドで示せば、そいつは焼かれて死ぬってだけだ。
ぶっちゃけ言ってしまえば、この世のあらゆるものが殺傷力を持ってるんだけど、道具と違ってやっかいなことに、この能力は訓練によってより大きな力を生み出せるようになる。
つまり、より鋭い刃物を買わなくても、より大きな車に乗り換えなくても、より上手く「人を殺す」ことを目的とするなら、魔法は非常に都合がいいことになるな。
いままで、そんな使い道なんて考えたこともなかったけど。

そもそも、国連によって去年まで禁止されてたんだぜ?
魔術の軍事利用そのものがさ。
それがどうだ・・・大国の首相が変わった途端、この有様だ。
クリーンな組織なんて、この世には一個もないんだろうな。

愚痴ばっかりになっちまってすまんねホント。

今日は制服が支給されたぜ。
戦地でも目立たないようにだろう、厚手の生地の黄土色のローブだ。
足にはブーツ、これは他の陸上部隊と同じものだろう。
それから、いつもの三角帽子じゃなくて、黄土色の頭巾だ。
これがまた泣きそうなほど激ダサイけど、ま、戦地ではきっとこういう装備のほうが目立たないし、動きやすいんだろう。
そしてどうやら、明日から早速訓練生活が始まるらしい。
戦闘用のワンドの使い方から始まるようだ。

不謹慎な言い方だけど、その辺はちょっと楽しみなんだ、実は。
なんだかんだ言いつつ、結局俺、魔法が好きなんだな。
その杖を人に向ける日が来ないことを祈りたいね。

季節の変わり目でもあるし、お前さんが風邪なんか引いてないことも、ついでに祈っとくよ。
ていうか、元気でやってるか?
今度遊びに行ったら、またうまい魚食わせてくれよ。
時間ができたらまた手紙書くぜ?
あ、返事はいらない。
どうせ届かないからね、俺までは。

じゃ、またな。

早々


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日南本倶生(みゅんひはうぜん)
「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)