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【連載小説】聖ポトロの彷徨(第1回)
1日目
「前任者」の本とは大分違う。いや、全然違うと言った方がいいだろうか。意識がはっきりするまでに時間がかかった点は同じだが、それ以外は全く違うと言っていい。
今は転送が完了して7~8時間といったところだろう(地球時間でだが)。
完了当初は、本当に景色を見るのもままならないほどのめまいと吐き気と苦痛で、転送そのものが成功したのか否かも解らない状態だった。しかし時間と共に意識がはっきりするにつれ、この転送が失敗だったのではないかという疑念の方が強くなっていった。
なぜなら、周囲の光景があまりに「前任者」が残した本にある描写と、かけ離れていたからである。
だが結局、このコムログの記録から、転送そのものは成功していたらしいことが分かった。それはあまりに絶望的な「成功」だった訳であるが。
件の『前任者の本』によると、私が転送先に選んだこの場所は、前任者が最初に到着したといわれる「ピト」と呼ばれる町であったはずである。
本によると、この町は緑に囲まれたのどかな田舎町で、郊外には美しい川が流れ、その川辺にある広場で、毎年正月に「ポトロの集い」が行われていたという。人々は温厚かつ、ひかえめな性格で、とりわけ異世界からの来訪者である「ポトロ」には大変親切に接したという。
私が到着したこの場所は、先に述べたような、のどかな田舎町とは全く違う。いや、町ですらないと言ったほうがいい。赤茶色の乾いた大地に、枯れた木がまばらに立ち並び、かつて川だったと思われる場所は、ごつごつした岩の荒れ野となっている。当然周辺には人影もなく、まばらに民家の跡と思しきくぼみが散在しているのみである。川や集落の跡から判断するに、確かにここは、件の本にあるピトのようである。
いや、かつてピトだった場所、と言った方が正しいかもしれない。
私は集落の跡の中に、体を休めることができる場所がないかを、未だに少し吐き気とめまいが残る体に鞭打って探索をしてみたが、残念ながら日差しや風雨をしのげそうな形状のものが何一つない、という結論を出さざるを得なかった。私は持ってきた荷物の中から折り畳み傘を取り出し、それを組み立てて乾いた地面に斜めに設置した。石で柄を固定して、その中に頭を入れて、数時間休養を取ることにする。何せまず体が言うことを聞かなければ話にならない。
【記録中断】
【記録再開】
・・・目が覚めたら夜になっていた。
夜空にはたくさんの星と、二つの月が輝いていた。この星々の中に我々の太陽が見えたりするのだろうか? などと、少しだけロマンチックな気持ちになるも、目の前に依然として広がる荒野が、私の思考を否応なく現実へと引き戻す・・・こんなはずではなかったんだが。
タイムリミットは、地球時間で三ヶ月。
だがこの様子だと、おそらく三ヶ月で任務を達成することはままならないだろう。まず人を探すところから始めなくてはならないとは。
【記録終了】
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