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【連載小説】マジカル戦隊M.O.G.(第9回)

前略・・・

愚痴を聞いてくれ。
前回、式神送るのもう無理とか言っておきながら、また式神なのにもちょっと関係ある。
要は、脱走して、失敗したんだけど。

もともと体は強いほうじゃないんだけど、そんなのお構いなしの電気ショック拷問が続いてな。
最初に一言、お前たちに話すことはない、と言ったっきり黙秘をすることにして・・・だいたいヤツらむかつくんだよ、ぶっきらぼうで偉そうでさ。すぐ殴るし。人から情報を聞きだそうとするんならもっと丁重に扱うべきだと思わんか?・・・で、かび臭い取調室でそっぽを向いて黙ってたら、とうとう敵さんも痺れを切らしたらしく、俺を金網のある部屋に連れてって、そこに鎖で結びつけて、下にある機械で電気ショック。
もうベタベタなB級アクション映画みたい。
それで余計に腹立ってさ、もう絶対に何にもしゃべってやるもんかと決めて・・・まぁそもそも俺が知ってることなんてハナから何にもありゃしないんだけどな・・・で、ぐおおおとかうおおおおとか言いながら、気絶するまで我慢。
MPないから魔法でどうにかするのも無理だし、とにかく意識がなくなるまで耐えるしかない。
敵さんも何でもいいから魔道部隊について知りたいだろうから、殺すまではしないと思うし。
とはいえ、正直死んだほうが楽だと何度も思ったね。
いや、マジでこれはダメだ。

で、3回目の電気ショックの日、気付いたら自分の独房に戻ってて、床の上に無造作に上半身裸で放り出されてたんだけど、なぜかその時、そばに人の気配を感じた。
振り返る気力もない状態でボーっとしてたら、耳元で女の声が
「MOG隊員だな。助けに来た。」
とささやいて、いきなり何かを腕に注射した。
その注射のおかげか、5分ほどで立って歩けるまで俺は回復し、改めて何事かと部屋の隅にいるはずのその人物に目を凝らした。
それは、ニンジャだった。
いや、ニンジャみたいな人、というべきだな。
目出し覆面からスニーキングブーツまで、全身びっしり黒ずくめで、ベストには目立たないけどたくさんのポケットが付いてる。
あの中にきっと、小さいけど殺傷力の強い、いろんな兵器が隠されてるんだろうな。
俺より頭一つ分背の低い小柄なその女は、暗い部屋の隅の影の中にいるんだけど、そこに人がいると全く分からないくらい気配がない。
まさにニンジャだ。

ニンジャは俺に黒い布をかぶせて目立たなくすると、開かないはずの独房のドアを開けて、そこいらにいた警備兵を秒殺する。
俺は安全が確保できたら彼女のところまで誘導され、暗がりに隠れて彼女がエリアの敵を一掃するまで待つ。

彼女は武器弾薬をほとんど使わず、背後から敵兵に忍び寄って、主に足技で首の骨をへし折る。
移動しながら教えてくれたんだけど、どうやらカポエイラとかいう技らしい。
名前だけ聞くとなんかふんわかする感じなのに、実は一撃必殺の暗殺拳だとは、世の中わかんないぜ?
その脚の動きは、まるでダンスを連想させる、美しくも華麗な円運動が中心で、不謹慎にも自分が戦場で殺し合いを見ているのを忘れさせてしまう。
ただ、もし彼女が敵だったら、きっと美しい悪魔を見ているような気持ちになるんだろう。

まぁ、そうこうしてるうちにどうやら要塞の裏口にたどりついたようだった。
出口と思しき扉を開け、彼女と二人で建物の外に出た。
これで安心だと胸をなで下ろしたとたん、なんと茂みの影から10人以上の敵兵が、マシンガンを構えて飛び出してきたんだ。
もうだめだと思った瞬間、彼女が俺の首ッ玉にかじりつき、俺もろとも、そのまま元の建物の中に飛び込んだ。
飛び交う銃弾と硝煙の匂いの中、俺はなすがまま入り口に倒れこみ、ドアが閉まってオートロックがかかるのを見てた。

ほどなくして、彼女は力なく俺から体を引き剥がし、そしてすぐ隣にどうと倒れこんだ。
仰向けになった彼女の背中を中心に、大きな血だまりが作られていく。
俺はとっさに彼女の背を起こし、息をさせようと覆面を剥ぎ取った。
がっは、と薄い唇から大量の血を吐き出した彼女の面持ちは、少し色黒で顔が小さく、通った鼻筋と細い目が印象的な、一見ふつうの少女だった。
その細い目に血の混じった涙をたたえ、彼女は一言「ごめんな」と言ったっきり、だらりと首を垂れて動かなくなった。
名前も知らないその女を床に横たえると、俺はその場にひざを突いて、動かない黒ずくめの物体をずっと見下ろしていた。
不思議と涙は出なかった。

数分後だろう、俺は気付いたら敵の兵隊に周りを囲まれていた。
なす術もなく両手を挙げて立ち上がった俺の後頭部を強い衝撃が襲い、次に意識が戻ったのが、今この式神を作ってる、前よりずっと厳重な独房だったわけだ。
もう抜け出す望みはない。

そんなわけで、今度こそ最後の連絡になるだろう。
もう俺を助けられるヤツはいない。
だから彼女と廊下を歩いてる間に回復した、いくばくかのMPのすべてをこの式神に費やす。
軍にはもう救援を要請しないことにした。
だって、またあの女ニンジャみたいな悲しい犠牲者を出すのヤだしさ。
そこまでして守ってもらう価値が、俺にあったのか?
今だって、その疑問に押しつぶされそうなんだ。

今までいろんな愚痴に付き合ってくれてありがとう。
MPがなくなってきたからこれでお別れだ。
お前と奥さんの幸せな未来を願ってやまない。
俺のほうが先に約束を破っちまうことになりそうなのが心残りだよ。
次に会うときまで死ぬな、ってやつな。

命が当たり前に他人に奪われる狂った世界に成り果ててしまったけど、お前たちだけは生き残ってくれ。
生きて、子を産んで、命の大切さを教え込んでくれ。
かしこいお前たちの子供なら、きっとそれが分かる人間になるはずだ。
だから・・・頼んだぜ?

早々。じゃな。



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日南本倶生(みゅんひはうぜん)
「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)