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【エッセイ】手に「て」と書いてある男の物語
◆ぼんのくぼという『名前』
学生時代、群ようこさんのエッセイで体に『ぼんのくぼ』という名の部位があることを初めて知った。首の後ろの少し凹んだ場所のことを指すのだそうだ。どんなものにも名前があるのだなぁと感心した。
◆手に書いてある「て」
僕の手には平仮名で「て」と書いてある。手相がそういう形をしているのだが、文字が読めるようになった幼児期にそれを発見して
(て、って書いてあるから、名前が「手」なんだな)
と妙に納得したものだ。実はこの手相は「ますかけ型」という名前のとても珍しいものだそうで、自分の手相が周囲の人々のものと違うと気づいたとき
(どうして手なのに「て」って書いてないんだろう?)
と、逆に不思議に思ったのを覚えている。
中学生の頃、家にあった手相占い本を読んでみて、自分の「ますかけ型」が少数派のものであると初めて知った。そしてその時、自分の手相はこういう市販の本ではほぼ占うことができないことも分かった。
ますかけ型の手相については、市販の手相本にはほとんど書かれていない。あったとしても、本のどこか一ページくらいに「コラム」という別枠で『珍しい手相』という感じで紹介されているくらいだ。確か、ますかけ型は一〇〇人に一人くらい、両手ともますかけ型の人は一万人に一人くらいだと読んだ記憶がある。僕は両手ともますかけ型だ。その時はちょっと「フフン♪」と思った。
◆ますかけ型がもたらす人生の大成功
ますかけ型の紹介には必ずと言っていいほど「偉人の手相」「大成功の手相」と書かれていたので、僕は本来なら今ごろ総理大臣か石油王になっているはずなのだが、残念ながら今は家に食べ物がオートミールしかないような暮らしぶりである。ただ、この生活がきっと将来の「大成功」につながっているはずだ、と信じて毎日を乗り切っている。
今日という日の連続体こそが、人生なのだ。
(2021年10月 日南本倶生(ひなもとともき))
※今月の課題図書はこちら
『だいじ だいじ どーこだ?』
(作:遠見才希子 絵:河原瑞丸)
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