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【連載小説】マジカル戦隊M.O.G.(最終回)

編者から皆様へ(あとがきにかえて)

まず、この本が後世まで永く読み継がれることを心から祈ります。

きっと『出版』という形をとってこの世にこの本が現れ出でるのは、これが最後の機会と思いますから、もしこの本をお読みになった方がこの本の価値にお気づきになられたら、大変お手数で恐縮ですが、この本をそのお手にて別の紙に写し取って、できるだけ多くの写本をお作りいただけたらと存じます。それほどに、この本は今後の人類にとって、最後の救いとなる本なのです。この本が消滅するとき、人類の歴史は幕を閉じるものと考えて差し支えないでしょう。

すでにマスコミなどでお聞き及びの通り、現在我々人類は、魔王率いる謎の“モンスター軍団”に対し、圧倒的な劣勢に追い遣られております。

モンスターによる占領地域は、「彼」からの手紙にあった通り、化石燃料も電気も使用できない、不毛の世界となりつつあるのは、よもや周知の事実であります。人類に残された時間はもはやあまりなく、従って我々は生き残るために、あらゆる知恵と力を振り絞る必要があります。

もうこれまで我々が当たり前に振りかざしていた、経済観念や民族意識といったもので、人類同士がいがみ合っている場合ではありません。一人でも多くの方が、目の前に突きつけられた現実をできるだけ早く受け止め、人類全体が、モンスター軍団に対して一致団結できるよう願っております。

この本は、お読みになられた方はすでにご存知の通り、モンスター軍団がどのように生まれたのかが事細かに記されている、世界で唯一の本であります。

そして、編者である私は、この本が本当に「魔王になってしまった私の友人」が書いたものであることを、ここに宣言いたします。このことをお疑いの方もおられるかと思いますが、もし万一この本が私の考えた妄想、でっち上げの絵空事であったとしても、その内容が今後人類が生き残るために必要な知恵で満ちていることは、疑う余地もありますまい。人類はもはや、食物連鎖の頂点たる惑星の支配主ではなく、単にモンスターのえさとして備蓄される存在と、なりつつあるのです。

しかしながら、もし彼らがその強大な魔力を以って、食料たる人類の存在を必要としなくなる日が来たならば、我々人類にはもはや、滅亡という選択肢しか与えられないのです。まさに我々は、種族全体がモンスター軍団に、生殺与奪権を掌握されているわけであります。

今後人類が一生物種としての原点に立ち返り、己の身を己で守れるような進化を自ら勝ち取らねば、まるでろうそくを吹き消すがごとく、その種は立ち消えてしまうでしょう。私はこの本が、できるだけ多くの人類が立ち上がり、自らの力で明日を勝ち取れる存在になれるような、一助になると信じております。

さて、圧倒的な魔道的能力を持った魔王のモンスター軍団に対し、我々人類に残された対抗手段はといいますと、現在のそれは絶望的なほど貧弱で矮小に思えるかもしれません。

しかし私は、ここで皆様に重要な事実をお伝えいたします。この事実はおそらくまだ魔王本人(すでに人ではありませんが)ですらも知らない内容であり、もしかしたら今後、人類に未来を取り戻す最後の希望であるのかもしれないと、私は考えております。

「彼」からの手紙に記されていたように、「彼」の出征中に私の細君が男児を出産いたしました。もちろん当時「彼」にはそのことを知る由もなかったでしょうから、手紙の内容はおそらく、私たち夫婦をからかうための冗談だったのでしょうが、実際に「彼」が出征して間もなく、私の細君が妊娠していることが判明し、ややあって無事出産を終えたのです。

しかし、ここで皆様にお伝えしなければならないことは、その子は実は、私と細君の間にできた子ではなかった、ということであります。恥ずかしながら告白すれば、「彼」が兵役に出征する直前、私との結婚前だった私の細君は、実は「彼」と最後の別れを交わしていたのであります。そして、その折に身ごもった子供が、生まれた男児であったわけであります。

つまり、この子は「魔王の実の息子」と言える、恐るべき存在なのです。

「彼」がまだ人間であった頃に、私と共に過ごした高校・大学時代において、トップとまでは行かないにしろ、「彼」は魔道課ではかなり優秀な学生でありました。また、私自身にはMPはありませんが、私の妻には人並みのMPがあり、そもそも「彼」と同じ魔道課出身でありました。ゆえに、この子には相当な魔道の素質があると私は勝手に想像しております。つい先日も、我が家の納屋がなぜかいきなり燃え上がる事件があり、原因はいまだ分かっておりませんが、おそらくまだ言葉もおぼつかないこの子が、何か夢でも見たからなんじゃないかと、周囲はすでに噂しておりました。

もし、この子が将来強力な魔道師となって、実の親である魔王に与することになれば、もはや人類に未来はありますまい。だがしかし、想像していただきたい・・・もし魔王と同等の魔力を持った人間が存在したら、それは魔王の軍団に対する大いなる脅威となるのではないか・・・と。

今現在、この子はモンスターの一味ではなく、れっきとした人間でありますので、もしかしたらこの子は将来、我々人類にとって「最後の切り札」となり得るかもしれないのです。

ゆえに私どもは、この子を守るために、あらゆる手段を尽くさなければならないと思っております。そして、この子が将来的に魔王の脅威となりえるよう、あらゆる手段を以て、教育を施す必要をがあると認むるものであります。

しかし残念なことに、今の社会には、この子が「魔王の息子」だというだけで、あるかどうかもまだ分からないその「秘めたる力」を我が物に、などと考える欲深い者もおりましょうし、また将来この子が災厄をもたらすかも知れないから今すぐ殺すべきだ、などと心無いことを平然と口にする者もおりましょう。

そういった愚かな者の手にかかり、この子が幼い子供のうちに命を落とすことのないよう、私はあえてこの子の名前をここで明かすことはいたしません。

そんなことよりも、この本を世に送り出すことができた今、私は残された科学と魔法文明の粋を集め、この運命の子を「安全に未来へと送り届けること」こそ、次なる私の使命であると考えております。

この子は間もなく、誰にも知られていない古代遺跡の中にある、強力な結界により幾重にも守られた秘密の装置の中で、永い永い眠りに就くこととなります。この装置には一定のプログラムが施されており、もし将来において、人類がお互いの利害関係を超え、一つの生物種族として共通の敵に対抗しうる『精神の進化』を遂げることができたならば、その時こそ、この子は魔王を倒し得る勇者として目覚めることでしょう。そしてその後に、残された人類を束ねて、モンスター軍団に対抗できる魔法使いの集団、その名も

「マジカル戦隊」

を組織し、モンスターにおびえる人類の夜を照らす、最後の灯し火となるでしょう。

私は、その日ができるだけ早く来ることを願ってやみません。

最後に、私の唯一無二の親友でありました「彼」=魔王につきまして、彼がなぜ魔王となる道を選んだのか、彼が魔王となることで、我々人類にどのようなチャンスをもたらそうと考えたのか、につきましては、その答えこそ、人類の未来を切り開く鍵であるように私は思います。

ただ、その答えはきっと、この本を読んだ人の数だけ存在するでしょう。大切なのは自分なりに考え、自分なりに答えを見つけようと努力をすること、そのものなのかもしれません。

人類に輝ける未来がありますように。

= 糸冬 =

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日南本倶生(みゅんひはうぜん)
「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)