『天気の子』は、なぜ「田端」が聖地?地形的考察
新海誠さんが監督をする『天気の子』を観てきました。そんな中で、なぜ「田端」が聖地に選ばれたのかが気になったので、考察してみました。
おことわり
・この記事は『天気の子』のネタバレを含む独自考察です。作品を視聴してから読んでいただくことをオススメします。
・このような記事を書くのは初挑戦です。読みにくいところがあるかもしれません。ご了承ください。
・私は、東京周辺の散策を趣味にしているただの文系学生で、地学などを専門的に勉強しているわけではない為、記事の内容全てが正しいという保証はできません。
・私は『天気の子』を1度鑑賞しただけであり、内容に間違いが無いとは言い切れません。
・他の人の考察記事を読んだわけではないので、考察内容に被りがある可能性があります。
はじめに
『天気の子』では、新宿周辺の数多くの場所が聖地として出てきました。特に、私はTOHOシネマズ新宿さんにて鑑賞したのですが、映画館を1歩出た瞬間から聖地でしたからね。
ほかにも、代々木の廃ビルや、小田急線新宿駅~南新宿駅間の踏切、のぞき坂(ここは『冴えカノ』でも有名ですね)などなど、たくさんあります。新海誠監督の前作『君の名は。』も、須賀神社など、新宿周辺の景色が描写されています。それらについても書きたいことはありますので、今後時間がとれれば書いてみたいと思います。
(代々木の廃ビル。2019.4.20友人撮影)
ちょっと遠い「田端」
上記の通り、新海誠作品は新宿の周辺がモデルに描かれているものが多いです。そんな中で、今回、物語の最後のシーンでも使われるほどの重要な場所が、田端駅周辺なのです。物語の中で、田端駅周辺は、陽菜の住むアパートのある場所として登場します。しかし、地図を見ればわかる通り、田端駅は、新宿駅から少し離れた位置にあります(山手線 新宿-田端間10km / 1周34.5km)。なぜ、田端という場所が聖地として選ばれたのでしょうか。
(田端駅南口前、聖地である坂道の写真、2019.7.30撮影)
考察のきっかけ
私は、某タモリさんがブラブラする番組がきっかけで、1年ほど前から街歩きをするようになり、東京23区周辺だけでもたくさんの地形があることを知りました。そして、さらに東京の地形に興味を持つようになった私は、つい数か月前、とある本を購入しました。それが、内田宗治さんの『地形で解ける!東京の街の秘密50』という本です。
(実業之日本社 公式HP)
以下の考察はこの本の116ページ「王子の台地を石神井川が突き破った?それはいつどうして起きたのか」に書いてあった内容の一部を参考に考察したものです。
当ページに書かれている本題の内容についてはあまり触れません。気になった方はぜひ購入して読んでみてください。
地形から考察する
では、本題に移りたいと思います。ここから本気のネタバレが来ます。
物語が進んでいく中で、3年間雨が降りやまない状況となり、東京の標高の低い地域一帯は水没してしまいます。しかし、ラストシーンで帆高が陽菜のもとを訪れる際に、穂高は3年前に陽菜が住んでいたアパートへ向かっているのがわかります。つまり、アパートは水没しておらず陽菜は引っ越しをしていないということが考えられます。そして、田端駅南口付近の坂道(以下「例の坂道」)で再会することになるのですが、例の坂道も水没していないのです。一方で、田端駅へは水上バスのようなもので来ているので、駅自体は水没してしまっていると考えられます。
ここで、国土地理院が公開している色別標高図を見てみましょう。
これを見ると、王子駅から上野駅にかけて、細長い台地のようなものが続いているのがわかります。この台地には、花見で有名な飛鳥山公園や、道灌山などといった「山」とつく地名や、多くの寺社があります。この台地の西側の谷筋は、上野公園の不忍池へ向かって南下していますが、これは、もともと石神井川が流れていたと考えられています(現在の石神井川は王子駅付近から東へ流れ、隅田川へ注いでいます)。そして、台地の東側は、縄文時代の一時期に起こった、海面が上昇する「縄文海進」による海食崖(=海の波によって削られてできた急な崖)であるとされています。現在、この付近を走る京浜東北線や東北方面の新幹線、田端駅以南の山手線は、この海食崖の下を、崖に沿って走行していることがわかります。
作中でも、冨美さんが「かつて下町のあたりは海だった(セリフうろ覚え)」とも言っていましたね。
(田端駅周辺の色別標高図。地理院タイルをもとに作成)
(PowerPointによるやっつけ解説図。上の図から作成)
田端駅周辺をさらに大きく拡大してみましょう。
(田端駅周辺をさらに拡大した画像。地理院タイルより作成)
(上の図の、A-B間の標高断面図、地理院地図の機能により作成)
聖地になっている田端駅南口の坂道(以下、例の坂道)を通るようにして台地の幅の距離を測っても、160mほどしかありません(赤線)。そして、やはり同じ坂道を通るように断面図A-B(オレンジ線)を作成してみると、線路の通っている海食崖の下側は、標高が6m程度、旧・石神井川側の標高も、せいぜい12m程度しかありません。一方で、例の坂を含む台地の標高は、22mには達していることがわかります。また、田端駅南口の標高は、15m程度であることがわかりました。
以上のことから、
・標高6~12m程度までの水面上昇で、田端駅のホームは水没する。
・標高12~15m程度までの水面上昇で、田端駅側、旧・石神井川側はともに水没するものの、「例の坂道」は水没せず、王子駅~田端駅~上野駅付近の細長い台地は島のような状態になる。
という考察が得られます。
・・・・・・(8/7追記)・・・・・・
地理院地図には、「自分で作る色別標高図」という機能があることを教えていただいたので、少しいじってみました。
自分で凡例を変えることができるので、標高差をよりはっきり見ることができるようになりますね。(この機能を使いこなせる人なら、もっとわかりやすくできるかもしれません。)
また、私はまだきちんと使ったことがないのですが、知り合いから「カシミール3D」や「スーパー地形」には「東京スペシャル」という色分けの仕方があることを教えていただきました。標高5m以下と、7mから100mをグラデーションで表すもので、東京の地形がわかりやすく表示できるようです。ただ、地理院地図の「自分で作る色別標高図」ではあまりハッキリと色分けされた地図にならなかったので、何らかの工夫が必要そうです…。
・・・・・・(追記終了)・・・・・・
おまけ:水面上昇はどの程度でどこまで?
では、実際に水面が上昇した状態を可視化してみましょう。
Flood Maps というウェブサイトがあります。ここでは、海面が上昇した時にどこまで水没するかというシミュレーションを行うことができます。
非常にメッシュが粗いのですが、海面を+20mに設定しても、田端の台地周辺は水没していないことが確認できます。
(Flood Mapsで海面+20mで表示した田端周辺)
おわりに:結局、なぜ田端が選ばれた??
私は、『天気の子』の作品そのものだけを見てこの考察を思いついたわけではありません。ラストシーンが終わったあと、「結局、どうして田端だったんだろう…。」と考えていました。そんな中で、無数の名前が流れていくエンドロールの中から目に飛び込んできたのが、
「ロケハン協力 内田宗治」
という文字でした。
内田宗治さんの著書はつい最近読んだばかりです。その瞬間、海食崖と石神井川の流路の話、道灌山や飛鳥山公園の話が思い出されたのです。
新海監督や他のスタッフたちは、ただ「眺めがいいから」などという理由で田端を聖地にしたわけではない。穂高と陽菜が、2人が離ればなれになってしまった「例の坂道」で再会するには、陽菜のアパートが水没して、陽菜が引っ越すことになってはいけない。そして、自分たちが原因で発生している水面上昇によって水没した景色が目の前に広がっている場所であるべきだ。そう考えたのだと思います。
「帆高と陽菜が3年後に同じ場所で再会する為にも、水面上昇した海が目の前まで迫るものの、陽菜が留まっていることが出来る場所。」
内田宗治さんの助言もあって、そのような場所を絞った結果が、田端であったと。私はそのように考察しました。
正解かどうかは全くわかりませんがね。
おわりのおまけ:聖地巡礼について
『天気の子』公式サイトでは、次のような文が掲載されています。
映画『天気の子』関連場所訪問(聖地巡礼)についてのお願い
拝啓 平素より格別のご愛顧をいただき、厚く御礼申し上げます。
映画『天気の子』の本編中に登場する、または関連のある場所への訪問を予定されている皆様におかれましては、近隣住人の方々への配慮、及び節度のある行動、マナーに十分心掛けていただきますよう
お願い申し上げます。
敬具
「天気の子」製作委員会
聖地巡礼にあたっては、近隣住民や通行する人たちへの配慮をきちんとしましょう。迷惑な行為をすることは、映画そのものの印象まで悪くすることにつながります。
おわりのおまけのおまけ:反省会
・こういうの書くの初めてのくせに構成練りなしの1発書き
・noteのエディタのUIに手こずる(メモ帳以外のテキストエディタ利用経験なし)
・画像の編集方法をよく知らないのでペイントとパワポで誤魔化す
・内容薄くない??
次はもっといい記事が書けたらいいな…。
あと、地理院地図の、色別標高図の凡例の色分けって、もっとうまく調整とか出来ないんでしょうかね。結局わからず全体が青緑っぽい色の図になってしまった。おすすめの方法や他に使える地図データなどを知っている方がいれば、ぜひ教えていただきたいです。
聖地の地形的考察記事のリンク
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