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仕事ゼロの覚悟で東京から静岡へ。”才能あったのに残念です。” と言われた私の今の姿

ファッションデザイナーの村松です。ファッションブランドの『muuc』や、ニット文化を広げるプロジェクト『AND WOOL』を運営したり、国内生産を応援し合えることを目指すファッションブランド『CARL VON LINNÉ』のデザイナーをしたりしています。

私は現在、故郷でもある静岡県に拠点を置いていまして、アトリエ周辺には茶畑があったり、牛舎があったり、そんなのどかな田舎であくせく活動をしています。

地方で活動しているファッションデザイナーは珍しいので、なぜ静岡で活動しているのか。とよく聞かれることがあるので、今回は拠点を移した当時の想いや、地方で活動することについて思っていることをお話していきます。


※stand.fm で音声配信しています。

東京から静岡へ拠点を移した理由

私はずっとファッション業界の中で生きてきた人間です。東京の専門学校を卒業してから10年ほどは、主に東京都内で活動していて、オフィスも千駄ヶ谷とか、表参道駅の近くにありましたし、青山でセレクトショップもやっていました。

今もそうかもしれませんが、やっぱり当時は日本のファッション業界の中心は東京でしたし、私も当たり前のように東京で過ごしていたのですが、いろいろな想いもあり2011年に拠点を静岡に移すことにしました。

私がなぜ静岡に行こうと思ったのか、改めて考えてみると、次のような理由があるのかな、と思います。

ものづくりが続けられる環境を自分で作りたい

アパレル業界を取り巻く社会の変化や産業構造の問題に対する不安は、この業界に入ってからずっと感じていたところではありました。

まず、私が学生のころから、すでに職人さんたちの高齢化は進んでいて、現場で働いてる人たちは基本的には60代以上、むしろ70代以上みたいな現場ばかりでした。

専門的な知識と経験が豊富な方々なので、現場としては職人さんが引退されたら困ります。ただ、そうやって若手の採用や育成に本腰を入れられずに、人手不足で廃業してしまうところも少なくありません。

日本だけでなく、世界的に見ても人手不足は深刻化していて、例えば中国でも、20年ぐらい前は、機械化するよりも手作業でつくる商品の方が安く早く作ることができる。という時代があったり、15年ぐらい前は新規のOEM会社もたくさんできていましたが、今では製造業の人手がどんどん少なくなってきており、簡単に高度なモノづくりはできなくなっています。

そんな現状を目の当たりにするにつれ、このままだとものづくりができなくなる未来が来るなと思っていました。

製造だけでなく販売に関しても、著しい時代の変化を感じます。ファッションブランドは、一昔前まではセレクトショップなどの販売店さんにお洋服を卸して売ってもらうというビジネスモデルが一般的でした。しかし、ファストファッションやネットの普及など社会の変化に伴って、街中のセレクトショップはどんどんなくなっていっていますよね。

それらを鑑みると、自分がファッション業界で生き続けるためにも、持続的にものづくりをしていける環境。そして、自分たちでも販売していける環境を自ら作っていかないといけないと、ずっと思っていました。

ただ、昔はそんなことをぼんやりと思いながらも、そうは言ってもそんな簡単にできないよな…と、どこか遠い未来のことのように想いながら、そのままずっと東京で活動していた。っていうような感じでした。]


唯一無二のストーリーを作るために

お洋服って、新しいものを作るのはすごく大変な一方で、コピーするのは簡単です。例えば、お金も時間もかけて新商品を開発して、それがすごくヒット商品になったとしても、あっという間に大手の企業さんに似たようなものを作られてしまう。なかなかこれは割に合わないなと。

しかも、似たようなものを作られるだけならまだしも、どうしても発信力の弱い私たちの方が逆にコピーしているように見られてしまいがちなんですよね。そうやって悔しい思いをしたことも多くありました。

だったら、簡単にコピーができないものを作らなければいけない。そう思ったときに、自分オリジナルのストーリーを作っていくことが大切なんだと改めて気づき、唯一無二のストーリーを作るうえでは地方にいること自体が大きな価値になるだろうと思って、移住への想いがどんどん強くなっていきました。

2010年の作品 ポートフォリオサイトに過去の作品を紹介しています 
https://keiichi-m.myportfolio.com 

きっかけは「東日本大震災」

直接的なきっかけとなったのは、2011年の東日本大震災でした。震災当時、私は青山にお店を持っていて、都市の脆弱性や、自分たちが行っている小さなファッションブランドの経済的な不安定さというか、やっぱりいろいろと感じることがあったんですね。

東京から人がいなくなり、長く自粛ムードが流れていたし、少し物流が止まっただけでも、多くの人々の生活が大きくぐらつくことを実感しました。当時、スーパーやコンビニから食べ物もなくなって、私は東京に頼れる仲間もそんなにいなかったので、これは困ったなと。

安定したビジネスは、安定した世の中があるからだということを痛感したし、安定した世の中っていうものは当たり前じゃないんだと改めて気付かされました。

そして、どうせだったら、今後何か起きたとしても大きな不安の中にいなくていいような、そんな生活がしたいと思い、地盤をしっかり作ろうと移住を決意しました。


『引退ですね。』と言われても。一度決めたら動かずにはいられなかった

地元の静岡に拠点を移そうと決意したものの、当時は地方でお洋服の仕事をするってなかなか珍しいことなので、周りからは結構厳しいことも言われていました。都落ちというか、「村松はもうファッションの仕事を辞めて引退するんだ。」と思われていましたからね。「才能あるのに、残念です。」みたいな感じでした。笑

「そんなことないんだけどな〜」と思いながらも、同時に、実際地方で活動するって想像以上に難しいんだろうなとも思って。ただ、私は決めたらすぐ行動してしまうタイプなので、仮にいったん仕事が全部なくなったとしても、未来を見据えたら、もう行っちゃった方がいいって思ったんですよね。

そして、思い立ってから数ヶ月後にはちょっとずつ移動を始めて、半年後には完全に活動拠点を静岡に移していました。


現在のアトリエは茶畑に囲まれた山間にあります

実際に移住してみてわかったこと

想定外だったのは、地方に行ってから、大きい企業さんからの案件が一気に増えたということです。仕事がなくなる覚悟でいた自分としてはかなりびっくりしました。

ただ、いま振り返ってみると、もしかしたら地方にいることが私にとってはちょうど良いフィルターとなっていたのかもしれません。

都内にいたときって、私はお店も持っていたし、当時20代後半で若かったので、毎日のように誰かしら訪ねてきてくれていました。ただ、いろいろな人とお話させてもらう中で、勉強になることもたくさんあれば、この時間は何だったんだろうみたいなときも結構あって。自分の時間も取られるし、交友関係も広くなりすぎて、そもそも私自身がそんなに人付き合いが上手じゃないので、うまく歯車が回っていなかったのでしょう。

でも地方にいると、感度の高い人とか、私に本当に興味のある人からしか連絡が来なくなるんですよ。そうなると私の方も、ご連絡いただいた方としっかりと向き合う心構えができたり時間もちゃんと作れるので、そのおかげでいろいろなお仕事に繋がっていたんじゃないかなと思います。


地方いいですよ、と伝えたい

静岡に移ってきてから10年以上が経ち、今では地域も巻き込んだ活動もできてきて、少しずつ思い描いてきたことが実現してきているのかなと感じています。

自然保護とアートを掛け合わせたプロジェクトも始動【 https://ittekinotabi.com/

私はニットの可能性を信じて、ニット職人を育てる活動や就労支援事業所さんとの取り組みもやっているのですが、地域の人や事業所さんとの関係もだんだんと良い形になってきていますし、また、ファッションやアートと繋げて、豊かな自然を守るような取り組みも少しずつできています。

小さいながらも、暮らしや生活、仕事と人の輪みたいなのものを作っていけているのが嬉しいですね。

あのとき、リスクを負ってでも移住をしてきて本当によかった。これから私自身もまだまだ将来を楽しみにしてますし、地方ならではのアプローチっていうものができればいいなと思っています。そして、それらはファッションデザイナーの私にしかできないないナニカになるような手ごたえも感じています。

移住を考えている方から実際どうですかと聞かれたら、私は「地方、いいですよ」って、自信を持って答えます。

最近では新型コロナウイルスの流行も受けて、地方であろうと関係なく活動できるようになってきていますし、実際に、私がデザイナーを担当しているCARL VON LINNÉでは、主要スタッフも地方に住んでいる人がほとんどです。オーナーの中田さんたちはシンガポールですし。もう本当、物理的な距離はあまり関係なくなってきているのかなって、そんなふうに思っています。


〜お知らせ〜

国内生産にこだわる【CARL VON LINNÉ】では、2024年4月12日㈮から21日㈰まで夏コレクションの発売を予定しています。今回は、ショートパンツやスカートなど初アイテムも並びます。すでにルックブックは公開されています。どうぞご覧ください。

【CARL VON LINNÉ 2024 夏コレクション 発売】
発売開始:2024年 4月 12日 (金)  18:00(予定)
発売終了:2024年 4月 21日 (日)  23:59
販売:https://cvl-japan.com/ 
※発売時にLINEにてご案内をお送り致します。
まだ登録されていない方は、是非ご登録ください。 登録はこちら

https://cvl-japan.com/ 

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村松啓市
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