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世界の再構築者は3匹の猫耳少女に殺される!? 4-3 スズの思い出とルコ③

「……」

 無事に放課後を迎えることができた俺たちは、自宅へ向かって自転車を漕いでいる。
 だが、先程から、というより例の弁当バトル以降からルコの様子が明らかにおかしい。
 自分の弁当を食べて具合が悪くなったのだろうか。

「ルコ。体調悪いのか? 大丈夫か?」

 心配になり、ルコの自転車に近づき横から顔を覗き込んだ。

「ひっ!?」

 完全に油断していたのか、目が合った途端にルコは俺とは反対側に仰け反りバランスを崩した。

「あぶない!」

 ルコが自転車ごと斜めに倒れていく。
 俺はルコの手を取ろうとしたが、すでに手の届く範囲を超えていた。
 ルコが俺から離れていく光景がスローモーションのように目に焼き付けられる。
 だめだ、間に合わない。
 そう思った次の瞬間。

『キキーッ』

 突然、自転車のブレーキが鳴り響いた。

「つぅ!? あ、あれ?」

「虫、ルコに何したの?」

 さっきまで後ろにいたはずのキキョウが、いつの間にか俺とは反対側へと回り込み倒れるルコを受け止めていた。
 ものすごい反応速度だ。
 キキョウはルコを受け止めたまま俺を睨みつけている。

「ルコ、ごめんな急に覗き込んだりして。」

 俺はいったん自転車のスタンドを立てるとルコに近寄った。

「い、いえ。私がぼーっとしていたのが悪いのです。キキョウ。タカシさんは悪くありませんわ。」

「そう。ならいい。」

 キキョウはそう言うとルコから優しく手を離した。
 だが、どうしたというのだろう。
 今だって、俺と目を合わせようとせず顔はそっぽを向いている。

「やっぱりルコの様子がおかしい。虫、覚悟。」

 キキョウがいつだか見たことのある抜刀の構えを取る。

「キ、キキョウ。本当にタカシさんは悪くないですの!」

 キキョウは構えをやめない。
 どうやらルコの声がその耳には届いていないようだ。

「キキョウ! ちょ、ちょっとまって! ってうわ!」

 あの時よりも殺意がこもっている気がして、思わず尻餅をついてしまった。
 目線が下がったことにより、キキョウを下から見上げる構図となる。
 そこには感情のこもっていない、それこそウジ虫を見るようなキキョウの目が俺を見下ろしていた。
 あたかも、ただの道端にいる虫を殺そうとしているかのように。

「キキョウ! ちょっとタンマ! タンマ! タンマ〜!」

 もう死語かもしれないそれを連呼して冷や汗をかいていると、顕現されるであろう刀を掴もうと腰に構えたキキョウの手に別の手がそっと重ねられた。

「キキョウ……ちがうの……やめて……」

 様子を見ていたリオンが傍らに立ちキキョウを制止していた。

「リオン、どうして? 何が違う?」

「わたしの……口からは……言えない。」

 キキョウは質問するがリオンは答えようとしない。
 そのまま2人はしばらく見つめ合い、キキョウが口を開いた。

「どういうことかはわからないけど、虫は無罪のようね。ルコ、心配した。」

「ひゃ!?」

 キキョウは抜刀の構えを解くと、そのままルコを優しく抱きしめた。
 横顔しか見えていないが、キキョウの頰には涙が伝っている。
 少し大げさなとは思ったが、キキョウは心底ルコを心配していたのだろう。
 そして、キキョウはルコを抱きしめたまま顔だけをこちらに向けた。

「虫、すまなかった……と言うより、誤解を招く行動をとるな。」

「あ、ああ。すまない。」

 確かに、ルコを驚かせたのは俺が悪かったが、キキョウの勘違いは俺のせいなのだろうか。

「キキョウ……やっぱり……すなおじゃない。」

「……」

『ズゴ!』

 キキョウのチョップがリオンの頭部に炸裂する。
 これもいつか見た光景だ。

「ふぇ……」

 キキョウはいつもの調子に戻ってくれたようで何よりだ。
 それによる安堵のせいか、今日もなんだかイベントずくめでどっと疲れが押し寄せてきた。
 だが、休むことも許されないのか、頭の中にあの声が響いてきた。

『タカシちゃーん! うまくやってるわねぇ。』

 そう、ツキの声だ。
 うまくやれているのかはわからないが、ツキは一部始終を全て監視しているのだろうか。
 俺は気だるくその声に頭の中で返答する。

『ツキさん。ずっと見てるんですか? 暇なんですか?』

『あらぁ。ずいぶんな言い方じゃなぁい。せっかく次のステップに進むタイミングを教えてあげようと思ったのにぃ。ツキお姉さんの言うことをしっかり聞かないとスズちゃんを取り戻せないわよぉ。』

『わかってますよ。それにそちらの目的も同じなんですから、思い出をスズに返せないとそちらも困りますよ。』

 利害関係が一致しているので、どちらの立場が上という話ではないはずだ。

『あらぁ。タカシちゃんも言うようになったのねぇ。でも私は優しいタカシちゃんのほうが好きよ♡』

『ぜ、善処します。』

『うふっ。いい子ぉいい子ぉ。』

 ツキは俺のことをからかっているのだと知りながらも、言葉で好きと言われると男としてはどうしても動揺してしまう。

『で、次のステップってなんなんですか?』

『それは、家に帰ってからのお楽しみよぉ。だから今日は寄り道しないで早く帰ってきてねって伝えようと思ってぇ。』

『けっきょく今は教えてくれないんですね。わかりました。買い物だけしてまっすぐ家に帰ることにします。』

 そうして、俺はツキとの話を終えて意識を目の前に向けた。
 すると、3人の顔が俺の眼前に並んでいた。

「うお! な、なんだよお前ら!」

「虫が突然固まって動かなくなったから。」

「タカシ……さん……大丈夫……?」

「……」

 ルコは相変わらず無言で、顔を合わせないようにすかさずそっぽを向く。
 いったい俺はなにをしてしまったのだろうか。
 だが、それよりもツキの言っていた次のステップとやらが気になる。

「大丈夫だよ、ちょっとぼーっとしてただけだ。ほら夕飯の買い物してちゃっちゃと帰ろう。」

 そして、俺は急ぎ家に帰ったが、まさかあんなにも過酷な試練が待っていたとは想像もしていなかった。

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