世界の再構築者は3匹の猫耳少女に殺される!? 2-12 3匹+α⑤
俺は、赤く腫れた頰をさすって壊れていない方のソファーに腰掛けた。
その前には騒ぎの張本人である女が床に正座している。
これから糾弾される立場であるにもかかわらず、女の正座姿には何か気品が感じられてたじろいでしまう。
「で、ではそろそろ説明してもらっても良いですかね?」
俺は黄髪の少女と女の仲裁に入ったが、2人の胸に挟まれてしまったのだ。
女は気にした様子はなかったが、黄髪の少女は胸にコンプレックスでもあったのか奇声をあげて思いっきり俺の頰をビンタした。
その後は黄髪の少女も落ち着いたようでごめんなさいを連呼して謝ってきたのでとりあえずは良しとした。
問題はこの女である。
少女達の口ぶりからも、指示を出していたのはこの女のようであるし、事情を聞かないことには何も話が進まない。
ましてや、一度は殺されかけているのだ。
納得いく説明がなければそれ相応の対応を取らせてもらうつもりでもある。
「とりあえず自己紹介からしますか。俺は近藤高志って言います。」
「タカシちゃんねぇ。私の名前は月(ツキ)、先程は妖術の話もしたと思うけどぉ、その名の通りタカシちゃん達の世界で言うところの妖怪に近い存在かしらねぇ。」
妖怪だと? どう見ても人間のお姉さんにしか見えないのだが。
ここで突っ込んでしまってはまた話が前に進まなくなってしまうため突っ込みたい衝動をぐっとこらえる。
「わ、わかりました。あとは、こちらの方々はツキさんのお子様達ですか?」
「そううよぉ。」
そう言って女はドヤッと大きな胸を張る。
だが、女と3人の少女を見比べるが、明らかに母親であるツキが若すぎるように見えた。
なんとなくであるが、外見はツキが20代半ば、少女達は10代半ばに見えるのである。
「あ、あの。失礼なことをお聞きしますが。お子様方の年齢からすると、ツキさんは若すぎるように思うのですが、本当に母親なのですか?」
「あらぁ。」
率直な質問をしたはずだが、女は頰に手を当てて色気のある視線を向けてくる。
嫌な予感がする。
「ちょ! ちょっとまっ……」
『むぎゅう』
急にツキが抱きついてきた。
「ちょっと! お母様! 話が進まなくなるからやめて!」
「えぇ、だって嬉しいじゃないぃ? 若いだなんて言われたらぁ」
俺はツキからなんとか離れて、コホンと咳払いをした後に改めて本題に戻る。
「では、失礼ついでにお聞きします。ツキさんはいまおいくつなんですか?」
「覚えていないわぁ。」
「え?」
「だって、私達は寿命がないもの。意図的に消滅させられなければ生き続ける存在なのよねぇ。」
ものすごい設定であるが、百歩譲って先程からの話を信じるとすれば、この話もそうなのであろう。
自分がどのぐらいの年月を生きてきたかわからなくなるほど長く生きたことになる。
「わ、わかりました。では、お子様はそれぞれおいくつなのですか?」
「無神経。」
青髪の少女がぼそりと呟いたが、愛想笑いを見せてとりあえずスルーすることにした。
「彼女達は3つ子でねぇ、それぞれ歳は16よぉ。赤がお姉さんで、つぎは黄、末っ子が青ねぇ」
自分の娘を信号機扱いかよ!
「あ、年齢は私と同じですか……」
「虫と同じにしないでもらいたい。」
青髪の少女は所々に嫌味を織り交ぜてくるが、また愛想笑いでスルーしておこう。
3人の少女達はツキと比較すると生まれたばかりなのであろう。
俺と同い年ではあるのだが。
「では、お名前を聞かせてもらっても良いですか?」
「あらぁ? 先程言った通り、赤、黄、青よぉ?」
だから、信号機かよ!
「あの……。これはどういうことですか?」
「あぁ。ごめんなさいねぇ。人間はちゃんと生まれた時に名前をつけるのよねぇ。私たちはある程度長生きしないと名前を貰えないのよ。」
「そうなのですね……」
なんだか、悲しくなってしまった。
自分に名前が付いていないってどんな気持ちなんだろう。
それはあくまで人間側の主観である。
少女達を人間と同じように見てはいけないのだろうが。
だが、俺はつい自分の心を相手に重ねてしまった。
ツキは俺を見てまたしても心を見透かしたように。
「あらぁ。タカシちゃんはやっぱり優しいのねぇ。」
顔に出ていたのであろうか。
そう言うと、ツキは視線を向けてくる。
確かにこの少女達の母親であるんだなと実感できるほどに、そのツキの目には温もりがあった。
「やっぱり」というのは、少し引っかかるが、どこかで会ったことがあるのだろうか。
そこで突然、ツキはまた思いついたかのように。
「あ! そうだ! あなた達、せっかくだからタカシちゃんに名前をつけてもらいなさい。それにタカシちゃんもこの子達を拾ってから名前をまだつけてないじゃない!」
またしても4人は硬直した。
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