世界の再構築者は3匹の猫耳少女に殺される!?  2-14 3匹+α⑦

「い、いいんだね? いくよ?」

「ん……。」

 黄髪の少女はそういうとコクリと小首を縦に振り、頭を俺の方へと差し出した。
 恥ずかしいのか、俺に目を合わせようとはせず、顔は真っ赤だ。

『ごくり。』

 なんだかものすごくいけないことをしている気分だ。
 目の前でか弱そうな少女がこんなにも萎縮している。

(か弱い?)

 いやいや、さっきまであんなにでかいハンマー振り回してたじゃないか。
 それに、たとえ命令されて彼女の意思ではなかったとしても、俺を本気で殺そうとしていたことには変わりない。
 さっきのビンタだってめっちゃ痛かったし。
 そうだ、これは彼女への報いでもあるんだ。
 俺は無理矢理に自分を納得させると、下ろしていた両手を静かに彼女の耳の高さまで持ち上げた。

「「ひっ!」」

 赤髪と青髪の少女が、俺へ視線を向けてくる。
 どんな想像をしているかわからないが、それは明らかに無慈悲な者を軽蔑するときに向ける視線だ。
 だが、俺の手はそんなことではもうとまらない。
 徐々にゆっくりではあるが俺の手が、綺麗な黄髪の間から顔を出す猫耳へと近づく。
 猫耳までの距離が縮まるにつれて、赤髪と青髪の少女の顔も蒼白になってく。

『どくっ。どくっ。どくっ。』

 近づくにつれて、俺の心音も比例して大きくなっていく。
 こんな単純な動作なのに時間が引き伸ばされたかのように長く感じた。
 眼前の猫耳が本物であるかどうかがもうすぐ判明する。
 偽物であって欲しいような、本物であって欲しいような。
 一世一代の大勝負だ。
 決してやましい気持ちなどではない。のだ。
 これも、スズを取り戻すために必要なことなんだ。

「ど……ど……。」

 俺の手が猫耳まであと数センチというところで、黄髪の少女が何か言いだした。

「あれ? どうしたの? やっぱり怖いかな?」

「どんだけじらすんじゃーーっ! じれったいわ! 男だったらガシッとさわらんかい!」

「ぐふっ!」

 そう言って黄髪の少女は回し蹴りで俺を吹っ飛ばした。

ーーー

 俺は痛む脇腹をさすりながら、赤髪の少女の頭部を見てい驚愕した。
 てっきり出来の良い猫耳カチューシャぐらいに思っていたのだが、赤髪の間から見える猫耳は確かに頭から直接生えているように見えるのだ。
 そして、時折本物の猫の耳のように音のする方向へとその向きを変えている。
 耳の付け根の筋肉によりその方向を変化させているところが見うけられたので特殊メイクでもなさそうだ。
 結局、猫耳を触ることはできなかったが、それはしっかりと本物であることが確認できた。
 ちなみに、黄髪の少女はじれったい俺に嫌気がさしたのか、激怒して俺を吹っ飛ばした後に目頭を釣り上げてそっぽを向いてしまった。
 こちらの様子が気になるのか、耳だけはこちらを向いていたが。

「あ、あんまりマジマジと見ないでくださる?」

 耳まで真っ赤にした赤髪の少女が、俺の言葉を待たずに持ち上げていた髪を下ろした。
 なんだかその顔を見ると少女の見てはいけない部位を無理矢理見せろと言ってしまったような妙な罪悪感を感じる。

「あ、ありがとう。どうやら猫耳は本物のようだね。」

「当たり前ですわ。」

 赤髪の少女はそう言うと、真っ赤になった顔を持ち上げた。
 マジマジと近くで見ていたので、持ち上げられた少女の顔と俺の顔は10センチほどしか離れていない。

「ひゃ!?」

「!?」

 赤髪の少女は俺の顔が近くにあったことに驚いたのか、その大きな瞳をさらに大きく見開いて俺と目が合った。
 そして、俺も同時に驚いていた。
 少女との顔が近かったからではない。
 気付いてしまったのだ。
 俺はこの瞳を知っている。
 今思えば猫耳を確認するまでもなかった。
 その瞳に全ての答えがあったのだから。
 ダンボールを開けて俺と目が合った子猫の瞳、今でも鮮明に覚えている。
 あの公園で見た純粋な瞳が目の前にそのままあったのだ。
 もうこれは疑いようのない事実であると確信する。

(この少女たちはあの時の子猫だ。)

「な、なんですの? マジマジと見て……」

 赤髪の少女も俺から目線が離せないようで、そのままの状態で硬直している。
 猫耳少女とはいえ、異性とこれほどまでに顔を近づけた経験がなかった俺も我に帰り硬直してしまう。

「なになにぃ!? さっきから見てたらなんでタカシちゃんといい雰囲気になってるのよ!?」

 突然ツキの声が割って入ってきた。
 その言葉は、親として不純異性行為に発展するかもしれない事態を制止したと言うよりかは、なんだか違う思惑が感じられたが。

「何を言ってるんですの!? なんでこんな奴と!」

 赤髪の少女はそそくさと俺から顔を遠ざけてると、腕を組んで仁王立ちになる。
 ちょっと胸がキュッとなり寂しい気もしたが、俺も正気に戻ったので、状況を整理することにした。

「とりあえず、あなた方が本当に俺が拾った3匹の子猫だったということがわかりました。」

「こんな辱めを強要しておいてその上から目線。どの口が言う。」

 青髪の少女がすかさず嫌味を挟んでくる。
 だが、確かに瞳を見ればすぐにわかっただろうし、今思えば猫耳が本物だったとしても俺が拾った3匹の子猫であると断定する要素には欠けていた。
 冷静に考えればわかったことだろうに俺はどうかしていたようだった。

 冷静ついでに、もう現実離れしたことが起き過ぎていて、この少女がちが昨日拾った3匹の子猫だったという事実もすんなり受け入れることができた。
 だが、俺に起こった不思議な現象の数々はまだほとんど説明が付いていない。
 まだまだツキに説明してもらう必要がありそうだ。

「タカシちゃん、それはそうと名前はどうするのぉ?」

 おそらく、俺と少女たちは無意識にそれを流そうとしていたが、ツキはニコニコとそれを見透かしたような笑顔を向けてきた。

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