魔王、猫になる。 第5話 魔王、嘘をつく。

 我輩は魔王である。名はトラ吉。

 なんだこのタイトルは。

 我輩は魔界を統べる魔王であるぞ。

 政とは誠実こそ全て。

 この我輩に偽りなどあるはずがなかろうに。

 だが、これも魔族に対する偏見からか、前世でもよくある事だったのだ。

 魔界では魔王ということだけで、人間にひどい偏見を向けられたものだ。

 もちろん魔族の中でも悪さをする輩はおるが、それは人間にも言える事であろう?

 魔族とてなんのメリットもなく人間を騙したりはしないのだ。

 余談であった。

「ちゃーちゃん? 脚にスリスリしてどうしたの?」

 なに、主人①よ。

 我輩のゆく先にお前の脚があっただけのこと。

 早くその足を退けるが良い。

「なに? また引き返してスリスリして。」

 主人①よ。

 我輩がどこへ行こうが我輩の勝手であろう。

 ちょっときた道を戻りたくなっただけだ。

「え? また戻ってきてスリスリして、まさか、まだおやつもらってないの?」

 さあ、我輩はこの辺りに座るとしよう。

 別に意図して主人①の脚のそばに座ったわけではないのだぞ。

 おや? お主の脚元に埃がついているではないか。全くけしからん、我輩が前足で取って進ぜよう。(棒読み)

『ちょい、ちょい』

「あら、おかしいわね。何か催促してるようだわ。まだおやつもらってないのかしら?」

 お、主人①よ。

 「おやつ」とやらをくれるとな。

 別に断る理由もないので、貰おうではないか。

 うむ、カツオ味であるな。

 この味は、魔界の酒がよく合いそうだ。

 我輩はマグロのほうが好きであるが、これもまた美味であるので良しとしよう。

「あれ!? 今日のおやつはもうあげたよ!」

「え!? だってちゃーちゃん食べてないって……」

 ふん、誰も食ったなど言ってはおらん。

 そもそも我輩は喋れんからの。

 主人①が勝手な解釈をしたに過ぎん。

「あー、またやられたかー。」

 主人②よ、それは心外であるな。

 やるも何も、我輩は我が道を行き来したまで。

 この誠実なる魔王になんたる無礼か。

 言ったであろう?

 メリットもなく人間を騙したりはしないのだと。

 全く、こやつらの頭は一向に成長せんの。

 我輩を見習うが良い。

 どれ、腹も膨れたことだ。

 昼寝でもして、機が熟すまで待つとしようぞ。

 そう、その時が来るまでは。

したり顔の魔王


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